4.恩人との再会までの裏側〜アルジャン
夜明け前、仲間の元に戻ったアルジャンを見て、皆が一斉に駆け寄った。
「アルジャン!無事だったのか!」
「その腕、魔獣にやられたんじゃなかったのか?」
「おい、顔のその銀色の傷、なんだ」
「っていうかお前、なんでそんなに小綺麗なんだよ」
皆に囲まれ、矢継ぎ早に問われる。
(銀……?)
その言葉に、頬の傷を銀糸で縫われたことを思い出す。
血塗れていたはずの騎士服も、今は綺麗に洗濯されている。
……その理由を、馬鹿正直に言えるわけがない。
「まあな、何でもねえよ」
素っ気なく、曖昧に言葉を返した。
だが、そんな誤魔化しが効かないのがセラフィナだ。
「アルジャン、あなたどこにいたの? 後で回収するつもりだったのに、消えちゃうんだもの。探しても見つからないし、鳥にでも咥えて飛ばされたんじゃないかって話してたのよ」
「……そうかよ」
(こいつ……本当に探したのか?)
そう思うが、黙っていた。
言ったところで、何も変わらない。
とにかく無事だったのだから、よしとするしかない。
「あら……?ちょっと。その縫合跡……まさか〈聖銀の縫糸〉じゃない?」
セラフィナが、アルジャンの顔を覗き込む。
「聖銀の……なんだって?」
聞いたことがない言葉だった。
「魔力を宿した、最高級の医療銀糸よ。普通はね、その糸、熟練の治癒師が触っただけで魔力に弾かれるの。……この私ですら、一度も針を通せたことないの。針にかけても、すぐ弾かれるのよ。ちょっとよく見せて」
顔を掴まれ、傷口をまじまじと覗き込まれる。
「……やっぱり。ガタガタの縫い目だけど……通ってる。こんな糸扱える人なんて……宮廷付き治癒師くらいのものよ?アルジャン、あなた本当に誰に治療されたの?」
アルジャンは、頬に手を当てた。
指先に糸の感触はある。
だがそれは、まるで最初からそうあるべきだったかのように、素直に自分の肌へ馴染んでいた。
(宮廷付き治癒師?――あの女が?)
あり得ない。
どう見ても、そんなふうに見えなかった。
だいたい、宮廷付き治癒師があんなアパートに住んでいるはずがない。
「うるせえな、関係ねえだろ」
「ちょっと! 吐きなさいよ!」
しつこく食い下がるセラフィナを、アルジャンは軽くあしらった。
助けてくれたあの女が何者かは分からない。だが、セラフィナに目をつけられたら、間違いなく平穏な生活は壊される。
「その治癒魔法を教えなさいよ」と、技術を吸い尽くすまで付きまとうに決まっている。
そう考え、アルジャンは頑なに口を閉ざした。
決して誰にも話すつもりはなかった。
だが――
今度は、今回の一連の報告を受けた監査官に目をつけられた。
人形化した騎士が行方不明という、「事故案件」として。
セラフィナの魔法が原因という、「医療魔法の管理問題」として。
そして、「通常ではあり得ない回復」という、技術調査対象として、監査が入った。
「確かに……その縫合跡は、〈聖銀の縫糸〉だね。あれは魔力の波長が適合しない者には触れることすら叶わないはずなんだが……一体、誰が君を治療したのかな?」
監査官のルシアンに、逃げ場のない執拗さで問いただされた。
「……これは報告書を書き直さないといけないな」
軍の上層部にいるこんな男に目をつけられたら、厄介だ。
高度な医療技術を持つ者であれば、否応なく軍に取り込まれてしまう。
「……なるほど。隠している、という理解でいいのかな?」
口を割らないアルジャンに、そんな言葉で圧をかけてくるような男だ。
恩人に迷惑をかけられない。
あの女の生活を壊すわけにはいかない。――こんな連中に知られていい存在じゃない。
そう考えて、やはり口を閉ざした。
だが、彼女にはちゃんと会ってお礼を伝えたかった。
(こういう時は菓子か?……どんな菓子だ?)
(花も買ったほうがいいのか?……どんな花だ?)
(菓子だの、花だの、重すぎるか?……軽すぎるのか?)
女に、どうお礼を伝えたらいいのか分からない。
(あのときの人形は実は俺で……なんて、名乗り出るのは迷惑か?このまま流すか?)
毎日、悶々と考えた。
考えた末に、無理に礼を伝える方が迷惑になるだろうと結論が出たが、それでもやっぱり気になってしまう。
あの女は命の恩人だ。このまま何もなかったように、過ごせるはずがない。
(……あいつに聞くか)
悩んだ末、恋人持ちのカイルに、女に何を贈ればいいかを尋ねた。
それが、運の尽きだった。
「アルジャン!お前、ついに好きな女ができたのか!今日はみんなで祝いに飲もうぜ!」
一瞬で話は広まり、仲間たちに派手に祝われる羽目になった。
その騒ぎの中で、アルジャンの会いたがってる女は、カイルの恋人の友人だということがわかった。
彼女はコハルナという名前らしい。
さらに、彼女は騎士を怖がっていると知る。
「コハルナちゃんか〜。あの子、多分騎士苦手だよ。俺を見ていつも怖がってるもん。二人で会うのは無理じゃないか?自然に会うには――合コンでも開くか?」
「合コン?俺も行く!」
「俺も、俺も!」
「俺も参加で!」
(なんだよ、合コンって……!)
内心で頭を抱えたが、止める間もなく合コンの話がまとまってしまった。
それどころか――最悪な追い討ちが待っていた。
「あら、合コン開くの?私も行こうかしら」
「私もその合コンには、興味があるな。ぜひ参加させてもらうよ」
さらにセラフィナとルシアンにも勘付かれ、厄介な合コンとなってしまった。




