やるじゃねぇか
大帝の作戦は、翌日から実行された。された、というのはあくまで俺の想像に過ぎないが。
というのも、その情報は秘匿されていて、こちらにまで伝わって来ていないからだ。毎朝必ず幕僚たちと軍議を開くことになっており、今朝は戦況について報告を受けたが、そうした工事らしきものが始まったという内容のものはなかった。
彼らは、兵士たちは意気軒昂。いつでも出撃できますと息巻いていたが、何となく眉唾ものに見えた。それはこちらにまで何となく漂ってくる雰囲気をみればわかる。勝ち戦なら乗るが、負け戦になれば、被害が大きくならないうちに、さっさと撤退したいという空気間を感じ取った。まあ、そんなもんだよね。
一応、何か新しい動きなどはないかと聞いてみたが、彼らは一様にございませんというばかりで、埒が明かなかった。というより、知らないのだろう。斥候を出して、敵だけでなく、他の部隊の動向にも目を向けるように。さもないと、ここ一番の手柄のタイミングを他国にとられることになると言ったところ、軍人たちは、国王様もまた、意気軒昂で頼もしい限りと、心にもないことを言ってきた。
大帝からは作戦については秘匿せよと言われているので、それ以上は聞かないし、シェイスらにも言っていない。ただ、それだけ大規模な工事を行うのであれば、バレるのは時間の問題じゃないかとは思うが、取り敢えずその頼みだけは聞いておこうと思っている。
軍監のサウズは軍議には出てこず、一体どこにいるのかさえもわからなかった。まあ、いないならいないでこしたことはないと思っていたが、昼食を摂っているときに彼は現れ、翌日の夜に皇帝陛下が伺候されるようにとのご命令です、などと伝えてきた。もう、ブライアルは完全にエルドライに従属した国であるかのような振る舞いに、オジキは何も言わなかったが、少しバカにしたような笑みを浮かべていたが、彼は全く意に介していなかった。
食事が終わると、シェイスが、大帝が言っていた女性の件はどうしましょう、などと聞いてきた。フィリアに会いたいか会いたくないかで言えば会いたい。ただ、この戦場に連れてくるかどうかというのは微妙な問題だ。今のところ、彼女が使うべき部屋はない。呼ぶなら呼ぶで、それなりの環境が必要だろうと言うと、その点は考えております、と彼は言った。ただ、それは今決断することではないので、時期が来たらとだけ答えておく。
「ぼち公」
唐突にオジキが口を開く。何だと思いながら視線を向けると、彼は、
「お前ぇ、俺たちに何か、隠しちゃいねぇか?」
などとニヤニヤしながら聞いてきた。親父に視線を向けるが、彼は無言のまま淡々としている。オジキはさらに口を開く。
「ここにいるなぁ、みな、お前ぇの目となり頭脳となり、手足となる者たちだぁ。隠し事はなしにしようぜ」
「どうしてそんなことを言うのです、伯父さん?」
「軍議で、手前ぇが何か新しいことが起こったか、何てぇ聞くなぁ、いかにも不自然だ。一体何があった?」
「……伯父さんには敵いませんね」
俺はそう言って苦笑いを浮かべる。
「舎弟……。シェンさんは国王様です。秘密にしておかねばならないことも、ありますよ」
「確かにそうです、兄さん。ただ、私は、今のシェンが秘密にしている情報は、秘匿性が低いと判断しました。本当に秘匿せねばならない情報であれば、もっと他にやりようがあったはずです」
……何だか、俺が怒られているようだ。秘密にするのであればもっとうまくやれ、と言われているように感じたが、それはある意味で当たっている。
「いえね、昨日大帝から、この戦いにおける作戦を聞かされたのです」
「ほう、面白そうな話じゃねぇか。聞かせてもらおうじゃねぇか」
俺はその作戦内容をつぶさに語って聞かせた。途中、大帝から意見を求められ、都度答えたことも正直に話をした。オジキは最後までうん、うん、と聞いていたが、話が終わると、カッカッカと機嫌のよさそうな笑い声をあげて呵々大笑した。
「そいつぁ、豪儀は話だぁな。川の流れを変えちまうなんざ、常人の考えることじゃねぇ。やっぱりあの、大帝って奴ぁ、ブッ飛んでやがるな」
対して親父は目を閉じて何かを考えている。
「それにぼち公、お前ぇもやるじゃねぇか。あの大帝の眼鏡に叶うなんざぁ、大きな誉だぜ?」
「そ、そうですか、ね」
「そうさぁ。これでお前ぇの値打ちってもんを、あの大帝に売り込むことができた。況や皇帝をおいておや。ブライアルの若旦那をしくじったら、とんでもねぇことになるってのを、奴らに知らしめたのさぁ。痛快じゃねぇか」
「そう、です、か、ね」
「そうさぁ。お前ぇは剣だけでなく、軍人としての才能もあったんだなぁ。俺ぁ嬉しいぜ」
「ありがとうございます」
そのとき、黙って聞いていた親父がゆっくりと目を開いた。
「その作戦、ちょっと注意をせねばならないね」
……全員の視線が、親父に集まった。




