トリデリアの王都
馬に乗って門を出ると、すでにオジキたちが軍勢を揃えて待っていた。そのままサウズが先導する形でブライアルの軍勢は動き出した。
「……大規模な軍勢が移動しているのに、全く渋滞しねぇな」
オジキがそんなことをポツリと漏らす。それを受けてシェイスが口を開く。
「わが軍の前には大帝と皇帝の軍勢が先導しています。そのため、本日は帝都内は外出禁止令が出されております。渋滞がないのは、そのためです」
なるほどと思いながら馬を駆る。どうりで人通りが少ないと思っていたら、そんな理由だったのか。さすがに皇帝直々の出陣となれば、厳戒態勢を取るのだな、と感心する。
「本来ならば、わが軍が露払いとして先導するべきなのですが……。この度は、大帝陛下のお気遣いにより、わが軍はその後ろからの行軍を許されております」
シェイスがそう言って言葉をつづけた。
……何となく、このことを恩に着せられて、無理難題を仰せつけられないかと一瞬不安になったが、それはそうなったときに考えればいいことであって、今、考えても仕方がないことだと自分に聞かせる。
軍勢の行軍速度は、人が少し速足で歩く程度の速度で進んだ。途中何度か休憩を挟んで、日が落ちるころには、トアラという城壁に囲まれた街に到着した。近くに森もあり、川もあって、兵士たちはここで野営することを命じられていた。俺は……というと、やはり、サウズがやってきて、城壁の中の大きな宿屋に宿泊するように促された。
俺に従うことを許されたのは、やはり、親父、オジキ、シェイスの三人だった。軍人が一人もいない。まあ、いたところで話は合わないので、居心地が悪くなるだけなので、いないに越したことはないのだけれど。聞けば、そこの連絡役はシェイスが担っているらしいので、問題はないらしい。
その施設は、大きな建物と小さな建物の二つに分かれていた。俺たちは大きなそれに案内された。聞けば、小さいところには、大帝らが入っているのだそうだ。彼らこそこの大きな建物を使えばいいのではと思ったが、サウズ曰く、そちらの方が部屋が広いのだという。ああ、そういうことなのねと納得して、宿舎に入る。
五階建ての最上階に案内され、一番奥の部屋に俺、手前に親父とオジキ、階段に近い部屋にシェイスが割り当てられた。当然、俺の部屋が一番広い。ベッドルームが三つもある。一体誰がこの部屋を使うのだろうかと思うほどに広い部屋だ。さすがに俺一人では持て余すので、親父に空いている部屋に泊まってもらうことにした。オジキは、これ以上ねぇボディガードだと言って笑っていた。
夕食は贅を尽くしたもので、これまた大量の料理を提供された。当然、食べられない料理の方が多く、さすがにもったいないと思った俺は、宿の者に頼んで、余った食材を街はずれのブライアル軍に届けてもらった。兵士全員には行きわたらないかもしれないが、幹部連中には十分に行きわたるだろう。
夜は早々に寝た。昨日のようなことがあり、人の気配を読む癖がついてしまったようで、部屋にいてもなんだか落ち着かなかった。さすがに最上階には誰もいなかったが、その下の階に、エルドライの者たちが詰めているのだそうで、ある意味で敵中にいるのとそう変わらないのではと思われる扱いだなと心の中で呟く。近習を必要最小限にとどめて、何か怪しい素振りがあるとすぐに討伐できるような態勢を取っているのかと邪推してしまうが、半分は合っているように思う。
それでも、ベッドに入ると知らない間に眠ってしまうのだから、俺という男は何とも鷹揚だなと自分であきれてしまう。
翌朝、朝食を終えるとサウズが迎えに来て、出発する。トリデリアまでの旅は万事がこの繰り返しで、四日後に到着したときには、すでに俺はくたびれていた。
山道を登りきると、眼下にトリデリアの王都が見えた。そこを中心として、すでに北と東側には軍勢がひしめいていた。王都は遠目から見ても巨大なもので、それこそ、ブライアルの王都が三つくらい入るほどの広さがあるように見えた。そこをぐるりと城壁が囲み、さらにその外にも町が広がり、その外側にも城壁がそびえている。いわばこの都市は、二重の城壁に囲まれていたのだ。
これもシェイスから聞いた話だが、トリデリアの都は、それこそ百年ほどの時をかけて、山を切り開いて作られたものであるらしい。人が増えれば森を切り開いて町を作る……。それを繰り返して、今の形が出来上がったのだそうだ。ただ、山頂から見える町は、きれいに作られているように見え、場当たり的に作られたものではなさそうだ。ということは、それなりに計画を立てながら都市を作ったことになるので、防御も相当なものだろうと想像できる。さて、この二重の城壁に囲まれた都市をどう攻略するのだろう。第軍勢で囲んだところで、おそらくこの都市は自給自足が可能だろう。とすれば、よほど補給を完璧にしておかないと、こちら側が兵糧不足になる可能性がある。
そんなことを考えながら、俺は山を下りて、持ち場に向かった。




