大帝との対談、ふたたび
サウズは少し衣服を整えると、ご案内しますと言って右手を出した。俺は鷹揚に頷いて彼の後をついていく。
大帝らが出て行った扉を通って廊下に出る。控室だろうか。少し歩いたところにある部屋に案内された。扉を開けると、豪華な椅子に腰かけた大帝と皇帝がいた。皇帝はおどおとと大帝と俺に交互に視線を向けている。その大帝は、ニコニコと機嫌のよさそうな笑みを浮かべながら、俺を手招きした。
「大義じゃ。大義じゃ。まあ、坐れ」
失礼しますと言って、彼らの目の前に置かれている椅子に座る。これまたクッションがきいていて、フカフカだ。どうやってこの柔らかさを出しているのだろうか。何とも不思議な椅子だ。
「そなたを呼んだのは他でもない。今後のことである」
大帝はそう言って顎髭を撫でた。実に機嫌がよさそうだ。
「そなたにはな、余と皇帝の本陣の前備えを任せたい」
藪から棒にそんな言葉を口にする。前備えとは……。素人の俺でも知っている。戦いにおいて最も重要な場所だ。大抵は、その国の中で最も武勇に優れているか、王の信頼厚い者が担う。そうでないと、そこを破られてしまうと、本陣を突かれてしまうからだ。そこを俺に任せるとは、いったいどういう風の吹きまわしだろうか。
怪訝な表情を浮かべていたのだろう。大抵はニコニコと笑いながら頷く。
「そうよ、そなたよ。そなたを置いて、余と皇帝を守れる者はおらぬ」
「いや、私など……」
「よいよい。謙遜するな。余は、謙遜する者が嫌いだ。剣聖ジサ、ノジア流総帥トラマ、その二人とそれぞれの弟子を従えたそなたこそが、世界最強の軍勢であるぞよ。余の前備えを任せるのは、その方を置いてほかにあろうか」
「ちっ、父上……」
「なぁんじゃ!」
「いくら何でも、ユアザライ殿に前備えとは、少しやりすぎでは……。我がエルドライも精強な兵士を揃えております。とりわけ、父上の馬廻り衆は我が国最強の軍勢……。その者たちを使わずしてユアザライ殿に……」
「お前は黙っておれ! 余が決めたことじゃ!」
「しかし……」
大帝は皇帝の顔を見ると、チッと舌打ちをした。いや、皇帝の言っていることはよくわかるし、それが正しいと言える。前備えを勤めるということは、軍人にとって相当の名誉であると言える。国内の最強の部隊であり、もっとも国王の信頼厚い部隊であるという証明なのだ。それを、皇帝の娘婿とはいえ他国の、しかも、ついこの間王になったばかりの男をそこに据えるというのは、これまで長年にわたって忠誠を尽くしてきた軍人たちを刺激することになる。下手をすれば、それが原因で謀反につながる可能性だってある。大帝が何を狙っているかは知らないが、この作戦は、百害あって一利なしに見える。
そんなことを考えていると、大帝が面倒くさそうに口を開いた。
「余の馬廻り衆は、そなたにつける。余はそのさらに後ろに下がって控える。それでよかろうが」
「ち……父上は、戦場には、出ぬ、と?」
「そんなことは一言も申しておらんわ! わからぬ奴だ。この国の皇帝はお前なのだ。お前が差配をしているように見せねばならぬ。むろん、お前では心もとないから、全軍の指揮は余が執る。だが、表向きはお前が指揮を執っているように見せねばならぬから、余は後ろで控えると申しておるのだ!」
「は……ははっ」
「ユアザライ殿」
大帝はさも呆れたような表情で俺を見た。
「察してくれ。余にはこの皇帝を含めて数人の男子がおるが、揃いも揃ってバカばかりでの。まったく……我が子ながら情けないわ」
……何も人の前で自分の子供を貶すこともないだろうと、逆にこちらが呆れてしまう。逆に、そんなことをしたところで、全軍の指揮を執っているのは大帝であることは皆知っているのだろうから、やるだけ無駄ではないかと言いたかったが、それは黙っておいた。
「まあ、ない話であるとは思うが、もし、前衛が突破された場合は、そなたに敵を食い止めてもらいたい。剣聖ジサ、ノジア流総帥トラマとその門弟たち。むろん、ジサの息子たる、後継者たるそなたの腕をもって、迫りくる敵を、斬って斬って斬って斬りまくってもらいたい」
……いつしか大帝の声に熱が帯びてきている。なんだ、何を興奮しているのだ、この爺さん。
「そなたの父は、鬼神のような戦いぶりじゃった。数千の軍勢を相手に、ひとりで槍を振るって突っ込んでくる。矢を放とうにも、何故か奴には当たらぬ。当たっても致命傷にはならぬところばかりじゃ。矢で射ようと何をしようと笑いながら突っ込んでくる。ああ~勇ましかったのぅ。恐ろしかったのぅ……。そなたは、その男の息子である。顔つき、体つき、すべてがあの男に似ているそなたであれば、どのような敵も止められるであろう。その受け継いだ血を、余に見せてくれ」
……いくらなんでも、買いかぶりすぎだ。




