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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
3章 俺は普通の高校生なので、帰還勇者なんて知らない
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3章18 5月13日 ②


「――というわけで、あんたが愛苗を殺したって勘違いしちゃって。それで昨日――」



 あれから希咲はどうにか順を追って経緯を説明し、



「――ヒドイこと言って、ヒドイこともしてゴメン……ッ!」」



 そしてもう一度弥堂に頭を下げた。


 だが――



「……なにが?」


「しつこいっ!」



 弥堂がまた同じリアクションをしたので、希咲は揶揄われているものと受け取りすぐに顔を上げる。


 するとそこには口を半開きにした弥堂が。


 どうやらまだ理解出来ていないらしい。



「いい加減わかってよ!」


「事情というか、物事の流れはわかったんだが……」



 弥堂は心中で眉を顰める。



(なに言ってんだこいつ……?)



 希咲が何を思って昨日戦いを挑んできたのかはわかった。


 というか、元々わかっていた。



 昨日の段階で、彼女が誤解をしていることを弥堂は把握していて。


 むしろ、それを敢えて正さずに、戦いの歯止めが無くなるように仕向けたのだ。



 だから、彼女が何を見て、何を勘違いし、何で襲撃を仕掛けてきたのかは理解出来ている。


 わからないのは、戦いを仕掛けてきたその先だ。



「――で、なんだって?」


「だ、だからぁ……」



 ジロリと半眼を向けると、七海ちゃんはモジモジとした。



「その……、勝手に……しちゃって、ゴメンなさい……」


「…………」


「も、もちろんスキルも解除するから……っ!」



 恥じらいながらも希咲は言うべきことを言いきる。


 だが――



「…………」



 弥堂はそれでも口を開けたまま不可解そうな顔をしていた。



「え……? これでもまだわかんないの……?」


「……いや」



 希咲が本格的に不安そうな表情になると、弥堂は掌を向けて彼女の発言を制した。



「……すると、なんだ? 要約すると」


「うん」


「お前は、なんかイヤな夢を見て気分が悪かったから俺を呼び出して暴行を加えたあげく毒まで盛って身動きを封じた上で無理矢理キスまでしたがそれは全部勘違いだったので謝りにきたと――そういうことか?」


「ぅぐ――っ」



 弥堂が事実確認をすると、希咲は言葉に詰まる。



「なんだ? 違うのか?」

「ちがっ――くないけど! そうだけど! なんか言い方が!」


「起きたことをそのまま言っただけだが?」

「あんた望莱から何か吹き込まれてないでしょうね⁉」


「みらい? 知らない人だな」



 全て真実で、自分でも認めていることだ。


 しかし、改めて他人の口から聞かされると、自分のやったこととは到底信じたくなかった。



「違うのなら訂正しろ。ちゃんと自分の口でハッキリと言え」


「ぬっ、ぐっ、うぅ……っ」



 弥堂に真顔で迫られると、希咲は堪えるように歯を噛みそして――



「あ、あたしは、ヤな夢見てムカっとして、あ、あんたをボコボコにしちゃって……そんで、その……」

「なんだ?」


「む、むりやりチューしちゃいましたぁ……っ! ゴメンなさーい!」

「おい、その後が抜けてるぞ」


「ふぐっ……うぅ……っ、なのに! ぜ、全部勘違いでしたぁ! か、かんちがいで……ふっ、ぅぅっ……、ぅぁあーーーんっ!」



――やりきった。


 だがその代償に七海ちゃんは泣いてしまった。


 改めて自分で口にしてみると、あんまりだなと思った。



 それを聞いて弥堂は――



「…………」



――また無言だった。


 しかし自然と口が半開きになる



 口を開けたまま泣いている希咲をボーっと見る。


 何か言うべきだなと口を動かそうとしたが、言葉が何も出てこない。


 言うことがないのなら口を閉じようとしたが、それも出来ない。



 開いた口が塞がらないとはよく言うが。


 弥堂は、実際にそれが本当に塞がらなくなるという体験を初めてした。



(おぉ……)



 思わず内心で関係のない感動を覚えてしまう。


 しかしこのままずっとアホのように突っ立って泣いているアホを眺めていても仕方がない。


 とりあえず何か言おうと思った。


 そして――



「……お前はバカなのか?」


「うわぁーーんっ⁉」



――もう何秒か考えてみたが、これしか思いつかなかったのでそのまま言ってみた。


 アホがバカに変わったのは一応弥堂なりに言葉を選んだ努力の結果だ。アホとバカのどっちが下なのかは特に考えていない。


 当然、七海ちゃんはギャン泣きだ。



 少しの間彼女の泣き顔を見ていると、何故かもう少し彼女を責めたくなってきた。



「なに泣いてんだ? 泣けば済むと思ってんのか? ふざけんなよてめえ」

「お、おぼっ、おもってない……っ」


「じゃあ被害者ヅラか? 俺が悪いのか?」

「あっ、あたしが、ぜんぶっ……わるいです……っ、ぅぇぇぇっ」


「だったらこの俺にきちんと謝罪しろ」



 どうやら悪いと思っているのは本当のようで、意味のない弥堂の詰問にも口答えせず希咲は謝罪の姿勢を崩さない。


 そのことに弥堂は一定の満足感を得る。



『コイツ、ほんとクズだよな』

『ここぞとばかりに。情けないです……』



 しかし保護者のお姉さま方には大変不評だったようで。


 ルビアとエルフィは虫へ向ける視線で弥堂を軽蔑した。



 希咲は頑張って嗚咽を押さえて、



「ほ、ほんとに、ヒドイことして、ごめんなさい……」



 改めて弥堂に謝った。


 自分で謝れと言ったものの、弥堂は何を答えていいかわからない。


 わからないからまた口を半開きにして、胡乱な瞳で希咲を見続けた。



「…………っ」



 希咲はその視線と羞恥に耐える。


 耐えたがやがて……



「……ない」


「あ?」


「……いかない……っ」


「聴こえねえよ」


「――やっぱ納得いかない……っ!」



 ついに色々と限界がきたようで、両手を振り上げて叫んだ。



「なんだ? 逆ギレか? このカスめ」

「ちがう! あたしが悪いってのは変わらないし、そうだけど。でも!」


「なんだよ」

「おかしいじゃん!」


「なにがだ」

「なんでこんなことになんのよ! あんまりじゃんか!」



 興奮のあまり希咲は弥堂に近づいて彼の制服を掴み、ガクンガクンと揺する。


 そらきたとばかりに弥堂も口論に応じた。



「なんだ? また暴力を奮うのか? あ?」

「ち、ちがうけど……! でも!」


「なんだよ。何が不満なんだ」

「不満だらけよ! だってこんなのワケわかんないじゃん!」


「俺だってわかんねえよ」

「なんでいつもこうなるの⁉」


「いつもは知らんが今回はお前のせいだろ」

「そう、だけど! そうなんだけどっ! だって、あたし初めてだったのに!」



 七海ちゃんはついにもっと恥ずかしいことを口走り始める。



「こんなファーストキスってあんまりよ!」

「お前が勝手にしてきたんだろうが」


「うっ⁉ そ、それは……ぐぬぬ……っ」

「大体なんだってキスなんかしてきたんだよ。こっちが意味わかんねえよ」


「だ、だからそれはその……」



 希咲は【夢の懸け橋(ドリーミン・ワンダー)】の段階についてをしどろもどろになりながら弥堂に教える。


 それを聞いた弥堂は鼻で笑った。



「ハッ――すると、なんだ? したくもないのにキスなんぞして。それでわかったのは自分のバカさ加減だけだったと? お前にピッタリのスキルだな」


「うあぁぁぁっ!」



 全く以てその通りなのだが、悔しすぎて希咲は弥堂の胸倉を掴む。



「おい離せ。悪いのはお前だろうが」


「あ、あんただって悪いもんっ!」


「なんだと?」



 希咲のその物言いに弥堂はジロリと彼女を睨んだ。


 ほらきた――と。



「お前ら女はいつもそうだ。自分の非を認め真摯に謝罪をするだけに留めればいいものを。そうやってすぐに『相手も悪い』と付け加える。心から反省などしていない証拠だ。お前ら女はクソだからそういうゴミのような生き物にしかなれないんだ」



 弥堂は嬉々として長尺で希咲を罵る。



『楽しそうだなコイツ』

『根本的に女性を見下しているので、馬鹿に出来る機会があると舌が軽くなるんですよね』



 お姉さま方は心底呆れていた。


 しかし、当事者は冷静ではいられない。



「だって! だって、今回はあたしが悪いけど……! その前はあんただって悪かったもん……!」

「あ? どこがだよ」


「だって! あやしいし! ウソばっかつくし! 悪いことだってした!」

「だからなんだよ」


「それであんなの見ちゃったら勘違いしちゃうもん」

「そうかもな。勘違いさせるところまでは俺が悪いことにしてやろう」



 認める素振りを見せつつも弥堂は嘲笑を浮かべる。



「だが、それでキスなんかしてくるバカはこの『世界』でお前だけだ。お前は世界一のバカ女だ」


「ぬぁぁぁっ!」



 そして結局二人は揉み合いを始めた。



「あたしの初めてかえせーっ!」

「俺も初めてだった。返せよ」


「ウソつけ! 色んな女とエロいことしてたくせに!」

「おい、プライベートが心外だぞ」


「プライバシーの侵害でしょ!」

「そうだぞ。この変態ストーカー女め」


「黙れヘンタイ勇者!」

「あ。貴様――」



 めちゃくちゃに押し合いをする二人の足が絡まり、偶然にも希咲が大外刈りを仕掛けたような形になる。


 弥堂は背中から地面に倒れ、そして彼の身体の上に希咲が跨る恰好となった。



 これがバトルならマウントをとられたことになる非常に危険な状態だ。


 しかし、その中で弥堂はフッと身体の力を抜いた。



「……?」



 希咲は怪訝な顔で弥堂を見下ろす。



「どうした? ヤれよ」


「は?」



 続いた弥堂の言葉には眉も顰めることになった。


 弥堂は毅然とした顔で言う。



「また俺を犯すんだろ? 昨日のように」


「お、おか――っ⁉」



 そのあんまりな言葉に希咲は狼狽える。


 弥堂は当たり前のことのように続ける。



「どうした。今日も力尽くでやればいい。さぁ、俺を犯せ」


「あ、ああああ、あんた何言ってんのぉ⁉」



 クズ男のトンデモ発言に、七海ちゃんのお顔は真っ赤になった。


 慌てて彼の上から降りようとするが、その前に弥堂が両手で彼女の左右のふとももをガッと掴み逃げられないようにする。もちろん【身体強化】の魔術は発動済だ。



「何、だと? 貴様が昨日俺にしたことだ。今日もやるんだろ?」


「ややややらないわよ! つーか昨日もそんなことしてないし!」


「ふん、馬脚をあらわしたな」



 弥堂は勝ち誇ったように鼻を鳴らす。



「やはり自分のしたことを真剣に受け止めていないようだな」

「わ、わかってるし!」


「いいや、わかっていない。いいか? 貴様のしたことはれっきとした性加害だ」

「せいかがいっ⁉」


「希咲 七海――貴様は俺をレイプした……ッ!」

「れっ――⁉」



 ドーンっと突きつけた弥堂の宣告に、七海ちゃんはガーンっとショックを受けた。



「そ、そんなこと――そこまでしてないしっ!」

「ふざけるな。被害者である俺が犯されたと言えばお前はレイプ犯だ」


「それは言い過ぎよ!」

「黙れこの性犯罪者め」



 弥堂は往生際の悪いレイプ犯に軽蔑の眼を向ける。


 保護者さんたちも同じ目で弥堂を見ていた。



「な、なんでそうなんの⁉ キスだけじゃん!」

「ほう。キスは性行為ではないと? あれだけ俺を痴漢呼ばわりしておいてよくもぬけぬけと」


「だ、だって、あんたは色々触ったじゃん! 胸とかお尻とか!」

「へぇ? では、胸やらに触るのは性犯罪だが、唇に触れるのは性的ではないと。お前はそう言うんだな?」


「そ、それは……でも、キスはなんかベツじゃん! つーかそんなのズルイ!」

「ズルイ、ね……」



 弥堂はわざとらしく視線を逸らして、相手の主張を吟味するフリをした。


 結論はとっくに決まっている。当然何がなんでも相手を有罪に追い込むことだ。


 今回は実際に七海ちゃんもやっちゃってるので分が悪い。



「では、こうしよう。フェアに」


「は? な、なに……?」



 これまでの経験から、希咲は疑いと不安の目で弥堂を見る。



「今から俺はお前にキスをする」


「はぁっ⁉」



 案の定とんでもないことを言い出したクズに七海ちゃんはビックリだ。



「それでチャラにしてやる。お前の大好きな愛苗ちゃんもよく言ってるだろ? “おあいこ”だと。いい言葉だと思うんだが、お前はそうは思わないか?」


「くっ……、ぐっ……、ぅぐぐ……っ」



 大好きな親友の愛苗ちゃんを持ち出されると弱かった。



「だが、そうだな。選ばせてやる」

「え、えらぶ……?」


「もしも。性行為には該当しないとはいえ。お前がどうしてもキスが嫌だと言うのなら」

「は、はぁ……?」


「胸でもいいぞ」

「えっ⁉」



 弥堂がジロリと彼女の胸に視線をやると、希咲は反射的に胸を両手で庇った。



「胸は性行為に該当してしまうが。お前がどうしてもキスが嫌なら、胸を触ることで許してやる」

「そ、それは……っ」


「さぁ、好きな方を選べ。どっちにする?」

「ど、どっちって……、そんなの……」



 究極の選択的なものを迫られて七海ちゃんは動揺する。


 こんなものどうすればいいのだと。



『そもそも別に応じる必要ないんだがな』

『これがこの子の手口なんです。本当に最低です』


「おら、早くしろよ」



 ここには存在しない人たちの冷静なコメントを無視して、弥堂は希咲に選択を迫る。


 すると――



「――む……、むねで、おねがい、します……っ」



――苦渋の選択だが、希咲はそう答えるしかなかった。


 なんぼなんでももう一回キスするよりはマシだと思えた。



 途端に、弥堂の魔眼がギラリと光る。



「おい。どういうことだ?」

「え……っ?」


「胸を触るのは性行為だが、キスはそうじゃないんだろ?」

「そ、そうだけど……」



 なんとなく弥堂の眼を見れなくて希咲は視線を彷徨わせる。



「それともなんだ? お前は俺と性行為をしたいのか?」

「そ、そんなわけないでしょ!」



 しかし、あまりのセクハラ発言に強制的に視線を戻されてしまった。



「それはおかしいな。お前は胸を触って欲しいと選んだ」

「触って欲しいとは言ってないし!」


「だがキスをするよりはいいんだろう? お前は俺と性行為をしたくない。だが、性行為ではないはずのキスよりも、性行為である胸を触らせることの方がマシだと。キスの方が嫌だと。そう思ったんだな?」

「な、なんなのよ! なにが言いたいのよ!」


「矛盾していると言っている。そこで胸を選ぶということは、お前はキスも十分に性行為だと本当は認めているんだ。そうだな?」

「そ、それは――」


「ということは、お前は昨日俺に無理矢理性行為をしたと認めたも同然だ」

「ぐぬぬ……っ」



 さっきは当たり前のことを説明してもちっとも理解してくれなかった男が。


 こういう時ばっかりは鋭いことを言ってくる。


 希咲はいよいよ追い詰められてしまった。



 そして弥堂はここで手を緩めるような男では当然ない。


 きっちりとトドメを刺しにいく。



「では、想像してみろ」

「そ、そうぞう?」


「俺とお前ではなく、登場人物を変えてみろ。客観的に物事を見られるようにな」

「だ、だれに……」



 イヤな予感がしつつも希咲は聞き返してしまう。



「そうだな、こうしよう。紅月と白井のメンヘラクソ女にしよう」


「えっ……⁉」



 意外な人選に驚く。


 七海ちゃんは、白井さんがメンヘラクソ女だという点には特に異論を唱えなかった。



「白井が夢で見たからと言って紅月を呼び出し。それで突然刃物を抜いて襲いかかり、紅月に無理矢理キスをした。お前はこれをレイプではないと言うのか?」


「――ッ⁉」



 それを問われた瞬間――


 七海ちゃんのお目めからハイライトが消えた。



 言い逃れは出来ないと、そう思った。


 力の抜けた手がペタリと落ちる。


 そして次には身体からも力が抜けてしまった。



 弥堂の上に座る彼女の身体がフラリと横に傾く。


 そのまま希咲は倒れてしまった。


 さらに――



「あ――」



――受け身もとらずに彼女は側頭部を地面のコンクリにゴチンと打ち付ける。


 とってもいい音がしたので、思わず弥堂の口からも間抜けな声が出た。


 希咲はそのまま横倒れになって、動かなくなった。



「お、おい……?」



 尋常でないその様子に、弥堂は無意識に彼女に声をかける。


 だが、返事はない。


 希咲は地面に頬をつけたまま光のない瞳を見開き続けている。


 その目からハラリと涙が流れてきた。



「……あたし……、男の子をレイプしちゃった……」


「うわぁ……」



 自分で追い込んだのだが、そのあんまりな絵面に珍しく弥堂もドン引きした。


 そして――



「……ぅっ、うぅ……っ、ごべ、ごめんね……っ。ごめん、ね、びとぅ……っ。れいぷしちゃって、ごめんなさい……っ、ぅぁあ……ぁっ……」


「…………」



 彼女は泣きながら謝罪の言葉を連呼する。


 人の気持ちがわからない弥堂くんにもこれはわかった。


 彼女は心から悪いと思っていると。


 だが、その姿から浮かべる感情はやっぱりドン引きだけだった。



 これはあんまりだなと、弥堂ですら居た堪れなくなって眼を逸らす。


 すると、横倒れになっている彼女の下半身が目に入った。



 倒れた拍子にスカートが捲れたままになっており。


 真っ白なおぱんつが見えていた。



 まさかこれで自分は清楚であると主張しているのだろうか――


 ふとそんな考えが浮かんだが、流石に口には出来なかった。


 代わりに――



「――おい。お前パン……、おぱんつが見えてるぞ」



――ワンチャンこれで正気にかえらないかとチャレンジしてみる。


 念のため特例でリスペクトしておいた。


 だが――



「…………」



 ――希咲はピタリと泣くのをやめて、目線だけをこっちに向けてくる。


 反射的に弥堂の肩がビクリと跳ねた。


 希咲は光のない瞳で弥堂を見遣り――



「……見たければ見ればいいじゃん。好きなだけ。こんな汚れた女のパンツでよければ……」



 それだけ言ってまたシクシクと泣き始めた。



「…………」



 弥堂はどうしたものかと困り、他所へ目線を向ける。



『…………』

『…………』


「…………」



 すると、ルビアとエルフィーネが心の底から見下げ果てた感じの顔で弥堂を見ていた。


 弥堂は目線を希咲のパンツに戻し、彼女のスカートを引っ張って隠してやった。


 だが――



「――うぅっ……、な、ないんだ……っ! やっぱりこんな汚れた女のパンツなんて、見る価値もないんだぁ……っ! うあぁぁっ」



――何故か希咲はもっと泣きだしてしまった。



 見たら見たでどうせ後でまた大騒ぎするくせにと。


 弥堂は理不尽さを感じた。



『オマエこんなモン許してやれよ。つか、オマエ得しかしてねェだろ』


『そうですよ。元々女性に節操なんかないんですから。口づけされたくらいで傷ついたりしないでしょう』



 こっちも理不尽だった。



「うぅ……、もう死にたい……。死ねばいいんだ……。こんなバカ女死ねば……」



 希咲の方もいよいよ物騒なことを言い始める。


 横髪を一筋口に咥えていて、鬼気迫る感じだ。



『オイ、男のくせにいつまでもグジグジ言ってんじゃあねェよ』

『そろそろ慰めてあげなさい。こんなバカなことで唇を捧げるなんて普通はありえません。普通の女性は耐えられませんよ』


「どうしろってんだよ……」



 サラっとエルフィさんが酷いことを言っていたが、弥堂はスルーし希咲の顔の方へ近づく。


 そして制服の中から取り出した物を差し出した。



 希咲が一瞬泣き止む。


 目の前の物を光のない目でジッと見た。


 差し出されたのはナイフだった。



「なに、これ……」



 弥堂は頷く。



「これは俺の師匠に貰ったものでな。自殺用のナイフだ」


「……」



 希咲は黒鉄のナイフの刀身に映る自身の顔を見て――



「――うあぁぁっ! やっぱ、あたしなって死ぬしかないんだぁ……っ!」



 さらに大泣きしてしまった。



『オイ、テメェ! なにやってんだ!』

『どうして追い打ちをかけるんです!』


「死にたいって言ってただろ……」



 お姉さま方に責められて弥堂は愚痴を溢す。


 どうやら彼なりによかれと思ってのことだったようだ。



 もう手の施しようがなくなったので、彼女が泣き止むのを待つことにした。


 諦め半分、呆れ半分で彼女の大泣きを見ていると、やはり開いた口がまた塞がらなくなってしまう。



「……こういうのは水無瀬の芸風だと思っていたんだが、お前の方がバカだったんだな」


「うわぁーーんっ!」



 こうしてつい余計なことを言うと余計に泣かしてしまうだけだ。


 口を閉ざしておけないのなら、開けたままにしておいた方が幾分かマシかと悟った。



(水無瀬と同じ手口じゃねえか……)



 そんなことを思い。


 というよりも――



(――そうか。同じか。こいつらダチだったな……)



 彼女らは親友同士だ。そんな設定だったなと思い出す。


 それなら似もするかと、何故か納得もしてしまった。


 その時、希咲がこちらを見ていることに気付く。



「なんだよ」

「……ゆった」


「あ?」

「今、愛苗ってゆった。さっきもゆってた。やっと認めた」


「あ――」



 そういえばそんな設定もあったなと、自身の失言に気付いた。


 だが――



――もうどうでもいいかと、弥堂は溜息を漏らす。



(こんなアホに真剣に嘘吐いてるのがバカバカしくなってきた……)



 そんな風に言い訳をしつつ。



 泣いている希咲を見て、他のことを思い出した。



 それは最初に彼女に関わった文化講堂での揉め事の時のことだ。


 あの時もこうして彼女は泣いていて。


 そしてああやってエルフィが責めるような目で見ていた。


 今日はルビアまで参加している。



 弥堂は悟った。



 パターンに入ったな――と。


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― 新着の感想 ―
いつものカップルの痴話喧嘩ですね……これほど厳しい状況なのに、いちゃついている余裕があるなんて。でも……本当に満足感でいっぱいです
ななみちゃん相手だと大体PONになってる弥堂くん かわいいね
ちょっと興奮してしまった 強気な女が泣いているのはギャップで良き
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