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トリデリア攻撃作戦

ブライアル王国が陣を張ったのは、崖下と呼ばれる場所だった。そのすぐ後ろにはエルドライの大帝・皇帝父子が陣を張っており、文字通り前衛を任されることになっていた。ただし、その前には各国の軍勢が犇めいていて、前衛とは名ばかりで、戦闘に巻き込まれる可能性は少ないように見えた。


着陣すると兵士たちはすぐに、防衛陣地の設営にかかった。土を掘って堀を作り、そこで掘り出した土を積み上げて土塁を拵えるなどしていた。俺は仮に建てられた小屋の中で、その様子をじっと眺めていた。


ややあって、俺はエルドライから呼び出しを受けた。何だと思いながら赴くと、各国の王が集められていて、軍議を開くのだという。


しばらく待っていると、大帝と皇帝が現れて、この戦いは長期戦になるので、各隊はゆめゆめ油断することの内容にしろという話がなされた。さらには、各隊にはそれぞれ十分すぎるほどの敷地を与えてあるので、各々砦を築くもよし、屋敷を築くもよし、軍監と相談して自由にすればよいという命令が下された。在陣期間は少なくとも三か月、最長六か月になると言われた。想像していたよりも長いなと思っていると、


「じゃによって、各隊、いろいろと不便もあろうから、国許から、身の回りの世話をする女性を呼んでも差し支えないぞ」


と大帝が言い出した。要は、女性を呼んでもかまわないということだ。まさかの、女性を伴っての大戦になるとは予想もしておらず、俺は面食らってしまった。さらには、


「ああ~これは、状況を見てからになるがの、戦いが長引くようであれば、臨時の遊郭を作って、兵士たちを慰撫しようとも考えておる。それは……ひと月後くらいに決めるとしようぞ」


とまで言い出した。籠城している都市の外に、町を作る気なのだ、このジイさんは。あまりのスケールの大きさに、俺は開いた口がふさがらなかった。


詳しいことは追って沙汰するという言葉で、その日の軍議は終了した。各王が退出していく中、俺はまたしても大帝から残るように命じられた。


大帝・皇帝の二人を前に、俺は一人対峙する。一体なんだ。何なんだ。


俺一人が呼ばれた意図がわからずに、何とも言えない表情で二人を眺める。大帝はニコニコと機嫌のよさそうな表情を浮かべており、皇帝は不安そうな面持ちで大帝を眺めている。


「今日はの、お前たち二人だけに、これからの作戦を明かしておこうと思ってな」


何だ? どうして皇帝と俺だけに作戦を明かすのだ? まさか、ブライアル王国に特別な密命を与えるつもりだろうか。何だよ、一体何なんだよ。


大帝は手を鳴らすと、近習と見られる少年たちが大きな紙を持ってやってきて、それを机の上に広げた。そこには、トリデリアの王都を中心とした地図が描かれていた。


大帝は近習から長い棒を受け取ると、それで地図を指し示し始めた。


「ここに、サゴラ川、ここがナラス川だ。どうじゃ、ユアザライ。これを見て貴様はどう思う?」


「どう、と言われましても……。ただ、川と海に囲まれているので、とても守りの堅い都だと思います」


「うむ。では、皇帝に尋ねる。ここを攻めるのに、どういう作戦をとる」


「……力攻めは難しいと存じますが、敵も十分な食料を蓄えていることでしょうし、また、生産することができます。このまま囲んだところで、数年は持ちこたえることができるでしょう。となれば、食料を絶たねばなりません」


「それを、どうするのかと、儂は聞いておる」


「……斥候を使って、敵の食糧庫や畑に火を放ちます」


「それが成功する可能性はどのくらいじゃ」


「……」


「ど~の~く~ら~い~じゃと、儂は、聞いて、おるのだ!」


「おそらく、三割程度かと。と申しますのも、報告では敵はあらゆるところに……」


「もうよい!」


大帝はそう言うと、首を左右に振りながら、大きなため息をついた。


「さてユアザライ、そなたの意向が聞きたい。遠慮するな。何でも申してよいぞ」


今の皇帝の様子を見て、気軽にモノが言える雰囲気ではない。にもかかわらずこのジイさんは喋れと言ってくる。ええい、ままよと腹を決めて俺は口を開く。


「私は……。この都の弱点は、いま、我々が陣を敷く南側であると見ます。ここからですと、一気に大軍勢で攻撃を仕掛けることができます。ただ……敵もそれは十分に分かっていることでしょう。ちょっとやそっとでは、城壁を超えて出てはこないでしょう」


「うん。それで?」


「そこで、敵をおびき出します。全軍で攻撃を仕掛けて、負けます。撤退を開始します。各隊、周辺の山々に逃げ込みます。そうしておいて敵が我々を追撃してきたそのときに、一気に攻撃に転じます。山の上から全軍で攻撃を仕掛けて、一網打尽とします」


「ファッファッファッファツ」


俺の話を聞いて大帝は呵々大笑した。何がそんなに面白いのか。なんだか馬鹿にされているような気がしてきた。そりゃ、俺は素人だ。素人にそんなことを聞くことが間違っているよ。そんなことを考えていると、大帝はフッと真顔になって、口を開いた。


「……概ね、余が狙う作戦と、同じだ」

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