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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
3章 俺は普通の高校生なので、帰還勇者なんて知らない
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3章17 5月12日 ⑤


 放課後になると、弥堂は慎重に街に出た。



 今日は希咲からの謎の襲撃があり、しかしそれ以上のことは何も起こらなかった。


 あれだけ大きなアクションがあったのだから、その後に何か決定的なことが起こるものだと弥堂は考えていた。



 しかし、希咲自身はあれから学園に戻ってくることはなく、他のメンバー――紅月たちからのコンタクトも何もない。


 弥堂が困惑するのは当然だが、当の紅月たちもどこか困惑している様子さえあった。



 全くを以て意味がわからない。



 そうは思えど。しかしそれなら放課後に何かがあるはずだと、弥堂は警戒する。


 これまでの行動パターンどおり、街をぶらついてみて相手の動きを誘ってみることにした。



 希咲の意味のわからないスキルとやらにより、どうも記憶が覗かれているらしい。


 これまでに犯した後ろめたいことはほぼ全て知られていると考えていいだろう。


 それは弥堂にとって都合の悪いことばかりでもない。



 勇者に異世界、それから魔法少女のことがバレるのは想定外だったが、しかしそれも遅かれ早かれだ。


 いつかどこかではバレる。それが早まっただけに過ぎない。



 他の日本に帰ってきてからの犯罪行為も掴まれたのだろうが、それもそれで構わないと考えていた。


 弥堂自身が紅月に仕掛けた罠とそうは変わらない。



 それもそれで結局は遅かれ早かれで――


 そして、それを知ったのなら紅月 聖人が黙ってはいないだろう。


 ならば、その襲撃を待つだけだ。つまり、結局のところ状況は大して変わっていないとも謂える。



 そうであるなら尚更――



(――あいつ、一体どういうつもりだったんだ……)



――余計に希咲の行動の意味が理解出来ない。



 だとしても、最終的にはどうせ戦うのだろうし、その時に殺してしまうのなら考えても意味はないかと街を歩く。襲われればわかることだと。


 ちなみに本日の放課後には部活があったのだが、襲撃の恐れがあるのでバックレた。


 ヤサに踏み込まれてはいけないし、通信を傍受されている可能性もあるので部長には何も連絡をしていない。完全な無断欠席だ。


 念のため一時的に廻夜部長を着信拒否にもしている。



 とはいえ、廻夜部長ほどの男ならいちいち報告などしなくてもこちらの状況を見抜いているに違いない。問題はないだろう。



 だが、そこまでしたというのに――


 街でも結局なにも起こらなかった。



 弥堂は適当なところで徘徊を切り上げ、首を傾げつつ慎重に病院へと向かう。


 そして今――



「――おい。これは本当に必要なのか?」



――弥堂は愛苗の病室で対面の“しましまブラジャー”に胡乱な瞳を向けていた。



『もちろんよ、ユウくん。これは純然たる診療行為なの』



 そんな弥堂に、聖剣であり変身アイテムであり聖女でもありブラジャーでもあるエアリスさんが真剣に答える。


 愛苗ちゃんは現在は入浴中であり、この部屋には弥堂とエアリスだけだ。


 そこで何をしているかというと――



「おかしな真似をしたら殺すぞ」



 弥堂は自身に近づいてくる複数の触手を睨んでそう言った。



 おブラから伸びた何本かの触手が、上半身裸で椅子に座る弥堂を取り囲むように展開している。



『もちろんよ。お姉ちゃんが調べてあげるから任せてちょうだい』



 エアリスさんは力強く――そして若干鼻息を荒くしながら請け負った。


 すると、触手くんたちのお口からスルスルと霊子の糸が伸びてくる。


 その糸たちが弥堂に触れる。



 触れるというか目や耳に口――


――だけに留まらずズボンの裾から内側にまで伸びてくると、それらは身体の穴という穴から内部へ侵入してきた。


 弥堂は少し眉を顰める。



「おかしな感覚だな。触れられている気はするが物理的な感触はない」


『霊子だからね。ほとんどの人間は触れられていることにも気づかないわ』


「それで。こんなことをすると本当によくわかるようになるのか?」


『えぇ、そうよ。身体と“魂の設計図(アニマグラム)”に接触した方が、ただ見ているよりも解析しやすくなるの。でも安心して。お尻と尿道は特に優しくしてあげるから』


「気色悪いことを言うな。やるならさっさとやれ」


『ハァ……ハァ……』



 弥堂は不快そうに注意するが彼女にはもう聴こえていないようだ。


 ブラジャーに付属している青いはずの宝石がピンク色に明滅している。



 大変いかがわしい光景ではあるが、二人はなにも触手プレイに興じているわけではない。


 希咲に何かおかしなモノを仕掛けられているようなので、それを調べているのだ。


 可能なら解除出来ないかも。


 だが――



『――う~ん……。特に見当たらないわね』


「まぁ、そんなもんか」



 結果は思わしくないものだが、弥堂も特に期待していなかったようで落胆もない。



『少なくとも魔術的なものではないわね。それだったらわかるんだけど……。ネコとの使い魔契約はわかるし』


「スキルだとか言っていたな。意味がわかるか?」


『字面通りの“技術”ではないのでしょうね。抜きたい情報の記憶を夢で見させてそれを覗く――なんて成果だけを見れば、なにか特別な“加護(ライセンス)”だとしか思えないわ』


「でなければ、悪魔の能力か?」


『そうね。“夢魔”なんかそのものだけれど。でもあのギャル子は――』


「――人間だな。人間の“魂の設計図(アニマグラム)”をしている」


『だったらやっぱり加護の類でしょうね。そうなるとユウくんの“魂の設計図(アニマグラム)”に痕跡を見つけるのは骨が折れるかもしれないわ』



 エアリスが悩ましげな溜息を吐くと、弥堂は苛立たしげに舌を打った。



「痕跡自体はあるのか?」


『理屈からするとあるはずよ。でもこれは記憶の記載とは違うから……』


「過去の俺の“魂の設計図(アニマグラム)”と見比べても違いを判別しにくいということか?」


『もしも身体や魂を構成するモノの一部となっているのだとしたら、そうなると思うわ。もちろんそれがわかるほどの大きな目印があれば別だけど』


「今お前が見てそれに気付かないなら、俺が視比べたところで望みは薄いか」


『やってみなければって話ではあるけれど。でも一番確実なのは――』


「――本人に解除させるか。もしくは始末するか、か」


『そうなるわね』



 本当に面倒な女だと、弥堂は眉間を歪める。


 すると同じ感情なのか、エアリスの声音も似たような色になった。



『ユウくん。これ、思っているよりも厄介な能力かもしれないわ』


「かもな」


『能力自体の効果だけの話ではなくて。今回対象になっているのがユウくんだというのがさらに。それも含めて考えるとちょっとマズイかもしれない』


「どういうことだ?」



 エアリスは慎重に答える。



『ユウくんの記憶には見られるとマズイものが多すぎるわ』


「異世界と勇者はもうバレたぞ。魔法少女や“生まれ孵る卵(リバースエンブリオ)”のことはどこまで掴んでいるかわからんが、時間の問題かもな」


『それだけじゃないの。もっとマズイのが、ユウくんの記憶にある“二代目のノート”』


「あぁ……」



 そういえばそんなものもあったなと、弥堂はエアリスの言いたいことを察した。



『アレに書かれている『世界』の様々な仕組み』

「あんなもん知ったところで、だろ」


『そうね。でも、二代目の魔法は……』

「そっちは大問題かもな」


『アレ自体が極悪な魔導書みたいなものだから』



 弥堂自身も使った大魔法や大魔術。


 それに死者蘇生の術式など。


 研究途中のものも含めたら禁忌の宝庫だ。



「仮にあれを扱える奴が向こうにいたら笑えるな」


『笑いごとじゃないわ。下手に使われたら成功しても失敗しても天使が出てくるかもしれないわよ』


「そいつらから人間を守ろうとして、水無瀬の存在が世界中にバレるって? 確かに面白くない冗談だな」


『仮にそうなったら、“あっちの世界”に戻る方法を探した方がずっと過ごしやすくなるかもしれないわね』


「それは最高だな」



 話は終わりだとばかりに弥堂は適当に肩を竦める。


 その意を受けてエアリスはスルスルと糸を戻した。


 引き際に弥堂の乳首をコリコリしていったが、弥堂は無視する。


 ちょうど糸が触手くんのお口の中に引っ込んだタイミングで――



「――ほかほかぁーっ」

「――うにゃにゃーッス!」



――病室の戸がガラっと開く。


 お風呂上がりのホカホカ愛苗ちゃんとお供のネコ妖精の帰還だ。


 危ういタイミングで触手くんたちはパッと消え失せた。



 元気いっぱいに帰ってきた二人だが、病室に入るなり弥堂の姿を見て固まる。


 彼は上半身裸で手には“しましまブラジャー”だ。



 愛苗とメロは思わず目を合わせ、しかしすぐに気まずそうにお互い目を逸らした。


 愛苗ちゃんはオロオロとお目めを彷徨わせ、それからハッとする。



「えっと……? つけてあげよっか?」


「いらねえよ」



 気遣うようでありながらどこか期待もしているような――


 そんな彼女の申し出を弥堂は毅然とと突っぱねる。



「そう? えへへ、いつでも言ってね?」



 だが愛苗ちゃんの中では、弥堂がおブラをつけたがっているということになってしまったようだ。


 何故かちょっと照れ顏で彼女ははにかんだ。


 そんな暢気な様子で愛苗が近づいてくる。


 すると今度は――



「あれ……?」



――クンクンとお鼻が動いて首を傾げた。



「……なんだ?」



 弥堂は嫌な予感を覚えて警戒を露わにする。



「ななみちゃんのニオイ」


「…………」



 その予感は当たっていたようだ。



「前よりいっぱい……」


「…………」



 おまけに弥堂の胸に頬をつけるようにして抱きついてきた。



「なんで?」

「知るか。そもそもそんなニオイはしない」


「するよ?」

「しない」


「…………」

「…………」



 愛苗ちゃんは弥堂の眼をジッと見上げる。


 弥堂は3秒間抵抗してからスッと眼を逸らした。



「ななみちゃん……」



 趨勢は決し、愛苗は弥堂の胸に頬ずりしながらうっとりとしてしまう。


 何も喋りたくないので、弥堂はしばらく彼女の好きにさせてやる羽目になってしまった。



 そうして彼の嫌いな無駄な時間がどんどんと過ぎていき――


 この日は希咲にボコボコにされただけで一日が終わってしまった。


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― 新着の感想 ―
ここでは「現代の人間でも、一度見れば二代目の魔法を使える者がいる」という暗示があるようですが、まさか……タイムトラベルもその中に含まれているのでしょうか? 愛苗はやはり、薄々とこれらすべてを察している…
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