親父の一言
サウズはそう言うと、再びご案内しますと言って、俺の前を歩いた。仕方がないので、そのまま彼についていくことにする。
外に出ると、シェイス、オジキ、親父の三人が待っていた。彼らのすぐ傍には馬車が一台用意されている。サウズはどうぞお乗りくださいと言って、俺たちを馬車に乗せると、自分は御者台に座った。
「……あの、サウズがブライアルの軍監だそうです」
「ヘッ、軍人の連中はさぞかし頭が痛かろうぜ」
オジキがそう言って笑う。相手に知られるのは百も承知でしゃべっている。だが、そんなことで怯むような男ではないことは、そこにいる全員が知っている。
「まあ、軍監がつくこと自体は、悪いことではありません。本陣の命令を正確に伝えてくれますので、全体を考えれば、統率が上がります」
「そうか。大帝陛下も、我がブライアルには危険が及ぶところには配さないと約束された。軍監がいれば、安心ということだ」
俺の言葉に、全員が頷く。ただ、オジキは何か一丁ことが起これば、即座にサウズを斬る気でいる。というより、強い男と手合わせをしたいのだろう。どうだろう……。オジキの方が、少し、強いか。
これはひいき目だが、この中で一番強いのは誰かと聞かれたら、迷わず親父をあげる。それは、誰もが反対しないだろう。その親父は、ただ無言で静かに過ごしている。
迎賓館にはすぐに到着した。サウズが足早にやって来て、扉を開ける。外に出ると、そこのスタッフたちが全員で出迎えてくれていた。その中からラリアが駆けだしてきて、俺たちの前で深々と一礼した。
「こんなに早くユアザライ王さまをお迎えできまして、感激です。皆、心より、ユアザライ様ご一行のご逗留をお待ち申し上げておりました。お帰りなさいませ」
そう言って彼女は再び深々と一礼した。その直後、そこにいた全員が拍手で俺を出迎えてくれた。
……正直、悪い気分はしなかった。そこまで歓迎してくれるのが、嬉しくさえあった。オジキなどは後ろで、
「ぼち公。お前ぇ、ずいぶんとモテるじゃねぇか」
などと冷やかしてきたほどだ。シェイスも、まんざらではない表情を浮かべている。ただ一人、親父だけは、何とも言えぬ複雑な表情を浮かべていた。
俺たちは案内されるまま、館に入った。
皆が、ようこそおいで下さいましたと言って歓迎してくれる。すでに夜になっているので、すぐに夕食を、ということになり、めいめいのお部屋でお食事を用意しますと言われたが、親父は一人で食事をするのを嫌うことを知っていたので、せっかくだから、皆で一緒に食事をしたいと言ってみた。ラリアは一瞬キョトンとした表情を浮かべたが、すぐに笑顔に戻り、承知しましたと言ってその場を去っていった。
すぐに男性の職員が現れて、大きなテーブルを用意してくれる。ちょうど四人が坐れる大きさだ。シェイスが陛下と同じテーブルでは畏れ多い、などとつまらないことを言ってくるので、命令だと言って、無理矢理そこに座らせた。
出された料理は、豪華の一言に尽きた。肉、スープはもとより、山海の珍味をこれでもかというくらい出してきた。俺は出された料理は残らず食べたが、さすがに腹いっぱいになってしまった。
お腹がすいていたのか、シェイスもオジキも親父も、全員が出された食事をきれいに食べていた。さすがにこれには、挨拶に出てきたコック長が大喜びで、彼は何度も頭を下げて礼を言い、恐縮でございますと感激していた。
そろそろ寝ようかという段になって、突然シェイスが、陛下には護衛を付けたい、などと言いだした。その理由が振るっている。
「今はトリデリアとの戦いの最中です。いついかなる場合でも、陛下の御身を案じねばなりません。万難を排すため今宵は、総帥様、もしくは、ジサ様を護衛にお付けいただきたく、お願い申し上げます」
そんなことを言われては、ラリアも何も言うことができず、畏まりましたと言って頭を下げた。結局俺は親父と共に一夜を過ごすことになった。
「まあ、親孝行するんだな。カッカッカ」
オジキはそう言って自室に向かっていった。
部屋は、前回泊まったときと同じだった。そうそう、こんな作りをしていたと懐かしく初めて来たときのことを思い出す。早速、剣を置いて、椅子に腰かけてくつろぐ。親父に、お父さんもどうぞお座りくださいと言って、椅子を勧める。相変わらず親父は、何とも言えぬ表情を浮かべたままだ。
「いや、すごいご馳走でしたね。なかなかお城でも、あんなに豪華な食事は食べられませんよ。ずいぶん歓迎されていますね」
そういう俺に、親父は一言ポツリと呟いた。
「……旬の食材が、ひとつもなかったね」
……思い出した。親父は、旬の食材を旬一杯に食べる人だった。確かに、色々な食材が出たが、これぞ旬、という食材は出なかった気がする。
呆然と見つめる俺に親父は、さらに言葉を続けた。
「本当に、彼らは私たちを、歓迎しているのですかね……」
背中に、冷たいものが流れた。




