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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
3章 俺は普通の高校生なので、帰還勇者なんて知らない
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3章15 綺リ衆ヲ邪ニ濁シ五ツ頸並ブ夜ノ果テニ澄マス心、ハ害 ➁


 枕に頭を乗せて、段々とぼんやりとしていく天井を見上げている。


 睡眠薬が利くのを待ちながら、あたしは考える。



 ずっと迷ってきた“あいつ”との関係性。



 敵になるのか。


 敵にならなきゃいけないのか。



 今は味方になってあげることも出来るんじゃないかって思えてる。



 だって。


 ここまでの情報を考えると、あいつは少なくとも愛苗の味方ではあるのよね?



 望莱や蛮は、最終的に弥堂と調停するにも、事情を聞くために一回は戦う必要があるって言ってた。


 だけど、そうする前にその事情を知れれば……。



 あたしにはそのための――それを可能にするスキルがある。



 先に事情を知って、慮ってあげることが出来れば。


 それなら戦わなくたっていいってことよね?


 その事情の内容にもよるだろうけど、でもそう酷いものじゃないって気がしてる。



 だって、弥堂は一度はあたしを頼ろうとしてくれた。



 弥堂の部屋にあった手紙。


 あれがその証拠。



 港の戦いに行く前に、自分が死んじゃった後の愛苗のことをあたしに託そうとした。


『死に戻り』で死なないはずの弥堂がそうするほどの戦い。


 あの戦いの中身をあたしは知らなきゃいけない。



 弥堂と愛苗の間で何があったのか。


 あの日の港で二人に何があったのか。



 それがわかれば、港の戦いの後で弥堂が今のこのスタンスを選択した理由もわかると思うの。


 ここをわかった上で話を聞いてあげられれば、きっと愛苗だけじゃなくって弥堂とも仲良く出来るはず。



 港でのことはまだわからないけど。


 だけどあたしは少しだけあいつのことがわかった気がした。



 今のあいつは全方位にハッキリと敵対的だけど。


 でもそうなる前からずっと、あいつはひとりぼっちだった。



 その理由をあたしはわかった気がした。


 アムリタ事件を一緒に体験したことと。


 夢を通してあいつの過去を知ったことで。


 少しだけ。



 弥堂はどこにいても浮いていた。


 他人から遠ざかって、遠ざけて。


 異常なほど全てを疑って。


 無気力そうに見えていつでも気を張り詰めていて。



 だからクラスでも街でも浮いてしまっていて。


 なのに、ホテルが戦場となった瞬間には、誰よりも其処にピタっとハマった。



 ホテルでの姿や、夢の中のあいつの姿を見て。


 その理由が少しだけわかった。



 一体どんなことがあってあんなことになっちゃったのかっていう事情については、やっぱりわからないけど。


 だけど――



 あんな場所で。


 あんな戦いの中で。


 あんな風に生きてきた人が急に日本に戻されちゃったら――



 上手く世間に溶け込めないのも仕方ないんじゃないかって、今なら思っちゃう。


 だからってあいつのしてる犯罪的なことまで肯定するのはムリだけど。


 でも、そうなっちゃう理由だけは少し理解できた。



 そんなひとりぼっちが、急に愛苗を守らなきゃいけないことになったら――


 今みたいなことになっちゃうのも、やっぱり仕方ないんじゃないかって。


 だからってあいつの方に無条件に全部譲るのもやっぱり出来ないけど。



 でも普通じゃないのはあたしたちだって一緒で。


 だからどこかで折り合いはつけられるはずだ。



 そのためには、あいつの“本心”と“事情”を知る。


 “本心”を聞き出すために“事情”を知って。


 それからこっちの“本心”と“事情”も話して。


 あたしたちはきっと愛苗のために協力が出来る。



 望莱の口ぶりや聖人の様子だと、戦いが起きるまで時間はもうそんなに残されてない。


 それまでに、あたしが――



 今こうやってあたしが少し弥堂に寄った風に考えられるのは、前よりもあいつのことが知れたから。


 でもそれは弥堂から教えてもらったものじゃなくて、スキルのおかげ。


 だから、これはズルなんだ。



 とはいえ、「ズルだからよくない」なんて病んでいられる時間はもう過ぎた。


 今はズルでも、戦いが避けられるのなら。



 あたしがあいつと愛苗のことを知って、二人の事情を考えて、そうすればわかりあうことは出来るはず。


 ズルを使ったとしても、戦いになるよりは絶対にいいことのはずだ。




 そのズルが――



――【夢の懸け橋(ドリーミン・ワンダー)



 あたしの持つユニークスキルだ。



 これは専用のマーキングを打ち込んだ相手の夢の中を覗くことが出来るスキル。


 頼んでもないのに勝手に付けられた“夢魔”の称号を持つ者だけに使える特殊なスキルだ。


 あくまでも称号であって、あたしが悪魔だってことじゃありません。


 だとしてもなんだってこんな称号があたしに付いたのかわかんないし、この件に関しては他にもいっぱい愚痴があるけど、それは一旦どっかにポイ。



 今説明した以上の効果はそんなにない。


 スキルを完全な状態で仕掛けられていれば、対象である弥堂をいつでも睡眠に誘導したりとかも出来る。


 でも今はそうじゃなく、不完全というか50%くらいの状態でかかっているので難しい。


 あいつが睡眠に入ったことを感知することは出来るので、その辺は睡眠薬を使って補ってる。



 そして肝心の“夢見”だけど。


 普通に見るような夢の中の“ファンタジー”を見たってしょうがない。


 このスキルの真骨頂は、相手の過去の体験を夢の中で再生させることで、その人についてあたしが知りたい情報を何でも知れることだ。



 だけど、これまでも何回か言ってきたように。


 すっごくズルくて、デリカシーもないサイテーなスキルだから。


 あたしはこれがあんまり好きじゃない。


 必然的に使った回数も少ないし、完全な状態での使用に至っては今までに1回もない。



 完全状態での使用が未経験なのはまたベツの理由もあるんだけど、それは今はいいとして――



 薬が効いてきて、視界が歪んでいく。


 瞼を閉じて、待つ。




 お願い。弥堂。


 あとで全部白状して、いっぱい謝るから。


 だから――



 4/25に何があったのか。


 あんたと愛苗のことも。



 どうか、今は。


 あたしに教えて。


 夢に見せて――



 もし、今回でダメだったら。


 完全状態で使わなきゃダメかも――



 ぼやけた思考はそこで途切れて。


 あたしはまた、あいつの夢に落ちた――








「――なんでリボンも赤いんだ?」



 いきなり弥堂の低い声が聴こえて、あたしはビクっと驚く。


 周囲の風景もあたしの部屋から別のものに変わってる。



 和風ではない古めかしさのある宿の部屋――そんな雰囲気。


 多分昔の記憶だろう。



 その部屋のベッドに弥堂は横になっている。


 そうして見上げる先で、カワイイ感じのお姉さんがパチパチとまばたきをした。



 多分またあいつが唐突にワケわかんないこと言ったから、女の人はこの表情なんだろうなと予想。


 途中から見たからわかんないけど。



 でも、そっか。


 さっきはあたしが途中で抜けちゃったから、続きの夢は弥堂のフリースタイルな感じになってるのか。


 そうすると、これは記憶じゃなくって普通の夢?



 弥堂の視線の先で、お姉さんは赤い髪を赤いリボンで結んでいる。


 あれ? この人って……。



 あ、そうだ。


 前にちょっとだけ夢で見たかも。


 あの時は気絶してたっぽいけど、多分アワビの人だ。



 おっと。とんでもなく失礼な呼び方してしまった。


 ちょっと弥堂。この人なんて人?


 ちゃんと名前で呼びなさいよ。


 てゆーか――



 弥堂の視界に映るお姉さんをよく見てみる。



 上気した頬。


 弾んだ息。


 汗ばんだ肌。



 ここここ、これって……、もしかしてそういうアレなのでは……⁉



 なんであんたまたエロい夢見てんのよ!


 ちょっと目を離したらすぐにこう!



 え? 男子ってこんなに頻繁にエロい夢見るの?


 それはちょっと普通に引くんだけど……。


 そ、それよりも……!



 お姉さんはシーツで身体を包んで、後ろ髪をかき上げてポニーテールを作ってる。


 こ、これってもう終わった後よね?


 そうよね? これからはないわよね?



 つか、あぶない……!


 あともうちょっと早く夢に入ってたら……。えらいもん見せられるとこだった。



 くそう、弥堂め……!


 エロい夢ばっか見やがって!


 しかもさ、なんか違うエピソードのたんびに違う女出てくるし。


 マジなんなのこいつ。



「リボンがどうかした?」



 お姉さんはリボンの端を引っ張ってみせながらコテンと首を傾げた。


 愛苗みたいに天然でやってるってよりは、計算してやってるあざとい可愛らしさだ。



「あー……、なんで髪と同じ色なんだって……」



 弥堂は気怠げに喋る。


 自分から訊いたくせになんで興味なさそうなのよ。



「えー? ユーキくんもそういうの気にするようになったの?」


「いや、ルナリナとかいつも髪と違う色のリボン付けてるだろ? だからそういうもんなんだと思ってたからなんとなく気になっただけだ」


「……ふーん」



 あ、他の女の名前出したら露骨にジト目になった。


 てゆーか、弥堂ってマジでデリカシーないのね。


 こんだけ色んな女に手出してたら普通そういうのマシになるもんじゃないの?


……や、ちがうか。なんかこいつの場合もはやそれ以前の問題な気もする。



 お姉さんも慣れてるのか、サラっとスルーする。



「ワタシも普段は違う色が多いよー。使い分け?」

「そうか? 俺が見るのは赤が多い気がしたが」


「えー? 覚えてくれてるのー?」

「忘れられないだけだ」


「もー。今日はなんかやさしーじゃん」

「……?」



 噛み合ってるようで噛み合ってない会話。


 弥堂も不思議そうに首を傾げた。


 多分そういう意味で言ってるんじゃないんだろうな。



 だけどお姉さんは感激した風に弥堂の頭に抱き着く。


 多分この人わかってやってるな。



 顔面にムギュっと胸が押し当てられた。


 くっ……! おっきぃ……っ!



「リンスレット。苦しい」



 弥堂はそんなことを言うけど、顔を背けようとはしない。


 このやろう……っ!



「まだ足りないのか?」


「えー? サービスしてくれたからこっちもお返しだよー?」



 なんかこの人、なんとなく覚えがあるような。


 ちょっとウザカワイイ感じとか、あざとい感じが。



「赤は勝負の時用なのさー」

「なんの話だ?」


「リボンだよ。リボン」

「あぁ……」


「キメるぜって、ここぞという時には赤なんだよ?」

「パンツと一緒か」


「ふふ、そうかもね……」



 リンスレットさんは含み笑いをしながら適当に答えた。


 てゆーか、この会話のせいであいつ「赤は攻撃色」とかバカなこと言ってたんじゃないでしょうね?



 彼女は弥堂の顔を解放し身体を離す。


 だけど両手は弥堂の顔の両側に着いたまま。


 その体勢で見下ろしきて、そしてイタズラげに笑った。


 この仕草にもやっぱり見覚えがある気がした。



「ワタシ……、がんばってるでしょ?」


「なにが?」



 少し濡れた瞳で訊ねる彼女に弥堂は乾いた声で平然と返す。


 こ、こいつヨユーじゃん。


 急に色気だされてあたしはドキドキしちゃってるのに。



「ほら。セイラ様に言われた諜報機関。おっきくしたでしょ?」

「あぁ。だがそれはお前の商会でもあるんだろ? しっかり得してるだろうが」


「そうだけど……! でも、役に立ってるでしょ?」

「そうかもな」


「商会も。密偵も。他にも広げてるから……」

「他? お前調子にのって余計なことするなよ」


「だいじょーぶ。ワタシ……、役に立つからさ……?」



 見下ろしてくる彼女の瞳を見て、あたしはゾッとした。



 てっきりチャラいヤツ同士で爛れた遊びでもしてるのかと思ってたけど。


 なんか、違う。



 リンスレットさんの瞳に、多分恋でも愛でもない、全然別の熱の色が灯った。



「だから……、覚えておいて……?」


「なにを?」



 弥堂はそれに気づいてない。



「赤い飾り」



 リボンの端が垂れ下がる。



「この赤はユーキくんの味方だからね?」


「俺に味方などいない」


「……うん。ユーキくんはそのままでいい」



 瞳の色はそのままで瞼は蕩けたように。


 だけど表情には慈愛にも似た微笑みを浮かべる。


 そんな彼女の少し厚めの唇がゆっくりと降りてくる。



 わわわ……っ⁉ ま、まさか……⁉


 てゆーか、そうじゃないでしょ!


 あたしが見たいのはこういうんじゃないんだってば!


 早く次いってよ!



 視界が目を閉じたリンスレットさんの顔で埋まった瞬間、暗転する――







――映像が戻る。


 だけど、眼前には誰かの顔が変わらずにある。



 あれ?っとあたしが疑問に思うと、なんかやらしい水音が鳴ってその誰かの顔が離れた。



「華蓮さんの部屋は何番だ。言え」


「ふぁぃ……、S1、れしゅ…………」



 その誰かは、なにやらふにゃふにゃになったマキさんだった。


 周囲は薄暗くていかがわしい感じの通路。


 マキさんはバニースーツを着ている。



 ホ、ホントにいかがわしいわね……! 似合ってるけど!


 つーか、愛苗を見せろって言ってんじゃん!


 なんでマキさんなのよ!


 そ、それに、今キスしてなかった……⁉



 あたしが混乱してる内に弥堂は無造作にマキさんの胸元に手を伸ばす。


 そして乱暴な手付きでバニースーツをズリ下げた。


 きゃぁーー⁉



「あんっ……強引……っ、部屋までガマンできない……? ここでしちゃう……?」



 マキさんのお胸は完全にボロンって出ちゃってるけど、この人全然イヤがってないな?


 なんかノリノリだし。


 この先を見せるのはマジでカンベンしてよ!


 なんて思ってたら――



「えっと……? えっ? なになに? ちょっとその部屋はお客さんが……まさか――っ⁉」



――弥堂はネコでも持ち上げるみたいに雑にマキさんを持って、その辺の部屋のドアを開ける。


 そして――



「お客様に失礼のないように使ってもらえ」


「――ぅきゃあぁぁぁーーーっ!」



――弥堂はマキさんを部屋の中に投げ入れた。



 えぇ……? どういう状況なのこれ?


 てゆーか、部屋の中に誰かいなかった?


 オジさんとお姉さんが。



 あたしにはわけがわからないまま、弥堂は開けたドアをバタンと閉じ――






――た次の瞬間に、バンっとドアが開く。


 次のシーンに変わった。



 今のはなんだったのよ。



 当然過去の弥堂はあたしの疑問に答えてなんかくれない。


 や、それはリアタイ弥堂も一緒か。


 ヤツは開けた部屋の中へズカズカと入っていく。



「え? あ、あの……? どうしたの? 忘れ物……?」



 その部屋にはベッドしかない。


 そこに座ってる女の人が目を白黒させている。


 ちょっとケバイ感じのいかにもな女の人。



 こ、ここってもしかしてラブホじゃないでしょうね?


 ベッドに札束とか転がってるしまたもやいかがわしい。



 弥堂は女の人の声を無視して、部屋に入ってきた勢いのまま彼女を押し倒した。


 こらーっ! またか!



 弥堂は女の人の着てるニットを無理矢理捲り上げ、さらに下着も上にずらす。


 ででででっか……⁉ じゃなくって!


 なんでいちいち乱暴にすんのよ!



「い、いやっ! お願い! 待って……! ワタシ逃げないから! ちゃんと“する”から……、だから、乱暴にしないでっ……!」



 ほら! 嫌がってんじゃん!


 ま、まさかこれレイプとかじゃないでしょうね……?


 サイアクなもん見せないでよ!



 あたしや女の人の叫びは届かず、弥堂は無言のまま何かを取り出す。


 ビーッと伸ばしたヒモ状のそれは、メジャーだ。



 は……?



 弥堂は女の人の胸の……、その、なんというか……、そういった部分にメジャーを当てた。


 8.1cmだった。


…………。



 弥堂はそれを確認すると、素早くその部屋から撤収していった。



…………え?



 視界がまた暗転する――








「――だぁーからぁーっッス! これもう構図が完全にペェズリィペッラじゃねぇッスか!」


「ペェズ……なんだと? どこの言葉だ、イタリア語か?」


「かぁーっ! もうっ! このニブチンコがよぉっ! アレに決まってんだろぉッス! おっぺぇで挟んでジュッポジュッポするアレによぉっ!」



 次に現れたのは……、ん? なにこれ? どういう状況?


 なんか空飛んでない?



 魔法少女に抱き着かれて一緒に空にいるようだ。


 つーか、今喋ってたの誰?



 そう疑問を感じたら、いきなり音声が途切れる。


 え? なに?



 声は何も聴こえなくなって、だけど映像は動いたまま。


 空中をフラフラと不安定に漂いながら段々と高度が上がっていく。



 その軌道もそうだけど、こんな風に音だけ聴こえなくなるって状態も初めてで、あたしはまた混乱してしまう。


 つか、さっきの測定はなんだったのよ!


 マジでわけわかんない!



 とはいえ、空を飛んでいるということは、これをやっているのは魔法少女だろう。


 そう思って彼女を注視してみると、弥堂の身体に押し付けられたお胸がグニングニンと蠢いている。


 こ、これもおっきぃ……! こんな幼い顔なのに……! ぐぬぬ……!



 思わず歯軋りをしていると、視界にネコさんが割入ってくる。


 てゆーか、この子メロじゃん! なんで⁉



 ますますワケがわからないと思ったその時――



「前から思っていたがこれ偽物なんじゃねえか? 希咲みたいになんか詰めてんだろ。お前ちょっとその乳取れ」



――急に音声が戻って、弥堂が魔法少女のお胸を鷲摑みにした。



 おいてめー。今なんつった?


 あたしがピキっと怒りを浮かべるとまた音声が途切れる。


 は? なんでその台詞だけ聞かせてきたの?


 え? ケンカ売ってる?



 どうにかこの状態で現在眠ってる弥堂にダメージを与える方法はないだろうかと考えていると、視界が急におかしくなる。


 というか、おかしくなったのは飛行の軌道だ。



 無茶苦茶な動きでどんどんとスピードを上げていく。


 ジェットコースターどころのスリルじゃない。



 なになになに⁉ なんなの⁉



 音も戻らずあたしの疑問への答えもないまま、今度は地面に急降下していく。


 ちょちょちょちょっと……!


 ぎゃぁぁぁーーっ⁉



 そのまま大きく視界が揺れたと思ったら、ブツンっと視界が途切れる。


 そして――








「――お兄ちゃんごめんなさい」



 声が戻った。


 映像は別のものに変わっている。



 どこかの部屋――というか小屋の中?


 明かりのない部屋。


 てか、聞き覚えのある声だった。



 暗い部屋の中で弥堂は仰向けに寝ている。


 そして身体の上に誰かが覆いかぶさっている。


 その人が身体を起こす。



 ほぼ同時に。


 雲で隠れていた月が露わになったのか。


 窓から薄い光が入ってくる。



 唯一の光源はその月の光だけ。


 銀色の月光が照らすのは、銀色の髪の少女だった。



 この子……、プァナちゃんだ。



 薄い膜のような月の光に、彼女の白い肌が溶け込むよう。


 彼女は服を着ていない。


 華奢な少女の薄い胸が露わになっている。


 それは絵画のようにどこか神々しい光景――じゃないわよ!



 ななななにやってんのよあんた!


 プァナちゃんはマズイでしょ!


 その子、だって、中学生くらいじゃ……!



 あれ? でもパパは二千年だとか言ってたし、実はすんごい年上なの?


 え? どうなのこれ?



 あたしはドギマギとしてしまうけど、でも聴こえてくる二人の会話はそういう雰囲気でもない。



「私のせいで……」

「やっぱりわからないな。なんのことだ?」


「だって……、私が居なかったら、お兄ちゃんは今頃世界中で英雄扱いだったのに……」

「あぁ……」



 弥堂は小さく、多分彼女に気付かれないように嘆息した。



「そんなもの願い下げだ。ガラじゃない」

「でも……」


「どこに行っても称賛を浴びるだなんて気色が悪い。むしろどこに行っても石と罵声を浴びせられる今の方が落ち着くな」

「そんなこと……」



 なに? これどういう話なの?


 あたしにはとても不穏なものに感じられた。


 駆け落ちでもして追い詰められてるみたいな。



「――キミが居なかったとしてもどうせ俺も俺で狙われる」

「そうなの?」


「あぁ。滅茶苦茶恨まれてるんだ」

「魔族を倒したのに……?」


「俺が殺したのは魔族だけじゃないからな。多分魔族の倍くらい人間の方を多く殺してるんじゃないか?」

「えぇっ⁉」



 多分弥堂なりにフォローをしたんだと思う。


 プァナちゃんは大袈裟に驚いてみせて。


 そしたらその拍子に、彼女が握っていた弥堂の手が彼女の胸に触れてしまった。



 これは事故。


 だけどプァナちゃんはその手を離そうとはしない。


 彼女は一度だけ頬を染めて恥じらい、それからその顔を思いつめたようなものにした。



「あのね? お兄ちゃん……」


「プァナ」



 弥堂がその先を言わせないように遮るけど、彼女は止まらない。



「私ね? ずっと首都から出たことなくって……、外のこと何にも知らないままで……」


「…………」


「このまま何にも知らないで……、そのまま……。それはイヤだから……」



 瞳が潤んで。



「だからお兄ちゃん……」


「…………」



 弥堂は諦めたように、そして今度は聴こえるように溜息を吐く。


 そして彼女の手から自分の手を片方抜いた。



「あっ……」



 プァナちゃんは傷ついたように表情を歪める。


 だけど――



「えっ――?」



 弥堂はその手を彼女の腋の下へ挿し入れた。


 そして掌を彼女の身体に押し当てて、親指を胸の膨らみの端に掠らせる。


 ちょ、ちょっと? 弥堂さん?



「え? え……?」



 戸惑うあたしとプァナちゃんを余所に、弥堂はゆっくりと手を引きながら掌を離していく。


 だけど中指の指先だけは身体に触れたまま残した。


 その指をゆっくりと下に下げる。



「んぅ……っ」



 プァナちゃんは唇を強く結ぼうとする。


 だけど僅かに間に合わずに、少しだけ声が漏れた。


 あわわわ……っ。



 弥堂は指先で薄く浮き出た彼女のあばらをなぞりながら、彼女の恥じらう顔を観察している。


 こ、これって、彼女が耐えられなくって音を上げるのを待ってるのよね?


 大丈夫なのよね? ね?



 だけどプァナちゃんも退く気はないらしく、潤んだ瞳で弥堂をジッと見つめ返す。


 思わずあたしがフリーズしちゃいそうなくらいに色っぽい表情だった。



 弥堂の瞼が僅かに細められる。


 そしてあばらの隙間を撫でていた指先を段々と胸の方に――



 こここ、こらぁーっ!


 これダメなやつじゃん!


 そこは年上のお兄さんらしく優しく諭すとこでしょ!


 これ絶対手出しちゃダメなやつじゃんか!


 バカ犬なの⁉



 つーか、わかった。


 わかっちゃった……っ!



 あんたこれ“おっぱいハイライト”でしょ⁉


 ざけんな!



 前回はお尻で今回はおっぱい⁉


 今日はおっぱいの日ってわけ⁉


 マジでいい加減にしなさいよ!



 なんなの⁉


 あたしがこうやってちょっと強めに覚悟したり決意固めたりすると、なんで毎回こうなの⁉


 絶対わざとやってんでしょ⁉



 こんなにあたしがさ、あんたと仲良く出来ないかなって悩んでんのに!


 なんであんたはおっぱいのことしか考えてないわけ⁉


 少しはあたしのことも考えてよ!



「や、やぁ……っ」



 きゃぁーーっ⁉



 ダメ! おわり!


 もうここおわり!


 早く次――っていうか、愛苗のこと見せろって言ってんでしょ!


 あの日の港のとこいってよ!


 おいやめろって言ってんだろこのロリコン!



 声帯のないあたしが感情だけで激しく叫んでいるとその願いが届いたのか、はたまたスキル効果で夢を支配したのか――突然視界がグニャリと歪んだ。



 や。これ、なんかちがう。


 これも今までに見たことのない現象だ。



 思わず弥堂への罵詈雑言が止まった瞬間――



 ブツリ――と。



 何かが切れたような音がして、今度は何も見えなくなった。


 弥堂が死んでしまった時とも違うような気がする。


 なにこれ?



 そのままどれくらいか。


 真っ黒な世界が続いて――


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― 新着の感想 ―
七海に「夢魔」の称号があるなんて……まさか、彼女にはサキュバスの血が流れているということ?!そうなると七海の母親が非常に怪しいですし、あるいは元の父親の方でしょうか?いずれにせよ、この家庭には相当な裏…
ななみちゃんが覗いてることが触手ブラにバレたかな
マキさんとリンスレット似てるな。リンスレットってマキさん病んだみたいな感じだな。とうとう七海ちゃん少しは自分のこと考えろってデレてるし。
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