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国が違えば文化も違う?

「そ……そんなことは、ないでしょう。お父さんも見たでしょう。皆で俺たちを大歓迎してくれました」


「確かにそうだね」


親父はそう言いながら腰から剣を外し、勧められた椅子に腰を掛けた。ふぅというため息にも似た声が聞こえる。


「シェンさん、人をもてなすということは、どういうことだと思いますか?」


「そ……それは……。もてなす人が、喜んでもらうことをする、でしょうか」


「うん。そうだね」


「今回の、この迎賓館の方々のもてなしは、俺は嬉しかったですが……」


「ああ、心躍るような気持ちになりましたか」


「はい」


「私は、違うんだねぇ」


親父はそう言ってもう一度ため息をつく。


「私たちが到着したのは、夜になろうとしていた。ということは、これから食事を摂って休もうという流れです。となれば、私だったら、もてなす方が寛げるように計らいます」


「……」


「あれが、日中であったらよかったのですけれどね。私だったら……挨拶は最小限にして、食事も……消化のいいものを用意して、ゆっくり眠りにつくように計らいます」


俺が戸惑っているのを見て取ったのか、親父はニコリと笑みを漏らすと、


「まあ、お国が違えば文化も違います。ああやって、華やかに人を迎えるというのが、エルドライという国の文化なのかもしれません」


親父はそう言って、窓の外を見た。


しばらくすると、ラリアが、湯浴みの支度が出来ましたと言って部屋に入ってきた。俺は先に親父に湯に入るように促した。だが彼は、国王を差し置いて一番風呂に入るのはいけないと言って、俺に先に入るように勧めた。だが、ユアザライ村で暮らしていたときは、必ず親父が一番風呂に入っていた。俺にはその名残がある。親父を目の前にして、一番風呂にはいるというのは、どうしても気が引けた。


どうにかこうにか説得して、先に入ってもらう。親父は、


「では、私が露払いをしておきましょう。国王様が安全にお入りいただけるか、確かめて参ります」


と言って、湯殿に向かった。ラリアは、ご案内しますと言って、案内に立った。


しばらくすると、彼女一人が戻ってきた。俺の前で再び深々と一礼すると、潤んだ瞳を向けてきた。


「……また、あとで、ご案内に参ります」


俺は、前回止まったときに湯殿を使ったので、この建物のことは知っているので無用だと伝えると、彼女はさも、残念そうな表情を浮かべた。だが、すぐに元の表情に戻ると、


「では、何か御用がありましたら、何なりと、お申し付けください」


と言って、再び俺に視線を向けた。何なりと、という部分が少し強調されているように感じたのは気のせいだろうか。ただ、彼女の視線からは、どんな要望でも受け入れるという雰囲気がよく見て取れた。それこそ、今宵の夜伽を命じられても構わない、という気持ちを感じる。俺は、それには答えずに、ただ、ありがとうとだけ言っておいた。


彼女が去ると、入れ替わるように、初老の男がやって来て一礼する。一体なんだと思っていると、彼は、お夜食をお持ちしましょうか、などと言ってきた。いや、さっき食事をしたばかりで、腹はいっぱいだ。その必要はないと言うと、今度はお酒などお持ちしましょうか、などと言ってくる。酒は何でもあるらしい。そうですか、また、飲みたくなったときにはお願いします、とだけ言っておく。せっかくなので、冷たい水をたくさん持ってきてほしいとオーダーした。彼は呆気にとられた表情を浮かべたが、やがて、畏まりましたと言って、その場を去っていった。


すぐに、大きなグラスに入った水が運ばれてきた。持ってきたのは、ラリアだった。彼女はキャスター付きの手押し車から大儀そうに水の入ったグラスを抱えるようにして、テーブルに置こうとする。ああ、いいですよ、俺が、と言って、それを取って持ち上げる。と、ラリアと目が合った。潤んだ瞳で、じっと俺を見上げながら見つめてくる。だが、それでも俺は、笑顔を浮かべるだけで、淡々とグラスを運んだ。


「ありがとう。ご苦労様でした」


そう言って俺は、彼女を見送る。ラリアは再び一礼をして部屋を出て行った。その背中は何か、寂しげな雰囲気を醸し出していた。


椅子に座って、ゆっくり息を吐きだす。確かに、親父の言う通りかもしれない。彼ら、彼女は、敢えて、無理をして俺たちを迎えるパフォーマンスをしているのかもしれない。もし、俺が逆の立場で、それこそ大事な王族を迎えるとすれば、こんなことはしない。戦いを前に気持ちが高ぶっているはずだから、それを落ち着けるようにする。静かな環境を用意して、美味しい食事と美味しい酒を飲んでもらう。風呂に入り、体を温めてもらって、くつろげる雰囲気を出す。最初にあいさつに出るくらいで、用事があるとき以外はできるだけ遠慮する。ただし、意識は向け続ける。見てないようで見ているというやり方を取るだろう。やはり、彼女らは……親父の言う通りかもしれない。


そんなことを思っていると、親父がバスルームから出てきた。何か、疲れているようだが……どうした?



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