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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
3章 俺は普通の高校生なので、帰還勇者なんて知らない
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3章20 a lull in the grump ➁


 聖人が席に戻ると――



「――ねぇーっ! いいじゃんヒルコっちー!」

「ビトーシメてくれよ」


「カンベンしろよ」


「ほら、サータリいるじゃん? ウチらの繋がりの」

「アイツらビトーにボコられたんだよ」


「どうせしょうもねえ悪さしたんだろ」



――親友の蛮くんが代わりにギャルたちに絡まれていた。



 その様子に聖人くんはニッコリする。


 彼の感性はわりと愛苗ちゃん寄りなので、この光景が仲良しに見えるのだ。



 だが、蛭子としてはとんでもない。


 昔からこうやって『聖人がダメならこっちに』と、いいように扱われがちでうんざりしているのだ。



「ごめん、ただいま。なんの話してたの?」


「あっ、マサトくん!」

「ヒルコがさー、冷たいんだよ」



 聖人が声をかけるとギャルコンビは蛭子からパッと離れて聖人に駆け寄る。


 蛭子はそれに苛立つ――ことはなく、ホッと安堵した。



「えっと、よくわかんないけど。蛮、助けてあげたら?」


「アホか」



 やっぱり蛮くんはイラっときた。



「コイツらオレにビトーをシメろっつってんだよ」

「え?」



 どうも物騒な話題だったようで聖人の頬が引き攣る。


 それから心配そうに蛭子を見た。



「ダメだよ蛮? みらいも言ってたでしょ?」

「テ、テメェが言うのか……ッ⁉」



 しかし、蛮くんの頬はそれよりもさらにヒクヒクとした。



「言われなくてもやんねェよ。こっちは停学明けだぞ」

「えー? いいじゃーん。おねがいヒルコっち」


「ウルセェんだよ。大体誰のせいで停学になったと思ってんだ」

「えー?」


「オマエの揉め事は前回で懲りた。オレは高校くらい卒業してェんだよ」

「ちぇー」



 取り付く島もなく蛭子は寝室の手を振り払う。



「アッハハ、カナってばフラれてやんの」

「えーん。マサトくん慰めてー」


「え? あ、うん。ケンカはダメだけど僕で出来ることなら――」



 また聖人の方に戻っていくギャルコンビと、凝りもせずに彼女らを甘やかす聖人を見て蛭子はゲンナリとした。


 すると、すぐ近くから天津がこちらを見ていることに気が付く。


 とてもくだらないものを見るような視線だ。


 蛭子がそれに文句を言おうとしたところで――



 ガラッと――教室の戸がまた開いた。



 現れたのは弥堂 優輝(びとう ゆうき)だった。



 出入り口のすぐ近くに立っていたギャルコンビの声がピタリと止む。


 弥堂が彼女らをジロリと視ると、二人はビクっと肩を跳ねさせて目を逸らした。


 そして聖人の背後に隠れるように移動して弥堂に道を空ける。



 弥堂は聖人を一瞥だけしてすぐに歩き出した。


 すると――



「――び、弥堂……ッ!」



――聖人の声にピタリと足を止める。


 返事はせずに彼の顏の方に視線だけ向けた。



「七海は……、どうした……ッ⁉」


「あ?」



 弥堂は一瞬だけ不可解そうに眉間を歪めてから、「あぁ、そういえば」と思い出す。



 1時間目終了のチャイムが鳴った後、弥堂と希咲は一緒に屋上を出た。


 しかし、階段を降りて廊下に出るとすぐに希咲は暇を申し出たのだ。


「トイレに寄るから着いてくるな」「一緒に戻るとめんどい」と、彼女はやたらと強く主張してきた。



 というわけで。


 一緒に(教室に)帰ると噂になっちゃうから恥ずかしい――のだなと、弥堂は納得し一人で先に戻ってきたのだ。



「すぐに戻ってくるだろ」


「あっ――」



 弥堂語で端的にそれを説明すると彼は自席の方へ向かった。


 反射的に聖人が呼び止めようとするが――



「――オイ、やめとけ」

「蛮……」


「七海は大丈夫だ。すぐ来る」

「でも――」



 なおも聖人が言い募ろうとすると、蛭子は彼の顏の前に握った拳を突き出した。



「わっ――」



 聖人はそれに驚くが、別に殴られるようなことはない。


 蛭子は握った手を聖人の眼前で開く。



 人差し指と中指を動かして呪符を一瞬だけヒラヒラと見せてやると。


 その手をまた握り込んで呪符を隠した。


 どうやら陰陽術で希咲の位置情報を把握していたようだ。


 それを察して聖人はひとまず安堵する。



「ねー? アイツ感じワルイでしょー?」

「ケンカ強ェ陰キャってタチ悪いよなー」



 そうしたらギャルたちがまた話しかけてきた。


 少し彼女らに応対していると、また戸の動く音がする。


 そちらに視線を向ければ、今度は希咲 七海(きさき ななみ)が教室に入ってきていた。



 ちなみに今の音は希咲が戸を開けた音ではなく。


 弥堂が開けっ放しにしていた戸を彼女が中に入ってから閉めた音だ。


 だがそんなことはどうでもよく――



「七海――っ」


「わ――っ⁉」



 聖人が早速立ち上がって彼女に詰め寄った。


 希咲がそれに驚く声をあげた陰で、ギャルコンビがつまらなさそうに舌打ちをする。



「だ、大丈夫だったの……⁉」

「は? あ、え……?」


「弥堂と話をつけたんだろ?」

「あー……、まぁ……」



 聖人の剣幕にたじろいだ希咲だったが、彼が何を心配していたのかがわかると曖昧な声を返した。


 まだ何も決着がついていないのでほんの少し答えに迷っただけなのだが。


 聖人はそれを不審に思ってしまう。



「どうなったの?」

「んー、っと……。まだ終わってないっていうか?」


「え?」

「明日の放課後にはそれなりの結果を話せると思う。それまで待ってて」


「待っててって……」



 具体的なことが何も聞けず、聖人はさらに焦れていった。



「今なにがどうなってるのか。何も話せないの?」

「え、えぇっと……」



 その詰問には希咲はもっと困ってしまう。



 話そうにも、核心にあたる部分は誰にも言わないと弥堂と約束したばかりだ。


 それを除くと説明できる新しい話は特にない。


 さらに、物事をスムーズに進めるためにも、聖人にはまだ知らせない方がいいだろうという判断もある。



 とはいえ。


 これまでもずっと彼には重要な情報を伏せてきた。


 いい加減聖人が焦れてしまう気持ちは希咲にもわかる。


 そしてそれに対して「悪いな」という気持ちも確かにあった。



「…………」


「七海……?」



 その罪悪感を表情に出してしまうと、聖人の不信感がより高まる。



「もしかして――」

「え?」


「何かあったの?」

「なにか……?」



 彼が何を言っているのかわからずに、希咲はキョトンっとした。


 しかし――



「あいつに――弥堂に何かされたんじゃ……⁉」


「――ッ⁉」



――それを訊かれた途端。


 七海ちゃんのお顔がシュボっと一気に赤くなり、頭のてっぺんからプシュゥーっと煙が噴き出た。


 それからチャームポイントのサイドテールも、パニックになったようにグルグルと回る。



「え――⁉」



 その過剰なまでのリアクションに聖人は驚く。


 当然、周囲の皆さんもビックリだ。



「な、七海……?」


「な――」



 顔色を窺おうとする聖人に、希咲はキッと強い眼差しを向けた。


 それは否定と拒絶。



「――ないから! なにも! これっぽっちも! ゼッタイ! ありえないから!」


「あ、はい」



 かつてない程のその強烈な勢いに押され、聖人はコクコクと頷いてしまう。


 そして希咲は猛烈な歩調で自席まで行ってしまった。


 聖人は中途半端に手を伸ばしたままその場に取り残されてしまう。



 その様子は誰がどう見ても――



(なにかあったんだ……!)



――クラスのみんなもそう思った。



 心なしか生徒さんたちはそわそわし始める。


 そんな中で――



「…………」



 こいつ大丈夫かと――弥堂は呆れた眼で席に座った希咲を視る。


 その視線に気付いているようで、彼女もキッと恨みがましく睨んできた。



「七海……、一体なにが……っ」



 その姿すら意味深なものに見えてしまうようで、聖人が悔しそうに歯噛みした。



 そのタイミングで、教室の端っこの方で小さく舌打ちがされる。


 桃川 由彩(ももかわ ゆあ)だ。



 彼女の視線はすぐ右斜め前の席に向いている。


 その席に座る弥堂の背中を睨んでいた。



(さっさとあの女ネトレよ。ビトーつかえねーな)



 そんな自分勝手なことを考えている。



(聖人キュンのハーレムからどんどん女を消せよ。風紀委員だろっつーの)



 イライラとしながらマスクごしに親指の爪を噛もうとしたその時――



 グルリと――



 唐突に弥堂の首が回った。


 彼の顔は左斜め後ろ――つまり、桃川の方を向いている。


 どうやら自分に向けられた邪な悪意に感づいたようだ。



「…………」


「ひっ――」



 彼の魔眼は完全に桃川さんをロックオンしている。


 彼女は怯えたような仕草を見せて目を逸らした。


 しかし、彼はそのまま桃川を視続けている。


 おまけに、なんか眼が蒼く光ってるような気もする。



(な、なに……⁉ こっちみんな! キモイっつーの!)



 喧嘩が強いとかどうとかよりも、その執拗さと不審さに桃川さんはガチビビリをした。



 そんな弥堂を――



(――あ、あいつ……ッ!)



 七海ちゃんが睨んでいる。



(なんで桃川さんとか大人しい子にいきなり……! やめなさいよねっ!)



 ついさっき自分にあれだけエロいことしたくせに、教室に着くなり早速他の女子をガン見し始めたクズ男に激しい怒りを覚えた。


 そんな希咲を――



「な、七海……っ」



 聖人が気にしていた。


 彼女はずっと弥堂の方を意識しているからだ。


 そんな聖人を――



「マ、マサトくん……、そんなに七海が……っ」



 白ギャルのカナちゃんがキュッと切なそうにしていた。


 そしてそんな寝室のことを――



「フッ……」



 見つめながらエセイケメンの小鳥遊くんが唇をペロリと舐めた。


 彼はフラれたてのちょいふわ白ギャルへのワンチャンを狙っている。



 小鳥遊→寝室→聖人→希咲→弥堂→桃川――このようなイカれたラインが教室内に描かれていた。



「ややこしい……! このクラスややこしいよ……っ!」



 その様を外から眺めて普通人の日下部 真帆(くさかべ まほ)が頭を抱える。



「やっぱ弥堂くんってば大人しい子を狙うっぽいな? マホマホもあぶないぞー?」

「やめてよ! 私をあのラインに組み込まないで! メンタルもたないから!」



 早乙女ののかの冗談に、日下部さんは半泣きになってしまった。


 巻き込まれたくないという気持ちだけが只々そこにあった。




「これは不穏なのかしら? それとも笑っていいのかしら?」


 窓側の列では舞鶴 小夜子(まいつる さよこ)が興味深げに騒ぎを見ている。



「うふふ……」

「楓?」



 すると一つ前の席に座る友人であり、このクラスの学級委員でもある野崎 楓(のざき かえで)が笑みを溢す。それを友人に指摘されると――



「あ――やだ。顔に出ちゃってた? はずかしい……っ」

「それは別にいいのだけれど」



 どうやら意図せぬ笑みだったようで、野崎さんはお顔をぺたぺた触って恥じ入る。


 舞鶴は不思議そうな目を彼女へ向けた。



「これは学級委員長的に喜ばしいの?」

「え?」



 野崎さんは眼鏡をかけ直してから答える。



「委員長じゃないけど。でも、そうだね」


「ふぅん?」


「だって――」



 野崎さんは今度は意図してニッコリと微笑んだ。



「席がちゃんと埋まってた方が――クラスメイトが揃ってた方が嬉しいじゃない?」

「まぁ、委員長的にはそうかもしれないわね」


「違うよ。一人のクラスメイトとしてだよ。小夜子もそう思わない?」

「あら? 私の善性が試されているわね」



 舞鶴のシニカルなジョークに野崎さんはクスクスと笑う。



「もう5月も半ばだしさ」

「うん?」


「もうすぐクラスのみんなのこと少しわかってくるじゃない?」

「そうね。そういう時期だわ。今月が終わるまでには人間関係も一旦確定するでしょうし」


「うん。今月が終わるまでには。きっと私たちはちゃんとクラスになれる。なれそうだなって、そう思ったの」

「なるほど。それなら嬉しいわね。私も一人のクラスメイトとして」


「もう。さっきのはイジワルで言ったんじゃないってば」

「わかってるわよ。でも、そう上手くいくかしら?」


「え?」



 舞鶴がニヤリとイジワルそうに口の端を持ち上げてみせると、野崎さんはパチパチとまばたきをした。



「このクラス厄介そうな子ばっかりじゃない? 委員長のお手並み拝見ね」

「もう。またそんなこと言って……」



 野崎さんは苦笑いをした。



「でも――」

「うん?」


「それをするのは私なんかじゃないよ」

「え?」



 彼女はそう謙遜しながら控えめに視線を動かす。



 自分の席がある列の後ろを見て、それから弥堂へ視線を遣る。



「きっと……、もうすぐ……」

「楓?」


「ううん、なんでもない。やっぱり嬉しいねって」

「ふふ、そうね」



 野崎さんの言っていることの意味はあまりわからなかったが、舞鶴は一緒に笑った。


 彼女はわりかしクールな女子生徒だが悪い人間ではない。


 友人が楽しそうにしていて、それで自分も楽しく感じた。


 理屈も事実も横に置いておく。



(それにしても――)



 舞鶴はチラリと友人の顔を見る。



 今日の野崎さんはいつもよりもずっと――


 ホクホク顔で上機嫌なようだった。


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― 新着の感想 ―
実は、蛮くんも結構モテるんじゃないですか?! 最後にはみんなで熱血っぽく「俺たちは最高のクラスだ!」なんて叫ぶ展開になったりして(笑)
全ての人間が自分の価値観だけで世界を見ている…地獄だぁ そういえばまだ5月でしたねゴールデンウィークが濃すぎて忘れてた
野崎さんが怪しすぎる。エアリスさんが教義広めるとか言ってたし弥堂教の信者なんじゃ?
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