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宰相・ドーイの提案

大帝が退出すると、別の女性がやって来て、ご案内しますと言って片膝をついた。俺は唯々諾々としてその言葉に従い、椅子から立ち上がる。


そこから案内された部屋には、シェイスとオジキが控えていた。シェイスはよくぞ帰ってきたと言わんばかりの表情を浮かべたのに対し、オジキはニヤニヤとさも面白いと言わんばかりの表情を浮かべていた。


やれやれ、疲れたよと言おうととしたそのとき、扉がノックされた。どうぞと返答すると、そこには宰相のドーイが立っていた。彼は一人で入室してきた。


部屋にはテーブルを囲んで四つの椅子が設えられていた。当然のように三つは俺たちが使っている。ドーイは失礼しますと言って、俺の隣の空いている席に座った。


「この度のユアザライ王様のご訪問、誠にご苦労様でございました。陛下、並びに大帝陛下がいたくご満足でございました。感謝申し上げます」


彼はそう言って深々と頭を下げた。俺も、鷹揚に頷いておく。


「この度、私がまかり越しましたのは、二つの件で相談いたしたいことがあったためでございます。誠に恐れ入りますが、私のとの話は、他言無用に存じます」


チラリとシェイスを見る。目だけが小さく頷いている。オジキは不気味な笑みを浮かべながら、大きく頷いている。


「まず一つ目に相談申し上げたいことは、貴国で逗留しております、トリヤロスの件でございます」


ここできたか、と心の中で呟くが、顔には出さないでおく。


「大帝陛下は、返還には及ばぬ、とご発言成されたと伺っておりますが、やはり、我らとしてはお返しを願いたく、申し上げます次第です」


「わが王の命を狙った張本人を返せとは、異な申し出」


オジキが発言する。まったくドーイに視線を向けていない。独り言として処理しようということか。


「まさしく、言われる通りでございます。ただ、私どもとしましては、策を弄するよりも、本音を申し上げた方が解決するのは早かろうと考えまして、不躾ながらこのようなお願いを申し上げる次第です」


「恐れながら申し上げます」


シェイスが口を開く。実に冷静な表情だ。彼らしいと言えば彼らしい。


「宰相様の言われることは理解できぬわけではございませんが、トリヤロスに関しては、陛下のご寝所に忍び込み、陛下の眠るべきベッドに剣を突き立てております。翻って、これが逆の立場となりましたら、貴国はその申し出を受け入れるのでございますか」


「ハッハッハ。痛いところをついてこられますな。そうですね。翻って立場が逆であれば、我らはその申し出を受けることはありません」


ドーイは笑顔でそう言い切った。ずいぶん強気な物言いだが、なぜだろうか、俺は怒りの類を覚えなかった。


「ただ、我々は、我々の提案を受け入れていただいた場合に、貴国にとって有益な条件を提示する用意があります」


「有益な条件……ですか」


「左様です。これは二つ目の相談にもかかわってくる話ではありますが、大帝陛下はいよいよトリデリアを討伐するご決心をなさいました」


「何と……」


「出陣は三月を見込んでおります。二月には各国に出陣の触れが出される予定となっております。我らはトリデリアの情報収集に全力を注ぎたいと考えております。そのためには、トリヤロスの力が必要なのでございます」


「ご用の趣は承りました。それで、宰相様の言われる、我らにとって有益な条件とは、何でしょうか」


「はい、二つございます。まず一つ目が、ご出陣いただいた際には、貴国を前線には配置いたしません。皇帝陛下、大帝陛下の近くに陣を張っていただきます。むろん、お二人の警備は我が国の親衛隊が行います。間違っても貴国が敵と正面切って戦うことはないようにいたします」


と、オジキが口を開く。


「お待ちくだされ。それはあくまで想定戦の場合であって、実際の戦いでは何が起こるかがわからぬ。もし、敵の勢いが勝って前線が崩壊した場合、我が国が矢面に立つことになるであろう。宰相殿の話のごとく、我が国が安全であるとは言い切れぬのではないか」


「誠に、仰る通り。戦いの場においては何が起こるかがわかりませぬ。ただ……こう申し上げましては何ですが、前線が崩壊し、貴国が全面的に敵軍と対峙せねばならない状況というのは、我が方の負けも等しい状況です。そうなった場合は、撤兵いただいて結構でございます」


「何と……我らの独断で撤兵してもよい、と申されるのか」


「左様です」


オジキが驚いた表情を浮かべている。確かに、独自の判断で撤兵可能というのは、少し驚くような条件だ。俺も思わず顔がゆがんでいるのを自覚して、平静を装う。宰相は俺たち一人一人の目を見ながら、さらに言葉を続ける。


「二つ目の条件としましては……。トリデリアの討伐が叶いました暁には、その領地を貴国に差し上げます」


「えっ? それは……」


シェイスが驚いた表情を浮かべた。あの広大な領土をブライアルにくれると言うのか。となれば、エルドライの領地や規模を超えてしまうのではないか。それ、大丈夫なのか……?

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