大帝と二人っきり
「そなたを呼んだのは他でもない」
大帝はそう言いながら疲れた表情を見せながら椅子に腰を掛ける。
「その顔は、どうして自分一人が呼ばれたのかと訝っておるな? ホホホ、隠さんでもいい。顔にすべて書いてある」
……そりゃ誰だってそう思うだろうとは思うが、敢えて何も言わないでおく。
「倅を同席させてもよかったのじゃがな、あれは話がわからん。ただ、余の気分を害するのみで、いいことはひとつもない」
大帝はそう言って、寂しそうに笑う。
「そなたを呼んだのはなに、余の気まぐれよ。他意はない。ただ、トルシルエによく似たそなたと、喋りたかっただけじゃ」
そう言って彼はニヤリと笑った。
「それにしても、よく似ておるな、そなたは。いくつになった」
「もうすぐ十八歳になります」
「十八……。若いのう。余にもその若さがあれば、な」
そう言って彼は大きなため息をつく。
「そなたにはわからぬだろうが、余がそなたの体を手に入れることができるならば、すべてを失ってもよい。この地位も、名声も、家来も、むろん、領地もな」
俺は何と言ってよいのかがわからず、黙っているほかはない。それでも彼は言葉を続ける。
「若いうちは、やりすぎるくらいにやらねばならぬ。過剰と言われようと、やりすぎであると言われようと、な。マズければ過剰にはならぬのだから。そして、年を取ってモノがわかってきたらば、今度はグッと締めなければならぬ。腹の中でコトを進めねばならぬ。そうして、年を取って体が動かなくなってきたらば今度は派手に。どこまでも派手にせねばならぬ。覚えておけ」
「は……ははっ」
「十八か……。余が十八の頃は……戦場を駆け巡っておった。そなたの父、トルシルエもまた、戦場を駆けておった。あの忌々しいトリデリアの奴も、な。」
「トリデリア王とは昔馴染みだったのですか……」
「馴染み? そんな優しいものではない。互いに領地を削りあっておったのよ。懐かしいのぉ。三人のうち、どちらかが手を結べばよかったのだろうが、何故かそれをせなんだ。ただ、いつしか我らは背を向けあい、それぞれ逆の方向を向いて領地の拡張をするようになった。今から考えれば、余は、あの二人を失いたくはなかったのだ。いつしか奴らを出し抜いて戦場で再開して、完膚なきまでに叩き潰してやりたい。そう思っていた」
大帝は遠くを見つめながら、懐かしそうな表情を浮かべる。
「ただ、余がここまでになれたのはひとえに、あの二人が手を結ばなんだことにある。それは、感謝せねばならぬ。ただ……今になって思うのだ。とはいえ、それぞれが誼を通じておったのであれば、婚を通じて結束していれば、また、違った景色が見られたのではないか、とな。フフフ。今になっては夢物語だ」
「お察し、します」
「さて、ユアザライ」
「はっ」
「これから先、そなたはこの戦いの趨勢をどう読む」
突然現実的な質問が飛んできた。俺は親父の受け売りを語って聞かせる。
「水の手を断たれた敵は、死に物狂いでこちらに向かってくると推察します。言わば、死を恐れぬ者たちです。ちょっとやそっとでは膝を折ることはないでしょう。こちらも相当に心してかからねば、手痛い傷を負うことになるかと存じます」
「ホホホ。で、どうする?」
「その者たちを通してやればよいと存じます」
「ふぅん? 戦わずして、その者たちを通す、とな?」
「はい。ここから先には少し離れていますが、イツシという町があります。そこに水をふんだんに用意しておいて、敵にはそこに行けば水がもらえると喧伝します。ここからですと、イツシまで走れば小一時間で着きましょう。そもそも、喉が乾き切っている者たちです。死に物狂いで水を求めているでしょう。水がなければこちらに襲い掛かってくるでしょうが、水がもらえるとわかれば、そこに向かっていくと思います」
「それで?」
「王都から人を出すということは、城門が開いているということです。その瞬間を逃さずに、攻めに転じ、城壁の中に入るのです」
「そなたは……変わった作戦を立てるのだな。いやはや、なかなかの知恵者じゃ」
「お……恐れいります」
「じゃが、そんなには上手くはいくまいよ」
「はっ」
「敵が王都から出てくる際に城門が開く。そこに攻撃を加えるというのは、余も賛成だ。まさに、そのときを待っていたと言ってよいからな。ただ、出てきた者たちをそのまま通す、というのは難しいな。我らが通してやろうとしても、奴らは素直に通ることはないからだ」
「はあ……」
「考えても見よ。目の前に水があるのに、何で一時間も走って水を飲みに行かねばならぬのだ」
「……ツ」
「やはり、そなたを呼んだのは間違いではなかった。大いに楽しめるな」
「ハハッ」
「ところで……そなたは十八にもかかわらず、やはり女子を呼ばぬのか? 余が十八の頃は、毎夜女性がおらねば耐えられなかった……。もしや、そなたは、男色も嗜むのか?」
……そんなわけねぇだろう。




