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エルドライ本陣、急襲!

何だと思いながら、音がどこからなのかを把握しようと努める。それはすぐに判明した。王都の城門からフルアーマーを装備した騎士たちが咆哮を上げながら飛び出してきた。


どのくらいの数がいただろうか。数千はいるだろうか。せっかく態勢を整えようとしていた前衛部隊を突き破ってこちらに向かってくる。このままではまずい、と判断した俺は、下がれと命令しようとした。だが、そのとき、男の声が響き渡った。


「方陣! 方陣! 方陣!」


兵士たちが動き出す。こちらを攻撃している歩兵たちを盾で押し返しながら、そして、槍隊が前進していく。気づけば、俺を中心に正方形の陣形が組まれていた。見事な移動だと感心してしまった。


騎馬隊は前衛を突き破り、こちらに向かって突撃を開始していた。槍隊が一斉に槍を水平に構えて防戦の姿勢を取る。俺も手綱を握る手に力が入る。


と、ブライアルの陣に肉薄してきたそのとき、騎士たちは突然方角を変えた。もともと俺たちが張っていた陣は横に長く展開していた。そこに方陣に陣形を変えた際に左右に隙間ができた。彼らはそこをめがけて突撃を行った。


「ま、マズイ! 敵の狙いは本陣だ!」


サウズがそう言って叫ぶ。彼は懐から何かを取り出して、空に向けた。と同時に破裂音が響き渡る。我に返ったときには、サウズの姿はそこにはなかった。


俺多を避けて突撃していった騎士たちは、槍を水平に構えてエルドライの陣に躍り込むようにして突撃していった。予想外の攻撃だったのだろう。見る間に突き崩されていき、本陣の深くまで攻め込んでいった。


だが、その攻撃もそこまでだった。敵兵は徐々に押し返されていき、次々とその数を減らしていった。


それでも、戦いはなかなか終わらなかった。俺たちを攻撃していた歩兵たちは斬られ、あるいは逃げ出していた。水を求めていた者たちも、その場にうずくまって動けなくなっている者もいる一方で、多くの者が逃げうせていた。後で聞いたところによると、別の隊に助けを求めたらしいが、かなりの者が斬られたらしい。


本陣の戦いはなかなか収束せず、俺のところからはほぼ、鎮圧しているように見えたが、相変わらず戦いの声は続いていた。ようやく静かになったのは、一時間近く経った頃だった。


何とも言えぬ、不気味な風の音だけが聞こえていた。ブライアルからは何も言ってはこず、どうすればいいのかが困ってしまった。ただ、司令官らは直れと声をかけて槍の構えを解かせていただけだった。


しばらくして幕僚の一人が現れて、敵の攻撃は止みましたと報告してきた。どうしてそう言い切れるのかと聞いたが、目の前に敵らしいものは一人もおりませんと言って、彼も困った表情を浮かべていた。


その後は、陣形を解除して、元の形に戻れと目入れがあり、兵士たちが動き出した。ここにきてようやく俺は緊張を解くことができた。


馬から降りて、用意された椅子に腰を掛ける。親父とオジキが戻ってきた。シェイスの姿もある。彼らの顔を見ると、ドッと疲れが襲ってきた。


「敵もやるじゃねぇか」


オジキが笑みを浮かべながらそんな言葉をつぶやいた。最初から狙いはエルドライの本陣であったらしい。先ほどの騎兵たちはいわゆる決死隊だったのだ。すでに王都の城門は閉じられていて、以前と変わらぬ様子を保っていた。


「それにしても、一体、何をしてやがんでぇ」


オジキが周囲を見回しながら怒りを露わにしている。


「敵が動いたンだぁ。どうして、北側、西側、東側の軍勢が攻撃を仕掛けねぇんだ。一気に攻撃を仕掛けりゃ、王都は落ちたんじゃねぇのかい。何をしていやがる! 臆病風にでも吹かれちまったか? ケッ、情けねぇなぁ」


「いや、舎弟。それは早計ですよ。先ほど攻撃を仕掛けてきたのは、トリデリアの一部の軍勢でしょう。まだ、王都の中には本隊が控えているはずです。きっと、その部隊が出て牽制をしていたのでしょう」


「そうですか……。それは、しかたがないですねぇ……」


オジキはそう言って歯ぎしりをしていた。シェイスはまだまだ油断は禁物です、などと言いながら周囲を警戒していた。


その後、幕僚たちが集まってきて、軍議が開かれた。わが軍の被害は軽微で、死者数が三十名と報告された。軽装だった敵の歩兵もなかなか強かったらしく、鎮圧するのに骨が折れたと言っていた。ということは、トリデリアの兵はこのくらいの連弩があるとみてよく、こんなに強い兵士と戦わねばならないのかと、俺は少し暗鬱な気持ちになった。


まずは命を落とした兵士たちを丁重に葬るようにと指示を出し、敵の動向を注視せよと命令を下して軍議は解散となった。


しばらくすると、サウズがやってきた。彼は首筋に返り血を浴びたまま俺の前でひざを折った。


「先ほどは失礼しました。敵の攻撃は食い止められ、大帝陛下、皇帝陛下はご無事でございます。ご心配はご無用でございます」


そう言って彼は頭を下げた。ああ、よかったとは思うが、素直には喜べなかった。そんなことを考えているとサウズがさらに言葉をつづけた。


「ユアザライ王様にあらせられましては、すぐに本陣までおいでいただきたく存じます。大帝陛下が、今すぐ参れ、とのご下知でございます」


……何だよ、面倒くさいなぁ。

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