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トリデリアの弱点を探せ!

「さすがは、トルシルエの息子、じゃな」


大帝はそう言って笑うが、眼は笑っていない。何とも不気味な雰囲気を漂わせ始めている。彼は満足げに頷くと、さらに言葉を続ける。


「じゃが、それだけでは足らぬ、な」


「左様ですか……」


「そなたの父、トルシルエが領土を拡張できなんだ理由が、それだ」


……一体何を言っているのだこの爺さんは。ブライアル王国は世界有数の領土を有している。一代でここまで領土を拡張したのは、実に立派なことだと俺は思うが、彼の中ではそれは違うらしい。


「確かに、敵を王都内からおびき寄せ、引き付けておいて叩く、というのはこの際、当を得た作戦であると言えよう。何と言っても、南側には、余や皇帝がおるからの。乾坤一擲の攻撃を加えて、我らの首を獲れば、トリデリアは勝利することになる。そうなれば、我がエルドライの領土は周辺国の草刈り場と化す」


彼はそう言うとクスクスと笑う。隣に控えている皇帝の顔が少し青ざめている。そんな彼のことなど知ったことではないとばかりに、大帝は言葉を続ける。


「ただ、それはあくまで、敵が出てきたらば、の話じゃ。出てこなんだときには、どうする。うん? 攻撃を加えて負けたと見せかけて撤退する。そこまではよい。それをやって、敵が出てこなんだときには、どうするのじゃ。戦いに赴き、命を落とした者たちは犬死になるではないか」


「……確かに、言われる通りかもしれません。ですが、私には、この作戦しか思いつきません」


「ホホホ。正直でよいの。やはり余はそなたを嫌いにはなれぬ。うん。よいよい。これ、そなたもよく聞いておけ!」


大帝は皇帝を一喝すると、地図の前をうろうろと歩き始めた。


「戦いというのはの、何が起こるかがわからぬのだ。だが、念入りに準備をすれば、こちらの思った通りの展開に持ち込むことが可能だ。今回の場合、ユアザライ、そなたが言った通り、敵を城外におびき寄せて一網打尽にする、というのが最も効果的な作戦であることは余も認める。問題は、どうやって敵をおびき出すか、じゃ。余は考える。おびき出す、のではなく、王都を出て戦わねばならぬ状況を作り出すべきである、と」


「父上、それでは……」


「そなたの作戦は甘いと先ほど言ったであろうが! 何度も同じことを言わせるでないっ!」


「は……ははっ……」


「そのためには、敵の弱点を突かねばならない。ここが急所ぞ、という点を突かねばならない。ユアザライ、そなたはわかるか」


「いっ、いや……私には……」


「よっく地図を見よ。目を皿のようにして地図を見るのだ。どんな城にも、どんな強固な城壁にも必ず弱点はある。人が作ったものだ。完全無欠の物は作ることができぬ。敵がそう思っているのであれば、もっけの幸いだ。必ず、必ず弱点は存在する。弱点は存在すると思って見れば、自ずと答えは見えてくるものだ」


俺は大帝の言うように、眼を皿のようにして地図を見る。そのとき、皇帝が口を開いた。


「父上。これだけでは、地図だけでは、この都の弱点などわかりはしません。現地を見て、情報を集めて吟味し、そうした上で弱点をあぶりだすものと心得ます。これだけでは、いかにも情報が少なすぎます」


「……ならば、今から、都の様子を見て参れ。情報を集めて参れ。行け」


「……父上」


「すべての情報を集めて吟味して作戦を立てることはもちろん必要なことではある。しかし、戦場において、情報が揃わぬ場合もある。いや、その状況が圧倒的に多いと言っていい。そうした場合、今ある情報を最大限に活用して敵の弱点を見抜かねばならぬ。余は、それまでそうしてきたし、そうしてきたことで、幾多の戦いに勝利し、エルドライを今の隆盛まで導いてきた。まあ、トルシルエなどは、困ったときはいつも突撃、というわかりやすい男であった。ただそれは、あの男の肉体と胆力があって初めて成しえることだ。体も小さい、臆病な余が勝つためには、頭を使うしかないのだ」


……もしかしてこの大帝は、息子に戦いのやり方を教えているのではないか。皇帝たる者、どんな場面でどんな戦い方をするべきかを教えているのではないか。そんなことをふと考えてしまった。ただ、そうしたいならば、息子と二人きりのときに話せばよいことであって、わざわざ俺を交えて話をすることではないと思うのだが。それは考えすぎだろうか。


……ふと、ある考えが頭をよぎる。いや、確かにこれがなくなればいろいろな展開が考えられる。いや、でも、それをするには、途方もない労力が必要だ。それに、それをやってしまっては、このトリデリアという国自体を変えてしまうことになりはしないか。


そんなことを考えていると、大帝がニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべた。彼は俺の顔を覗き込むようにして、猫なで声を出して話しかけてきた。


「なんじゃ。何か、思い当たることでも、あったかの?」


俺はゆっくりと大帝の顔を見る。


「なぁんじゃ。ほれ、言うてみぃ。苦しゅうはないぞよ」


「……水、ですか?」


大帝は目を丸くして驚き、絞り出すような声を出した。


「……ご明察、じゃ」

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