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盾を構えい!

前衛の部隊は、一時は敵に突破されそうになっていたが、やがて少しずつ持ち直していくのが見て取れた。そのとき、サウズが俺の許にやってきた。彼は馬を駆りながらこちらに来たが、さすがに国王と馬首を並べるのは不敬であるために、そのすぐ近くで下馬した。片膝をつき、口を開く。


「ユアザライ王様には、お心安らかに。敵の攻撃は無事に食い止められつつあります」


その声に、全体が安堵の息を吐いていた。


サウズの言う通り、陣の真ん中を貫くほどに深く攻め入った敵であったが、やがてその勢いは止まり、徐々に左右に展開した部隊に挟撃される格好となった。まずはこれで、敵の進行を食い止められたなと思ったそのとき、再び城門が開いて、今度は鎧を装備した兵士たちが繰り出してきた。


完全防備を施した部隊で、彼らはいわゆる戦いのプロだった。見る間もなく前衛の部隊は切り伏せられている。彼らはよく戦い、よくその勢いを止めていたが、徐々に押されていき、突然、陣形がいびつなものになった途端、ばらばらに砕けていった。その直後、


「前衛部隊が破られましたぁ!」


という絶叫にも似た声が響き渡る。言うまでもなくブライアルの兵士が声を上げたのだ。全軍が声にならない声を上げた。彼らにも、大帝や皇帝が言っていた、戦いには基本的に加わることはないという言葉を信じていた。今まさに彼らはその予想を超えて戦いの正面に立たされたのだ。


軍勢がざわついている。サウズが静まれ、と叫ぶが、状況は改善するどころか、さらにざわめきが増していた。なおも彼は静まれ、静まるのだ、と絶叫しているが、収まる気配はない。


「静まれぇ!」


思わず俺が声を上げた。その途端、ざわめきが収まった。先ほどとは打って変わって、シンとした空気に包まれていた。気が付くと、全員の視線が俺に集まっている。


「て、敵は寡兵である! 落ち着くのだ!」


そう言うと、彼らは平静を取り戻して眼前の状況に対峙する姿勢を見せた。それを見て俺は、少しホッとした。


「……お見事でございます」


サウズがそんなことを言ってきたが、一切感情がこもっていない。まあ、コイツは放っておくことにしよう。一方で、俺のすぐ前に控えていたオジキが、背を向けたままカッカッカと笑いながら、やるじゃねぇか、と呟いていた。俺は大きく頷く。


前衛部隊は一見崩壊したように見えたが、破られたのは真ん中だけで、左右の軍勢は立てなおしてなおも攻撃を加えている。さすがにこの根性は素晴らしいなと感心して見ていると、前衛突破した者たちがブライアルの陣のすぐそばまでやってきた。彼らは着の身着のままの姿だった。


「水をくれ! 水をくれ!」


まるで気が狂れたようにそんなことを叫びながらこちらに向かってきている。俺は反射的に、


「水桶を前に出せ! 水を与えてやれ!」


と叫んでいた。軍監のサウズがその必要はありませんと言ってきたが、俺は聞こえないふりをした。


すぐに兵士たちが水を満々と湛えた大きな桶を陣の前に置いた。すぐに人々が群がっていく。


……正視に堪えない状況が繰り広げられた。水を求めて人々が我先に桶にやってくる。桶は三つ出していたが、すぐにそこは黒山の人だかりになった。手で水をすくって飲む者の襟首をつかんで引きはがそうとする者、桶の中に飛び込み、すぐに引きずり出されて袋だたきにされている者……。ただ、本能のままに動く人々を見て、俺の心は痛んだ。


そんな中、武装したトリデリアの兵士たちの一部が、こちらに向かっているのが見えた。敵は前衛を正面突破しつつ、ブライアルの陣をも正面突破を狙っているかのように見えた。


「盾、構えい!」


そんな声が響き渡る。水を求めている者たちはこちらに危害を加えない限りそのまま捨ておくことにして、武装している者たちに集中するようだ。いい判断だ。さすがに幕僚たちもバカではないらしい。


盾を構えた兵士たちが整列する。その彼らに槍を構えた者たちが攻撃を加えたのは、その直後だった。鉄と鉄がぶつかり合う、何とも嫌な音が聞こえる。


敵の装備は軽微なものであるように見えた。いわゆるフルアーマーではなく、体を守るエプロンのような鎧を装備し、頭に鉄の兜をいただいていた。その兵士たちをわが軍の兵士は槍で突き崩していく。たまに、盾の上を乗り越えて乱入してくる者もいるが、そうした者たちは後ろに控えた兵士に容易に討伐されていた。


一進一退というよりも、完璧にこちらが相手の攻撃を完封している。喜ばしいことではあるけれど、ただ、敵の攻撃はこの程度のものではないだろうと俺の本能が告げて来ていた。何で、というには説明ができない、不思議な感覚だ。これは、実の父であるトルシルエの血が俺に教えているのかもしれない。


「陛下、油断は禁物でございます」


シェイスがそう言って馬の轡を取った。彼は俺に背を向けたままだが、その背中に向かって大きく羽化づいた。


そのときだった。聞いたことのない、不気味な音が聞こえてきたのは……。


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