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帰路にて

そんな楽しい会話が終わると、いよいよブライアルに帰還する時間になった。ラリアら宿所にいた人間全員が玄関まで出て見送ってくれた。何人かの女性は泣いている者もいる。王とはいえ、一人の男を見送るくらいで、ここまで大仰なことをするのかと、俺は若干引いてしまった。


シェイスはオジキは淡々としている。そんな中、ラリアが前に進み出て、目を真っ赤にしながら、


「また、お近いうちにお目にかかれますことを、心から願っております。この度は本当に、ありがとうございました」


そう言って頭を下げた。


別に礼を言われるようなことはしていないのだけれどね、と心の中で呟きながら馬車に乗る。馬車が動き出しても、そこに居並んだスタッフたちはずっと手を振り続けていた。


そういえば、この城に来る際についてきていた兵士たちの姿が見当たらない。彼らはどうしたと聞いたところ、腕の立つ者はこの馬車を遠目から警備しているのだそうで、その他の者たちは、俺が逗留する予定の町に先発して、危険がないかを確認する任務に就いているのだという。


「ぼち公、えれぇ人気者だったじゃねぇかい」


オジキが不意にそんなことを言ってくる。よしてくださいと手で制して、エルドライが仕組んだパフォーマンスでしょうと言ってみるが、どうやらそうではないらしい。大体において王とはいえ、見送りに出るのは数名で、あんなに大々的に見送られるのは珍しいと言われた。


「一体、何をしやがったんでぇ。女中の一人に手ぇでも付けたか?」


……そんなことをした日には、お見送りどころか、馬車の乗員が一人増えることになる。そんなことはしていませんと言い、思い当たるとすれば、出された食事を全部食べたら、えらく喜ばれたと話をすると、オジキは呵々大笑した。


「それだぁ。それに違ぇねぇ。大体王様ってなぁ、他所で出された食事なんぞは食わねぇものさ。それをお前ぇは全部平らげた。そりゃ、あそこの料理番は、食わねぇとわかっていても、腕によりをかけておまんまを拵えるものさぁ。どうせ食い意地の張ったお前ぇのことだ。うめえうめえと言って全部平らげたんだろう。そりゃ、料理人たちは喜ぶってぇもんよ。なんでぇシェイス。お前ぇ、ぼち公の食事は用意しなかったのかい」


「はい。よもや毒など盛ることはないと存じましたので、敢えて何も用意はしませんでした」


「そりゃ、見事だなぁ」


オジキはカラカラと大笑いしている一方で、シェイスは相変わらず冷静な表情を崩さない。


そう言われてみれば、確かに俺は、あの宿所のスタッフたちに愛想よく振舞った。ありがとう、助かります、ごめんなさいね……など。嫌われたくなかったというのもあるが、ユアザライ村で母親からしつけられたことがそのまま出てしまったのだ。オジキ曰く、そういう愛想の良い王は皆無と言ってよく、大体の王はまるで人形のように反応が薄いものらしい。人に世話をされるのが当然の環境であるために、礼を言うなどということは考えもしないのだろう。でも俺は違う。あそこのスタッフたちが愛そうよく丁寧に接してくれるので、俺もそうしただけに過ぎない。まあ、それで本当に喜んでくれたのであれば、俺としてもうれしい限りだ。


「ただぁ、これでブライアル王国は、あのタヌキ大帝に睨まれるな」


オジキはそう言って頭を搔いた。そうしておいて、彼はスッと俺に視線を向ける。


「ではぼち公、皇帝と大帝との間で、どんな話が出たのかを、教えてもらおうか」


オジキとシェイスの雰囲気が変わった。俺も背筋を伸ばす。


「……なるほどな。俺ぁ、まったく予想もしていなかった内容だったな」


「そうですね。まさか、トリデリアと事を構えようとしていたとは、驚きですね」


シェイスも意外だと言わんばかりの表情を浮かべている。この男がこんな表情をするのは珍しい。俺はただ、ああ、そうなのねと心の中で呟くくらいだ。


「それにしても……トリヤロスの身柄を諦めるってなぁ、大笑いだぜ。宰相が慌ててやって来たのも頷ける。で、どうするんでぇ、あの野郎は」


「エルドライに帰してやろうと思います」


「陛下……」


シェイスが静かに首を振る。その彼にさらに言葉を続ける。


「ずっとあの男を城で軟禁するのか? 下手をすると死んでしまうだろう。かと言って、すぐに首を刎ねるとエルドライとの関係が悪化しそうな気がする。きっと大帝も、ああいえば俺があの男を返還するだろうと見越して言ったんじゃないかなと思っている。これは俺の勘だけれども、もう二度と、トリヤロスは俺たちの首を狙わない気がする。あの男とその一味を国境付近まで護送して、そこで解放してやるのが一番いいんじゃないかな」


「それをしますと、再び虎を野に放つ形となります」


「う~ん」


俺は思わず腕を組んで考えてしまった。そのとき、オジキが静かに口を開いた。


「うめぇ方法を思いついたぜ」


「何です、伯父さん?」


「トリヤロスを、ブライアルに繋ぎとめる方策さぁ……」


え? そんなことが、できるのか?

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