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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
3章 俺は普通の高校生なので、帰還勇者なんて知らない
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3章19 false brave? ⑤


 指の腹を下唇に乗せて。


 爪の表面に上唇が触れる。


 先端が前歯に当たった。


 さらに奥へ迎え入れるために口を開けて――



(――ちょっと待って……っ⁉)



――希咲はハッとして手を止めた。



(もしかしてこれ……、とんでもなくえっちなんじゃないの……⁉)



 七海ちゃんは若干素に戻ってしまった。



「おい?」


「ちょっほまっふぇ!」


「チョコパフェ……?」



 首を傾げて怪訝そうにする弥堂を無視して、男の子の指を咥えて魔力をチューチュー吸うことの妥当性について考えてみる。



(けっこうアウトよね……?)



 自分の判定に「うんうん」と頷いて納得した。


 無意識に弥堂の指を唇で“はむはむ”しながら。



 その感触に弥堂は眉を顰め――



「何がしたいんだお前は」


「ぃにゃぁーーッ⁉」



――指で希咲の下唇を圧し潰して、歯と歯茎の境界を横になぞる。


 希咲は奇怪な悲鳴を上げながら後退り、掴んでいた弥堂の手を離した。



 思わず舌が丸まる。


 昨日知ったばかりの感触を。


 この舌が憶えている。



「ななな、なにすんのよっ⁉」



 羞恥に頬を染めて弥堂へ怒鳴った。



「それは俺の台詞なんだが」



 唐突に人の指をしゃぶろうとしてきた女へ弥堂は侮蔑の眼を向ける。



「そもそも――」



 嘆息し一つ間を空けて――



「別に無理してお前がどうにかしなくてもいいだろ」

「そ、それはそうだけど……」


「テンパりながらわけのわからないことをしても、後でまた泣くことになるぞ」

「そんな言い方しなくてもいいじゃん」



 希咲が「むぅっ」と唇を尖らせると、弥堂は肩を竦める。



「だいたい、ほうっておいても大した問題はないんだ。別にいいだろ」


「うん……。まぁ……」



 極めて冷静に告げる弥堂の言葉に希咲は頷きかけて――



(――や、待って……⁉)



――改めて現在の状況を頭に並べる。



 何故か弥堂の魔力がいっぱいになった。


 それは彼の身体の許容量を超えている。


 それを減らさないと溢れることになる。


 具体的にはパァーンっとなる。



 彼の言う「問題がない」とは――


 死んでも生き返るから大丈夫という意味だ。



『死に戻り』があるせいで、弥堂は一回一回の死に意味を感じておらず、忌避もない。


 だが、希咲はそうは思わない。


 以前に夢で見た彼の死を思い出す。



 ジルクフリードとの戦いもそうだが。


 それよりも、昨夜見た悪魔との戦いだ。



 ルビアに叱られながら彼は死に続けていた。


 終わりを待つように。



 テロリストが喚び出した妖との戦い。


 人間性をかなぐり棄てたような戦いぶりで人狼を屠り。


 悪霊との戦いではその“終わり”が間近にまで迫っていた。



 エルフィーネはそれに涙していた。


 そして希咲も――



(――あんなんでいいわけないじゃない……っ!)



 目の前で彼が生命を投げ出すことを認められはしない。


 その為には――



「…………」


「なんだ?」



 緩慢な動作で弥堂の顔を見て、怪訝そうにする彼に複雑な感情を抱く。


 恐怖、畏怖、憐憫、怒り……、他にも様々な感情が混ざって、それらの処理に苦労する。


 なにより強いのは困惑と戦慄かもしれない。


 だって――



(――えっ……? あたしがどうにかしないと、こいつ死んじゃうの……?)



 偉そうにしてるくせに儚いこのワケのわからない生き物に、七海ちゃんは茫然としてしまった。


 ここで彼の言うように『何もしない』という選択をするということはつまり――



(――あたしが見殺しにしたことになんのぉ……っ⁉)



 なんて迷惑な男なんだと大層ビックリした。



 確かに彼の言うとおり、希咲にどうにかしなければならない義務や責任はない。


 最終的には彼は助かるのだろう。


 結果は変わらない。


 だが――



 今目の前で彼が死ぬことを、自分が許容するのかどうか。



――そんな悪質な選択を今強いられている。



「な、なんてヤなヤツなの……⁉」


「あ?」



 思わず考えていることが言葉として漏れてしまうと、弥堂が気分を損ねた。



「別にお前に何も頼んでねえだろ」

「そういう問題じゃないじゃん!」


「そもそもその問題がないと言ってる」

「ないわけないって言ってんじゃんか」


「うるせえな。どうせ何も出来やしねえんだから黙ってろ」

「は?」



 その言い様には希咲もカチンときた。



「出来るし。やってやるから大人しくしてなさいよ」


「何言ってんだお前」



 売り言葉に買い言葉で覚悟がガンギマリし、弥堂の制服を掴んで顔を睨みつける。


 しかしそうは言ったものの――



(――ど、どうしよう……⁉)



――生半可なやり方では効果がなかったことは既に証明されている。


 チラリと――彼の手を見下ろす。



(や、やっぱり指……?)



 先はアウト判定をしたが、それが現実的にアリかナシかのギリギリのラインだろう。


 しかし、そこまでやっても仮に効果がイマイチだったら完全にやり損だ。



(それならいっそ……)



 今度はチラリと視線をあげる。


 目に留まったのは彼の唇で――



「――っ⁉」



――思わず息を呑む。


 昨日の感触が急速に蘇った気がした。



(いやいやいやっ! それはありえないし……っ!)



 いくらなんでもそこまでするのはどうかと思うし。


 それに――



(キスしたことを謝りにきたのにもっかいキスするとかイミわかんなくない⁉)



 そんなことになれば人としても女としても本当に終わりだ。



(じゃあどうすれば……)



 唇から目を逸らすように視線を下げる。


 すると、男の浮き出た喉仏が目に映った。



「…………っ」



 何故か七海ちゃんの喉がゴクリと鳴る。


 彼女は今、首にチューするのはエッチかどうかを考えている。



(い……、いや、ナシでしょ……!)



 どうやらアウト判定のようだ。


 何故なら、みらいさんに借りた吸血鬼男子ものの漫画は大抵エッチだったからだ。


 七海ちゃんはハッとする。


 ジロリと弥堂の顔を見た。



(あ、あたしよりこいつの方が吸血鬼っぽいわよね……)



 テンパって思考が明後日の方向にいき、何故か弥堂に首に吸いつかれる想像をしてしまう。


 なんかすごくエッチだった。



「あばばばば……」



 七海ちゃんのお目めがグルグルして、お口からは意味不明な言葉が漏れてきた。


 ここまで彼女の表情がコロコロと変わる様を弥堂は胡乱な瞳で見ていたのだが、いい加減止めてやるかという気になる。



「おい、もういいだろ」



 その声に反応して彼女はまたもハッとなる。


 そして今度はキッと睨んできた。



「ダ、ダメっ! いいわけないでしょ⁉」

「は?」


「そんなことさせるわけないし!」

「なに言ってんだお前」


「あたしがするって言ってんじゃん!」

「あ、おい――」



 よくない妄想で脳みそが茹ってしまった彼女は暴走する。


 自分に迫ってきている――と思い込んでいる弥堂の身体をグイグイ押し返した。


 めちゃくちゃに手を動かしていると彼のネクタイを掴んでしまう。


 七海ちゃんはハッとした。



「そ、そうだ――」



 彼のネクタイを少し緩めてからその先っぽをブレザーの胸ポケットに押し込む。


 そして彼のYシャツのボタンに手を伸ばした。



「なにしてんだお前?」


「うっさい! ジッとしてて!」



 理解不能すぎて口を開ける弥堂を叱りながら、プチプチと上からボタンを外していく。


 一番上は元々開いていたので、その下から3つほど開けたところでグイっとシャツの内側に右の親指を捻じ込み。


 そしてガバっと弥堂の胸元を開いた。



 露わになる肌。


 その中で一点をロックオンする。



 喉のさらに下――鎖骨だ。



「おい――」


「――っ!」



 弥堂が何かを言う前に希咲はそこに口を付けた。


 肌を盛り上げるそこを上と下の唇で挟む。


 そして――



(【魔力吸収(ドレイン)】――ッ!)



――能力を発動させた。



 喉と胸の間。


 そこなら――



(――えっちじゃないはず……ッ!)



――彼女はそう思い込んでいた。


 すると――



「――お……?」



――弥堂が声を出したことで、希咲はビクっと肩を跳ねさせる。


 だけど目をギュッと閉じて行為を続けた。



 何も弥堂が喘ぎ声を出したわけではない。


 確かに魔力が減っていく感触がしたのだ。


 それは希咲も感じている。


 だからこのまま続けることにした。



 しかし――



「――ぷぁ……っ」



――そう何秒も経たずに、彼女は息継ぎをするようにして口を離した。



「どうした?」


「ちょっと、まって……」



 希咲の顔色が少し変わっていたので弥堂が問うと、彼女は左手で口を押えた。



「もう、いっぱい……」


「あ?」



 結局ダメじゃねえかと弥堂は眉を顰める。



「吸うこと自体はまだ出来るんだけど……」

「どういうことだ?」


「あんたも言ってたじゃん。許容量……」

「?」


「あたしの最大MP以上はあたしもストックできないみたいで……」

「……つまり?」


「もう、おなかいっぱい……」

「…………」



 弥堂は残念そうな目で彼女を視た。


 確かにさっきよりも魔力は減ったが、未だ弥堂の身体を包む魔力オーラは健在だ。


 つまり、大して役に立たなかったということだ。



「あによ、その目は」

「言ってもいいのか?」


「ダメ。つか、しょうがないじゃん! あたし魔法職じゃないし!」

「知らんが。要するに、お前も魔力の保有量が少ないということか」


「そ」

「……もう終わりでいいか?」



 弥堂が失望の眼を向けると希咲はムッとする。


 そして――



「あ――そうだ!」



――彼女は指輪から魔石を取り出した。



「なんだそれ?」

「魔石よ」


「なんだそれ?」

「こっちに魔力を移せば……」


「どういうことだ?」

「ちょっと黙ってて! 【アイテムマスター】発動っ!」



 気合を発して希咲はまた弥堂の鎖骨に吸いついた。


 すると――



「へぇ」



――また弥堂が声を発し、希咲は反応してビクっとする。


 もちろん今回も喘ぎ声ではない。



 自分の魔力が彼女の身体に移り、そしてそれが彼女の持つ石に流れていく。


 少しすると、石にも変化が見られた。



 白色――あるいは半透明な無色の石。


 それが段々と色づいていって、やがて真っ赤になった。



「……んっ」



 希咲が僅かに声を漏らすと、二人の足元に空の木箱が出現する。


 彼女はそこに赤くなった魔石をポイっと投げ入れた。


 そして指輪に念じて次の空の魔石を左手に取り出す。


 次はそれに魔力を充填していった。



 弥堂は自分の襟を掴む希咲の右手をジッと視る。



(こいつが物を取り出す時に薬指の指輪が魔力を発している……?)



 それはとても僅かな反応だった。


 こうして魔眼で魔素の動きを観測し続けていないと気が付かないくらいの小さな魔力反応だ。



(どこか別の空間に物を出し入れしているのか?)



 そんな魔術や技術は、弥堂は聞いたことがない。


 廻夜部長に渡された異世界転生ものの文献では定番だったが。


 だが現実で眼にすると、明らかに逸脱した現象だ。


 しかも、その起こっている現象と使っている魔力を比較すれば、破格のコストパフォーマンスだと思える。



(この赤い石、昨日も使っていたな……)



 こうやって魔石に魔力を貯めておいて。


 その魔石から武器に魔力を供給して使用する。



(魔法職ではない、ね……)



 そんな彼女が魔剣や魔道具の類としか思えない物を扱えているのは、この仕組みによって実現しているようだ。


 彼女の作業に身を委ねながらそんなことに思いを馳せていると、また満タンになった魔石がカランッと木箱の底を鳴らした。



 チューっ、カラン――


 チューっ、カラン――


 チューっ、カラン――



――と暫し続き。



「――ぷぁっ」



 希咲がまた口を離した。



「おい――」



 今度はどうした? と続けようとして――


 希咲の顔を目にした弥堂の口が止まる。



 彼女の顔色がまた変わっていた。



 頬や目元が紅潮し、潤んだ瞳の焦点は曖昧だ。


 少しだらしなく開いた唇の隙間から、「はっ……はっ……」と短く小さな息が弾んでいる。


 そんな顔を見つめていると、少しして彼女と目が合った。



「……なに?」


「……今度はどうした?」



 希咲は息を継いでから答える。



「よったみたい……」


「酔った?」



 眉を寄せる弥堂に希咲は喋るのに苦労しながら説明をする。



「わかんない。あたしも初めてなんだけど、たぶん酔ってるみたいな……?」

「気分が悪いということか?」


「ん……、どうだろ? 気持ち悪くはないんだけど、なんかふわふわする……」

「おい――」



 言いながら彼女は身体をよろめかせた。


 弥堂は咄嗟に彼女の腰に腕を回して抱きとめる。



「……ん。あんがと」


「いや……」



 いつもなら大騒ぎするところだが、彼女は逆に体重を預けてきた。


 詳しい容態は不明だが、本当に酔っぱらっているかのような挙動だ。



「……たぶん、適正ないからかも?」

「適性?」


「あたし、魔法職じゃないから……」

「体内で魔力を扱うのに適していないという意味か?」


「わかんない、けど。そう、かも……」

「いつもはどうしているんだ?」


「こんな風にして、魔力吸ったことないし……。こんな風に、魔石補充したの……、はじめて……」

「……もうやめるか?」


「んーん……。まだ……する……」

「…………」



 しかし彼女はそう言ったきり動こうとしない。


 どこか「ぽーっ」とした様子で弥堂の顔を見つめ続けている。



「――ッ」



 弥堂の首筋にぞわぞわっとしたモノが奔り――


 反射的に頭を振って後頭部を背後の壁に打ち付けた。



(あぶなかった……)



 そのショックで弥堂は正気にかえる。


 視線を希咲の顔に戻した。



「……?」



 彼女は今の弥堂の奇行に大した反応もせずに、ただ不思議そうに小首を傾げている。


 その貌には、確かな色気を感じた。



(こいつ……、“夢魔”とか言ったな……)



 彼女の言う称号とやらの意味はわからないが、まるで淫魔の魅了をくらったようだった。



 弥堂は過去に一度それをくらったことがあるので間違いないと思えた。


 以前に悪魔を召喚しては拷問して殺す実験をしていた時に、うっかり淫魔を喚び出してうっかり魅了されてしまったのだ。


 あの時は大変なことになった。


 ルナリナはもっと大変なことになっていた。



 希咲の顔を見つめると、その時の感じに極めて近い状態に陥りそうになる。



(そういや、淫魔も夢魔も同じようなもんだって言ってたか……)



 それを言っていたのは、まさに淫魔であるメロだ。


 彼女のことを思い出してみる。



『ジブンサキュバスッスから――』

『これからはレンジャータイプのネコさんってことで一つよろしくな?』

『ネコさんフラァーッシュッ!』

『ハアァァァァァ……ッ! “強制3Pフォースド・デッドスリー”――ッ!』



 弥堂はスンっと真顔になった。



(あのバカネコ、マジでゴミだな)



 自身の使い魔に対して酷く残念な気持ちになった。


 その一方で――


 改めて希咲の顔をジッと見てみる。



 キスをして魔力を吸い取る。


 キスをして夢を操り悪さをする。



 こちらの方がよっぽど――



(おのれ……! これがギャルか……っ!)



 よくわからないが激しい敵愾心が湧く。


 理由は特に思いつかないが、非常に許し難いと思った。


 彼女の瞳へ鋭い視線をぶつけると――



「――もうしないの?」



 パチパチとまばたきをして小首を傾げる。


 弥堂は何故かイラっとした。



「チッ――」

「――んむぅっ⁉」



 希咲の後頭部に手を回し、彼女の頭を乱暴に胸へ引き寄せる。


 鎖骨辺りに顔を押し付けてそのまま頭を押さえつけた。



 最初こそ驚きはしたものの。


 希咲は一度だけ弥堂の顔を睨みつけるとすぐに視線を伏せ――


 碌に抵抗することもなく、そこへ唇を這わせてくる。


 それだけでなく――



「――っ⁉」



――今度は鎖骨に舌先も当ててくる。


 舐めるというほどの動きではない。


 舌先何寸かを押し当てた状態で、やわやわと蠢かせている。



 酔っているという表現どおり、今の彼女は正気じゃないのかもしれない。


 でなければ自発的にこんなことをしてくるはずがない。



 その酔いはもしかすると伝播するものなのだろうか。


 次の瞬間――



 ゴォッ――と、弥堂の魔力オーラが再び噴き上がった。



 弥堂の眼が驚きに見開き――



「――ふむぅっ⁉ んんんんっ……んぅっ!」



 希咲もまた驚き、口の中がいっぱいになったように苦しむ。


 眉間に皺を寄せて顔を顰めながら抗議をするような視線を送り、弥堂の胸をパンパンと叩いた。


 やがてすぐに、堪えきれなくなり「ぷはぁっ」と口を離す。



「あんたいきなりなにすんのよ!――って、なにこれぇ⁉」



 弥堂を怒鳴りつけつつ現在の彼の状態を目にしてビックリする。



「な、なんかまたいっぱい出てない……⁉」

「なんか出ちまったんだよ」


「あたしが一生懸命やってんのになんでまたおっきくすんのよ!」

「しょうがねえだろ」


「いみわかんないっ!」

「うるせえな。いいからお前は黙って吸ってりゃいいんだよ」


「あんっ――⁉」



 弥堂はおざなりに返答して希咲の腰を引き寄せる。



「もぉ」



 拗ねたような声を出して、彼女は自分から顔を寄せた。


 そしてまた魔力を吸い出す。



(シラフに戻ったらめんどくさそうだな……)



 この後のことを想像しながら弥堂がボーっとしていると――



「――ねぇ?」

「あ?」



 希咲に話しかけられる。



「あんたもしてよ」


「は?」


「だから、これ」



 そう言って彼女は無色の魔石を渡してくる。



「やれと言われてもな……」

「自分で魔力移したり出来ないの?」


「やったことないからな。それは魔道具だと考えればいいのか?」

「ん? たぶん?」


「ちょっともう一回やってるとこ見せろ」

「ん……」



 弥堂は魔眼で希咲の身体から魔石へ魔力が移っていく様子をよく観察してみる。



「わかる?」

「なんとなくわかったが……」



 試しに聖剣に魔力を流すようにやってみると、一瞬で魔石の色が真っ赤になり――



「――ちょっ⁉ ちょっとストップストップ……!」

「あ?」



 慌てた声を出す希咲に気を取られた瞬間に――



「お?」

「ぎゃあぁぁーーっ⁉」



――パァーンっと魔石が破裂した。


 ちなみに「ぎゃぁー」と叫んだ方が七海ちゃんだ。



「ちょっと! なんで乱暴にすんのよ⁉」

「そうしたつもりはないんだが」


「もうちょい優しくやってみて?」

「やさしく……?」



 今度は一瞬流してすぐに止めるようにしてみる。


 魔石の色は薄く赤みがかかったようになった。



「どうだ?」

「うーん……? 半分いかないくらい? もっかい」


「……」

「――って! ぎゃあぁーーっ⁉」



 再注入してみるとまた破裂してしまった。


 悲鳴を上げてからパチパチとまばたきをし、七海ちゃんはふにゃっと眉を下げた。



「ヘタっぴなの……?」

「うるせぇな。この状態に慣れてないからコントロール出来てねえんだよ」



 弥堂は嘘を吐いた。


 魔力が多い状態に慣れていないのは本当だが、彼は素の状態でも魔道具などの扱いが上手くない。


 体内での魔力操作だけならそれなりの腕なのだが、それを外に出して何かをすることが苦手であり。


 さらに何故か魔道具などとの相性が絶望的に悪いのだ。



 希咲はそういった事情を何も知らないが、なんとなく察する。


 木箱をさらに2つ指輪から取り出した。


 1つは空の箱。もう1つには無色の魔石が大量に入っている。



「んー……、じゃ、今みたいに一回だけ魔力入れたらこっちの空の箱に入れて」

「それでいいのか?」


「ん。満タンまでの残りはあたしが埋めるから。こっちの魔石は全部中が空っぽのやつね」

「魔力が入ると赤くなるのか」


「そそ。あっ、ちょっと疲れたから座ってしない?」

「あぁ」



 弥堂はその場に腰を下ろして壁に背を付ける。



「足伸ばして」

「あ?」



 言われるままに両足を伸ばして座った。


 すると、その足の間に希咲はお尻をつける。


 身体の向きを少し横にズラして、弥堂の右足の上に足を伸ばして膝を立てた。


 そしてまた彼女は弥堂の鎖骨に顔を近づける。



 その時――



「――む」



 自分の唾液でぬらりと濡れた弥堂の鎖骨から、雫が一滴タラリと垂れるのに気が付いた。


 希咲は頬を染めながらそれをチロリと舐めとる。


 そしてまた唇を付けた。



「ぁむっ……」


「…………」



 まるで横抱きにしているような姿勢になり、弥堂はなんとなく彼女の背中を手で支えてやる。


 そうすると、希咲の方は左手を弥堂の首に。


 右手は腋の下から背中の方へ回してきた。



 これはどうなんだろうと疑問を覚えつつ、弥堂は流れに身を任せる。


 現在の状況もそうなのだが、それよりも――と視線を空へと向ける。



 そもそも何のために彼女とここにやってきて。


 そして一体何の話をしていたのか。



 それを全部忘れてしまった。


 思い出そうとすれば思い出せるのだろうが、その作業がひどく億劫に感じた。


 視線を落とすと――そこには希咲の脚が。



 ピッタリと閉じた左右の腿。


 僅かに浮き出る筋から力がこもっているように見える。



 その腿がどこかもどかしそうにモジモジと身動ぎし――ほんの少し隙間が空いた。


 それはすぐに閉じられ、またゆっくりと開いていく。



 弥堂は右手を彼女の左の膝に置いた。


 すると、預けられる体重が増したように感じた。 

 


 時折失敗しながら無心で魔石に魔力を送り続ける。


 腕と胸に体温を感じながら――


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