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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
3章 俺は普通の高校生なので、帰還勇者なんて知らない
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3章19 false brave? ②


 壁際に追い詰められて――



「――教えて。あんたはどうしたいの?」



――希咲に追い詰められて。



 ほぼ抱き合うような近い距離。


 ココロとココロまで触れ合ってしまいそうな。



「それを言って。その上で利害がぶつかったら?」



 だけどまだ、弥堂は触れさせない。



「そうなったらどうする?」


「そしたら一緒に考えよ?」



 まるで綺麗ごとで何の答えにもなっていない。


 そんな幻想はもう弥堂は信じられない。


 とっくに斬り捨てられてしまったから。



「結局戦うしかない」



 それしかなかった。


 だけど希咲はそれを知らないから。


 ゆっくりと首を横に振る。


 そしてまた真っ直ぐに弥堂を見つめる。



「そんなことない。だって、あたしたちの願いはきっと同じはずだから」


「勝手なことを言うな。お前に何がわかる」


「わかんない。ちょっとしか。だから聞いてんの」


「お前はなにもわかっていない」



 弥堂は頑なに言い張る。


 希咲は制服のポケットから折りたたまれた紙を一枚取り出す。


 そしてそれを弥堂の胸に押し付けた。



「じゃ、これはなに?」

「なんだこれは」


「あんたの部屋にあったの。手紙」

「手紙……?」


「これ、あたし宛てでしょ?」

「…………」



 そこまで言われて、弥堂はようやくその手紙のことを思い出した。



「それは捨てたはずだ」

「拾った。あんたの部屋で」


「チッ」

「ちゃんと片付けないから見落とすのよ。ざまぁみろ」



 失敗したと目線を逸らす弥堂に、希咲はニヤリと笑う。



「これはなに?」

「憶えてない」


「ウソ。あんたは忘れない」

「忘れる。思い出せるだけだ」


「じゃ、思い出して」

「…………」



 思い出すまでもない。


 忘れていないのだから。



「悪魔と戦う前――港に行く前に、これ書いてくれたんでしょ?」

「……どうだったかな」


「自分が死んじゃうかもって……。その後にあたしに愛苗のこと教えてくれようとしたんでしょ? なんで?」

「それも勘違いだ」



 正確には『死んじゃうかも』ではなく、『死ぬつもりだった』だ。


 そこまではバレていないのかと弥堂は内心で苦笑いする。


 そんなことで僅かに精神的な優位性を取り戻した自分があまりに惨めで笑えたのだ。



「勘違いじゃない。これに書いてあるのと同じことを、アスって悪魔が言ってた」

「それはバレてんのかよ」


「そうよ。だからこの手紙は嘘でも勘違いでもない」

「そうかよ」


「そうよ」

「だがさっき言っただろ。過去の俺は全て別人だ。その手紙を書いたヤツはもう死んだ。そいつのことは今の俺には関係ない」


「あ、あんたって子はぁ~……っ!」



 あまりに往生際の悪い男の有様に、いい加減希咲も苛立ってくる。


 だが、ここで怒ってしまってはいつもと一緒だ。


 どうにか冷静さを保つ。



「じゃあ今のあんたはどう思ってんのよ!」

「別に。言ったところで明日には変わる」


「それでもいい! 言いなさいよ!」

「別に。意味が無い」


「ホントは忘れてなんかないし、変わってもないくせに!」

「さぁ、どうだろうな」


「エルフィさんだって見てたんだから! あんたが手紙書いてたとこ!」

「なんだと?」



 思わず目線を希咲の顔に戻してしまう。



(こいつ……、今のエルやルヴィが視えてんのか……?)



 あくまでそれは弥堂の眼を通した記憶の中での話なのだが、そんなことは弥堂にはわからない。


 しかし、そのことで動揺をしてしまった。



「それなら、あたしが言う!」

「……なにを?」


「あたしの気持ちっ」

「必要ない」


「ダメ! あたしは――」



 希咲の視線に真っ直ぐ撃ち抜かれる。



「――あたしは! 愛苗に会いたい……っ!」

『あいたい……、ななみちゃんにあいたい……っ。もう一回、あいたいよぅ……っ』



 記憶と実像が重なる。



「また前みたいに一緒に……っ」

『ななみちゃんと、びとうくんと……、また、がっこういきたい……』


「もしもまだ。愛苗の問題が終わってないんなら、それを一緒に解決して……、それで……」

『また、ななみちゃんと、おともだちになりたい……っ!』


「それで、他にもまだ何かがあるんなら……! あたしはそれをやっつける! あたしは今度こそ、愛苗を守りたい……っ!」



 それが希咲 七海の気持ち(ねがい)


 それなら――



「――あんたは⁉」



 弥堂 優輝の気持ち(ねがい)とは。



「ちゃんと言ってくんなきゃわかんない。だから――」



 記憶の中にそれは記録されている。



「――だから。教えて? あんたのきもち……」



 二人が浮かべたのは同じ記憶――



 迫る破滅の光。


 目の前にはよく知る少女。


 騙され傷つき変容を強いられ膝をつき。


 それでも自分よりもさらに小さな少女を抱きしめ。


 驚きに見開いた丸い瞳が悲痛に歪み大粒の涙が零れ――



 記憶の中に記録されたその瞳と、目の前の七色の輝きが重なる。



 ドクっと――


 強く心臓が打った。



「俺はおまえを――」



 自然と、あの時と同じ言葉が弥堂の口から漏れゆく。


 その時――



 ユラァっと――



「は――?」



 希咲の目が驚きに丸くなる。



「希咲。俺は――」


「――ちょちょちょっ! すとっぷ! すとっぷ!」


「――あ?」



 何か決定的なことを言おうとしていた弥堂を、希咲は思わず止めた。


 弥堂は気分を害する。



「なんだ? 俺は――」

「――や。ちょっと待ってって!」


「ふざけるな。お前から聞いておいて。いいか? 俺は――」

「なんかヤバいって!」


「なにがヤバイというんだ?」

「あんたなんか出てる! 出ちゃってるってば!」


「出てない。それより、俺は――」

「いいから! 一回自分見てみなさいって!」



 真っ直ぐに自分を見つめたまま視線を動かさない弥堂の頬を、希咲はペチペチと叩く。



「あ?」



 仕方なく、弥堂は自分と周囲を確認してみた。


 すると――



「……なんだこれ?」



――それは蒼銀の魔力光。


 弥堂の身体を包むように蒼銀のオーラが出ていた。


 これは魔力量が極めて高い者にしか起こらない現象で、そして悪魔との最終決戦の時と同じ現象だ。



「あたしが聞きたいわよ! なんなのこれ⁉」

「……魔力だな」


「な、なんでいきなり魔力出すのよ⁉」

「知るか。そもそも俺にこんな魔力はないはずなんだが……」



 弥堂としても完全に寝耳に水で、全く想定もしていなかったことだ。何も答えようがない。



「つか、これってさ。港での時と一緒じゃない?」

「そうみたいだな」


「なんであたしがマジメな話してるのに、急に勇者さますんのよ!」

「そう言われてもな。なんか出ちまったんだよ」



 オーラとは正反対にやる気のない弥堂の受け答えから、どうやらわざとではないことが希咲にもわかる。


 だがそこで、弥堂は遅れてハッと気が付いた。



「だが、そうだな。これは好都合だ……」


「え?」



 ギラリと凶悪な魔眼の光が希咲へ向けられる。



「今ならお前に勝てる」


「――ッ⁉」



 突如殺気を向けられ、希咲は慌てて飛び退く。


 弥堂は自由を取り戻した。



「バカめ。どんな因果か知らんが、ご苦労だったな。このチカラがあればお前も紅月どもも皆殺しにできる。それで終いだ」


「あ、あんた……⁉ ホンキでそんなことやろうっての……⁉」


「…………」



 弥堂は静かに希咲を視て――



 その姿にまた愛苗が重なった。


 病室で目を覚まして涙を流した時の彼女の――



「…………やらない」


「は?」



 プイっと顔を逸らすと、希咲が呆気にとられる。


 さっきの自分のように間抜けに口を開けて。


 その顔に弥堂は溜飲を下げる。


 下がったことにした。



「見逃してやる。少なくとも今日は」

「え、えっと……?」


「お前とマジでやり合うのがアホらしくなったんだよ」

「そ、そこはかとなくムカつくわね……っ!」


「お前も昨日俺を殺せたのに見逃しただろ。これでチャラだ」

「“おあいこ”でしょ?」


「かもな」

「ふふっ、なにそれ」



 希咲は可笑しそうに笑ってそれから首を傾げる。


 戦う気は本当にないようだが、弥堂の魔力オーラは少しも消えていない。



「あんたそれひっこめないの?」

「ひっこまないんだよ」


「どうすんのそれ?」

「…………」



 弥堂は宙空を見上げて少しだけ考え。


 何も言わずにドアの方へ歩き出そうとした。



「ちょっと! どこ行くのよ⁉」



 希咲はそれを慌てて止める。



「教室に戻る」


「はぁっ⁉」



 勇者オーラ全開の男がまたおかしなことを言い出して、七海ちゃんはビックリ仰天した。


 弥堂的には、希咲の拘束が解かれたこのチャンスに逃げて、さっきまでの話を有耶無耶にしようという心づもりだ。



「話は終わりだ。戻る」

「いやいや戻れないでしょ! なに言ってんのよ」


「戻れる」

「ムリだってば! これどうすんのよ?」



 弥堂は魔力を纏う自身の手をジッと視る。


 オーラがバッキバキだった。



「ね? ダメでしょ?」

「いや、いける」


「いけないって! こんな人が教室に戻ってきたらみんなビックリしちゃうでしょ⁉」

「見た目で人を判断するのは最低だ。色んな人が居ていいって水無瀬も言ってたぞ」


「限度があるってば! これ見て『不思議だねー?』で済ましてくれるのは愛苗だけよ!」

「そんなことはない。クラスメイトを信じろ」


「こんな時ばっかキレイごとゆーな! 大体、先生に聞かれたらなんて説明すんのよ?」

「うるせぇな。いけるって言ってんだろ」



 舌打ちをして、弥堂は言い訳を考える。



「……これは、アレだ」

「どれよ?」


「その……、青春だ」

「はぁ?」



 最も似つかわしくない言葉を吐いた男に、希咲は胡散臭そうな視線を向けた。



「俺は部活とかがんばってる」

「……はぁ」


「あと、委員会とかもけっこう」

「……で?」


「そんな俺の高校生としてのなんか青春的なものがこう……オーラとして……」

「として?」


「……青春の輝きだ」

「…………」


「…………」

「…………」



 よくわからないことを言う男を七海ちゃんはジッと見る。


 弥堂もとりあえずジッと見返した。


 だがすぐに――



「……通らないか?」


「ムリだと思う……」



 自分でも苦しいなと不安になった弥堂が問うと、七海ちゃんはふにゃっと眉を下げた。



「そうか。なら仕方ないな」


「あんた適当なことばっか言うのやめなさいよね」



 弥堂は潔く諦める。


 希咲は胡乱な瞳で彼を見たが、しかしすぐに不安そうな顔に変わった。



「てか、これマジでどうすんの?」

「さぁ、わからんな」


「港の時はどうしたのよ?」

「あの時は……、魔力を使い切ったんだったか? 気付いたら消えてたな」


「あ、じゃあさ。なんか魔法使って減らすのとかどう?」

「魔法と言われてもな……」


「もちろん危ないヤツはダメよ?」



 弥堂は一応二代目の魔導書を視てみる。


 だが――



「無理だな。これだけの魔力を使い切るとなると……」



 流石に魔王級を仕留めた時ほどではないが、普段のクスリでブーストしている時とは比較にならないレベルの魔力量だ。


 この状態なら先日のアムリタ事件の際のレイスだけでなく、悪魔ボラフも問題にならない。


 クルードを取り込む前のアスにすら勝てるだろう。


 それくらいの魔力が湧いている。



「ヤバめの魔法しかないの?」

「魔法自体もそうだが、俺の制御能力の方が問題だ。多分なにを使っても暴発してこの校舎くらい吹き飛ぶぞ」


「ぅげっ、マジで? なんで港の時はだいじょぶだったの?」

「あの時は聖剣があったからな。あれが術式の制御を補助していた」



 その聖剣さんは現在は愛苗ちゃんのおブラとしてお勤めをしている。手元にはない。


 その話を聞くと、希咲はあることを思い出す。



「あ、そだ。ねぇ、あんたさ?」

「なんだ」


「なんで昨日は聖剣とかこのチカラ使わなかったの?」

「…………」



 反射的に弥堂は口を閉ざす。


 だが黙秘したところで、その内記憶を覗かれればカラクリを見破られることにもすぐに気が付いた。



「使えなかったんじゃないの?」



 すでにそれは半ば見破られているようだ。


 しかし希咲が向けてくる目は、弱点を見破ったというような攻撃的なものではなく、どこかこちらの内心を窺うようなものだった。



「それって、もしかして愛苗にあげちゃったから?」

「…………」


「そのチカラって、あんたにとっては……。それに、それがあればアムリタ事件の時だってもっと……」

「ゴミみたいなもんだ」


「愛苗を助けるために……?」

「…………」



 弱点を見破ったとマウントをとられる方がマシだったと、弥堂は嘆息する。



「運がなかったのさ」



 そして肩を竦めてそう嘯いた。



「……そっか」



 希咲は短く相槌を打って――



「教えて?」



――またさっきと同じ目で見上げてきた。


 弥堂は非常に居心地が悪くなる。


 そのよくわからないものを吐き出すように溜息を吐いた。



「……夢で見ろ」

「え?」


「今言いたくない」

「あは。なにそれ。でもいいわ。ゆるしたげる」



 クスクスと希咲が笑った時――



「あ――」



――1時間目の開始を告げるチャイムがスピーカーから鳴った。


 思わず二人は顔を見合わせてしまう。



 希咲はまたクスクスと笑い。


 弥堂は笑わず、だが顔を背けた。



 チャイムが鳴り終わって――



「あ?」



 クイッと制服の袖を引かれて、弥堂は顔を戻す。


 希咲が弥堂のブレザーの袖をゆるく掴んでいた。



「授業始まっちゃったね?」

「……そうだな」


「そのまんまじゃ戻れないね?」

「……かもな」



 ニマニマと面白がるような顔の彼女に、弥堂は素知らぬ風に答える。



「しょうがないから付き合ったげる」

「……なにを」


「一緒にサボろ?」

「…………」



 何か言い返そうかと思ったが何も思いつかず。


 もうどうでもいいかと――


 弥堂は諦めて壁に肩を預けて嘆息した。



 事実上のその降伏宣言に希咲は「ふふん」とドヤ顔をし、そしてまたクスクスと笑った。


 勝ち誇られたことにカチンときて、弥堂は袖を掴んでいる彼女の手首を突然引っ張ってやる。



「わっ――」



 完全に油断していた希咲はバランスを崩し、前のめりに弥堂の方へよろける。


 そのまま顔から弥堂の胸に飛び込みそうになって――



「んの――っ!」



――ギリギリのところで壁に手をついて、鼻先が触れる寸前で踏みとどまった。


 ついさっきと同じ体勢になったが。



 希咲は「むぅーっ」と拗ねたような顔で弥堂を睨み。


 弥堂は意趣返しの成功に「フッ」と、鼻を鳴らした。



 二人はもう暫し、時間を共にすることになる。





 今日も今日とて――



 この二人はちっともお勉強をしていない。


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― 新着の感想 ―
うわあああああああ!(←眩しすぎる青春の輝きに焼かれて灰になった吸血鬼の断末魔) な、なんてことだ! なぜ二人がこんなに甘くて素晴らしいやり取りをしているんですか? 脳内で発酵して、脳を溶かしてしまい…
ラブコメの波動?これは勝ったな 弥堂くんがオーラ撒き散らしながら帰ってきたら蛮くんが1番苦労することになりそう。なぜかそんな気がする
今までにないくらいラブコメの波動を感じる…。
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