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五十二番目

「あの……どういうことでしょうか。お迎え? こ、国王様?」


頭が混乱してくる。国王? 俺の頭の中にはなかった言葉だ。なにが、一体どうなっている? お迎え? 国王の許に行くのか? 親父ではなくて? 俺が? そんなことを考えながら戸惑う俺に、シェイスと名乗る男は、さらに衝撃的な言葉をつづけた。


「あなた様は、先王、すなわち、トルシルエ二世大上王の五十二番目のご子息であられられます。諸事情あってこの村におとどまりいただいておりましたが、この度、現王、シナガレル三世様のご決断により、王太子として指名されました。我らはその、お迎えに上がった者たちでございます」


「……は?」


「驚かれるのは道理でございます。詳細につきましては、王都までの間にご説明申し上げたく存じます。まずは、我らと共に王都までお戻りください。大上王陛下ならびに国王陛下がお待ちでございます」


「いや。ちょっ、ちょっと、待ってください。俺は、この父と母の息子です。そのような……何かの間違いではありませんか」


「いいえ。間違いではございません」


「いや、俺はずっとこの、ユアザライ村で育ちました。物心ついたときから……」


「端的にご説明申し上げますと、あなた様にあらせられましては、トルシルエ大上王陛下とシェルネ王妃様との間にお生まれ遊ばしたお方でございます。故あって、この者たちがあなた様をこれまでお育て申しました次第でございます」


「いや、いきなりそんなことを言われても……。お父さん、おかあさん、これは、どういうことですか。この人たちは、何なのですか」


俺の言葉に、親父やおふくろは答えない。ただ、片膝をついて下を向いたままだ。いつもなら、それはね、シェンさん、という親父の優しい笑顔が見られない。母も下を向いたままだ。一体どうしたんだ二人とも……。


ふと、シェイスの隣に控えている男に視線を向けた。その横顔に、俺は見覚えがあった。


「お前……クレスト? クレストじゃないのか?」


シェイスの隣に控えていたのは、妹婿であるクレストだった。何をやっているんだ。どうしてそんな恰好をしているんだ。妹のメイルはどうしたんだ?


ますます混乱する俺に、シェイスが重々しく口を開く。


「この者は私の弟、クレストでございます。以後お見知りおきをお願い申し上げます」


その言葉に、クレストは無言のままさらに頭を深く下げた。


「さて、殿下。この上は、長居は無用でございます。一刻も早く王都にお戻りくださいませ」


「いや、待ってください。納得いく説明がされるまで、俺はここを動くわけには……」


「僭越ながら殿下、あなた様が王都にお戻りなさいませんと、この者たちは罰を受けることとなります」


「罰?」


「左様でございます。あなた様を王都にお連れするように我らは国王陛下の勅命を受けております。それがなされぬとあれば、この者たちは勅命に背いたこととなります。そうなりますと、我々は彼らの命を奪わねばなりません」


「なに?」


やれるものならやってみろ、という言葉が口をついて出そうになる。そこにいるのは剣聖・ジサだ。この俺はジサの息子にして、ダンド流家元代行だ。シェイスと名乗るこの男はそれなりの腕があるだろうが、俺たち父子二人を相手に勝てはしないだろう。やるなら、やってやろうじゃねぇか。叩き斬ってやる。


だが、シェイスは俺の感情を見切ったように、落ち着いた声で口を開いた。


「一両日中に我らが王都に戻らねば、王国軍がこの村に向かうことになっております。そうなれば、この者たちは言うに及ばず、村の者にも被害が出ることになりましょう。私どもも、それは本意ではございません。この者たちと村のことをお考え遊ばすのであれば、まずは、殿下にあらせられましては、我らと共に王都へ一刻も早くお戻りいただきたく、伏して、お願いを申し上げます」


俺は思わず、頭を下げている両親の許に行き、そのすぐ前で片膝をつく。


「……おとうさん、おかあさん」


二人は動かない。かすかに、母の肩が揺れている。確かに、王族には許可がない限り話しかけていけないというルールがある。本当に俺は……。いや、きっと何かの間違いだ。そうに違いない。俺は立ち上がりながら後ろを振り返った。


「わっ、わかりました。俺が王都に行けばいいのでしょう。だったら、参ります。……お父さん、おかあさん、すぐに、すぐに戻ってきますから」


「では、参りましょう」


シェイスはクレストと共に立ち上がると、俺を先導するかのように玄関の扉を開けた。


「玉体に傷を付けましたること、幾重にも、幾重にもお詫びを申し上げまする」


母が小さな声で、呻くようにそう言った。思わず足が止まる。それは、背中の痣のことを言っているのか。それは、俺が悪かったのだ。稽古中によそ見をした俺が悪かったのだ。母が謝ることはないのだ。


見ると、母が泣いていた。あの気丈な母が声を殺して泣いていた。


「おかあさん、すぐに戻ってきます」


俺はそう言って外に出た。

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