もしかして、狙っていた?
目が覚めると窓の外が白み始めていた。もう朝かと、ベッドの中で背伸びをする。
どちらかと言えば、よく眠れた方だ。いい感じに目覚めることができている。ゆっくりと起き上がって、すぐ傍にあるポットを手に取って、グラスに水を注ぎ、それを一気に飲み干す。
大きく深呼吸をして、手洗いに行き、用を足して手を洗い、部屋の外に出る。ダイニングに向かうと、すでに底にはラリアが控えていた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
昨日の一件があったので、常に気配を探知できるように気を張っていた。ダイニングに一人控えているのはわかっていた。それは、親父のものでもないことはわかっていた。特に気配を消している様子はなく、それは易々と感じ取ることができていた。
「……まさか、夜通しここで起きていたのかい?」
「まさか、そんなことをしていては、疲れてしまいます。私もいま、こちらに参ったところでございます」
その言葉に嘘はなさそうだ。疲れた様子もなく、服も昨日とは違うデザインのものを身に着けている。いい香りが漂っているので、ちゃんと風呂に入って、身支度を整えてきているようだ。
「……朝食を、召し上がられますか?」
「そうですね。ちなみに、今日のメニューは何ですか?」
「ええと……。パン、スープ、サラダ……などですが、何か、ご希望の食材はございますか?」
「そうですね……。あ、それより、あそこのキッチンは使えますか?」
「はい……使うことは、可能でございます」
「では、パン、スープ、サラダはそのままで結構です。あとは卵を……新鮮な卵を十ばかり。バターも用意してください」
「あの……お料理でしたら、私どもの料理人が拵えますが」
「ほう。では、あのキッチンは?」
「はい。ご要望がございました際に、あそこで料理を拵えまして、出来立てのものを食べていただくことが可能でございます」
「ちなみに、それをしたことは、今までありますか?」
「いえ……ございません」
「でしょうね」
そう言って俺はカラカラと笑う。
「ところで、どうして俺が料理をすると思われたのです?」
「え?」
「料理をする、とは一言も言ってはいませんが?」
「ゆ……ユアザライ王様は、お食事をご自分でお作りになると、聞いたことがございますもので……」
「そうなのですか? 国王になってからは、一度も料理をしたことがありません」
「そ、それは……」
「私は、パンにバターをたっぷりと塗るのが好きなのです。それに、精をつけるために、生卵を飲むことにしているのです」
「卵を……飲む?」
「これから出陣しますので、精をつけなくてはいけないですから」
「さっ、左様で、ございますか……」
「ちょっと、あの、キッチンを見せてもらっても、いいですか?」
ラリアは、はい、ご案内します、と答えて俺をそこに案内した。
……すぐに料理ができるように体制が整えられていた。小さなポンプのようなものが付いていて、それを押せば水が出るし、さすがに竈の中には火は入っていなかったが、そこで煮たり焼いたりすることができるようになっていた。引き出しの中には様々な料理道具が整然と収納されており、豪華な装飾を施された皿もいくつか納められてあった。
別の女性が現れて、鉄の籠のようなものを持っている。何だと思っていると、竈に炭を詰めだした。これは、と聞くと、ここでスープを温めるのだと言う。なるほど、そういう使い方があるのかと一人合点する。
ラリアは、食材を取ってまいりますと言って、その女性と共にその場を去っていった。
「おはよう、シェンさん」
まるで図ったかのように親父が現れた。俺は、おはようございますと言って、彼を迎えた。ゆっくりと、椅子に座る。その手には愛用の剣が携えられてある。さすがは親父だ。かく言う俺は、剣を持っていない。確か、シェイスが持っているはずだ。
「眠れましたか、お父さん」
「ああ。よく眠れました。何だろうね、ずいぶん柔らかいベッドで、まるで体が沈むんじゃないかと思いました。身動きが取れなくなりそうで、最初は少し怖かったのですが、気が付いたら、寝ていましたよ」
親父はそう言って笑う。俺の部屋のベッドとは様式が違うようだ。俺のベッドは、少し硬めのものだった。それは、俺の好みに合わせてくれているのだろう。ただ、親父も柔らかいものよりも、硬いそれを好む。どうしてあえて、好みでもないベッドを宛がってのか……。
親父を襲う可能性もあったということか?
穿った見方かもしれない。ただ、その極端に柔らかいベッドに寝かせることによって、親父の自由を少しでも奪うのが目的であった場合、それはそれでよく考えたなということになる。親父が斬られるというのは想像もできないが、一瞬だけでもその動きが抑えられれば、ひょっとしたらひょっとする。
「……シェンさん、どうしました?」
親父が怪訝な表情で口を開いている。まあ、それは考えすぎかと自分に言い聞かせて、俺は親父に向き直った。




