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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第四部・赤壁炎上編
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82.関興、女神孔明のピンチを救う

その頃。

当陽で劉備に置き去りにされた上に、曹操軍の騎兵に追い立てられ逃げ惑う難民の群れに巻き込まれた女神孔明は。


「どこよ、ここ?」


自分が今どこにいるかも分からず途方に暮れる。


「なんで軍師の私を置いて自分たちだけ逃げちゃうのよ?!」


それがこの世界の劉備のクオリティだから。


「あーもう信じられないっ!誰か迎えに来てくれないのかしら?ちょっと電話掛けてみよう」


女神孔明は懐からスマホを取り出すが、


「あ。あいつらは電話持ってないから、連絡が取れないんだった。やだ、どーすればいいのよ?」


未知の場所への恐れと独り取り残された不安で泣き出しそうになる。

そこへ汚らしい風貌をした二人組の山賊が女神孔明を見つけて近づいて来た。


「おーベッピンさんがいるじゃねーか?こりゃ、娼館に高く売れそうだぜ」

「待て。その前にオイラたちで味見してみようじゃねーか」


グヒヒと下卑た笑いを浮かべ、舌舐めずりしながら山賊は女神孔明に触手を伸ばす。


そう。女神孔明は(黙っていれば)金髪セミロングの絶世の美女なのだ!オレも忘れていたが。

女神孔明は鼻で笑い、


「ふん、馬鹿め。あんた達みたいな頭の悪そうなザコキャラなんて、【混乱】コマンドで動けなくなっちゃうのよ!知力100の孔明が実行する策略は成功率100%なんだから。はい、ポチッとな!……あ、あれ?」


「はあ?何言ってるんだ、このベッピンさんは?」


山賊が女神孔明の服をまさぐり、白く透き通った脚に触れる。


【混乱】コマンドが利かない!

それもそのはず、KOEIの三國志に代表される歴史シミュレーションゲームのコマンドは、名前をクレジットされた()()()()()作用するのであって、数字でしかカウントされない名もなき大衆や兵士へ直接コマンドを命じても、無効なのだ。当然、ザコキャラの山賊にも利かない。


「キャーッ!ち、ちょっと。何するのよ!?気持ち悪い!」


「フヒヒ。今からオイラたちと楽しもうぜ」


裸になった山賊の二人組は、女神孔明を押し倒して服を引き裂き、露わになった美乳を揉みしだく。


「いやーっ!やめて!」


泣き叫ぶ女神孔明。やばい、大ピンチだ!


 -◇-


さて、女神様がそんな大ピンチに陥ってるとはつゆ知らず。


当陽の荒野に建つ(やぐら)からオレが下り立ったところに、趙雲が一騎で駆けつけた。


「おお、関興ではないか!無事でよかった…というか、なんでおまえがここにいる?」


「しーっ。ちょっと訳ありで。心配させたくないから、父上には黙ってて下さい。

 趙雲殿の方こそ、そんなに慌ててどうしたんですか?」


どうせ、劉備が阿斗(劉禅)と甘夫人を捨てて逃げ出したので、行方を追っているとか言うんだろ?分かってるさ。


「軍師殿が見あたらないんだ」


「はあ?諸葛孔明が?阿斗と甘夫人じゃなくて?何やってんだ、女神様は」


オレが呆れた声を出すと、趙雲が心配そうに、


「実はここに至る途中で、軍師殿と劉備将軍・張飛が少々険悪なムードになってな……まあ、暴言を吐いた軍師殿の方が悪いと俺も思うが、劉備将軍が腹を立てちまったんだよ。それで混乱の最中、大人げなく軍師殿を一人置き去りにして……」


うわー劉備の奴、最低だなあ。か弱い女性を独りで知らない土地に放置するなんてあり得ないだろ!


「あちこち駆け回って探しているのだが、一向に見つからず……」


「分かりました。オレも探してみます!」


「頼む。だが無理はするなよ、おまえはまだ子供なんだから」


趙雲は優しく声を掛けて、西の方に向かって行った。

よし、オレは反対の東の方を探してみよう。


 -◇-


「いやーっ!やめて!」


山賊に押し倒されて、泣き叫ぶ女神孔明。


と、その時。

ふいに、どさりとその場に崩れ落ちる二人の山賊。

起き上がった女神孔明は、山賊の首筋に矢が突き刺さり、すでに事切れているのを確認した。


()っぶねえ。おい、大丈夫だったか?」


そこに颯爽と現れたのは弓を手にした正義の味方ならぬ、モブの関興(オレ)だった。


「か、関興……うわああーん」


女神孔明は泣きながらオレにぎゅっとしがみつく。


「怖かったよぉ」


「うん。もう大丈夫だ」


オレは女神孔明を抱き寄せ、頭を撫でてやる。

やべえ。女神様、柔らかくていい匂いがする。

……ってこんな時に何考えてるんだ、オレ?


「あーその、女神様。そろそろ離れてくれないかな……なんて」


誰もいないとはいえ男と女が屋外で抱き合っているシチュエーションに、ハッと気づいた女神孔明は顔を真っ赤にして、


「ばっ……ち、違うの!これはあんたが好きとかじゃなくて、ほら、お化け屋敷とかで怖い思いをした女の子が、一緒に歩いてる男にキャーッてしがみついただけの吊り橋効果っていうか……」


とかよく分からない言い訳をしながら、慌てて手を解いてオレから離れる。

そのせいで、破けた服がはだけて露わになった女神様の美乳を見てしまったオレは、顔を真っ赤にしながら目を背け、


「め、女神様。ま、前が……」


「え?イヤーッ!ちょっと関興、見ないでよ!エッチ!変態!」


いや、それは不可抗力でオレのせいじゃないだろ。

オレはおもむろに服を脱いで女神様に差し出し、


「着てろよ。ちょっと汚れてるし汗臭いかもしれないけど、その格好よりはマシだろ」


「……あ、ありがと。関興」


はにかんで礼を言い、オレが渡した服に袖を通す。


「ちょっと小さい」


「うるせえな!文句ばっかり言ってないで、それくらい我慢しろよ。オレ、九歳のチビなんだから仕方ねえだろ」


「ち、違うの。胸が…その、ちょっと窮屈で苦しい…かな」


あ、ごめん。オレが悪かった。


「それに、関興の汗の匂いがする…あんたに包まれてるような感じ」


「!」


待て待て。さっきから女神様どーしたんだ?なんか変だぞ?!


「なあ女神様、歩けるか?」


ううん、と首を振る。


「足が疲れてもう動けない」


「弱ったな。馬を探しに行くか。ちょっとここで休んでろ」


と女神様に言うと、オレの腕を(つか)んで、


「いや。一人にしないで」


「でもさ……」


「お願い!一人ぼっちで置いて行かれるのは怖いの。一緒にいて」


と目を潤ませながら女神様が哀願する。


オレ知ってる。こうやってかわいい女の子に見つめられて「こいつ、俺に惚れてるな」と勘違いして告白して玉砕した男が、世に一千万人いることを!騙されるな、オレ。


「……分かったよ、もう少しだけな。趙雲もあんたのこと探してるし。それでいいだろ?」


コクンと頷く女神様。

そうしてオレ達は大きな木の下に座る。


「抱っこされたい」


とか訳の分からんことを言う女神様。


「アホか!オレ、あんたに服貸したから上半身裸だぞ。身体は九歳とはいえ、精神年齢は24歳だからな!もしムラムラして変な気を起こしたらどーすんだよ?」


だがどうしても譲らない女神様に、結局オレが後ろから女神様を抱き締めるような格好で座ることで妥協した。


「ねえ、関興。なんで私を助けに来てくれたの?あんた、私のこと嫌いなくせに」


「はあ?迷子になってるおバカさんは皆で必死に探すだろ。普通」


「だよねえ。普通、置き去りにはしないよね。私、玄徳様に嫌われてるのかなあ?」


オレは苦笑して、


「……趙雲に聞いたよ。

 あのな、全知全能の神様にすれば人間なんて頭の悪い馬鹿な生き物にしか見えないだろうけど、女神様に馬鹿にされてもハイハイって命令(コマンド)に従ってやる奴なんて、オレくらいの者だぞ!

 オレは女神様に転生させてもらった恩義があるから渋々付き合ってやってるだけで、そもそも男ってプライドの高い生き物なんだ」


「……ごめんなさい」


「いや、オレに謝られても」


「っていうか、傷ついてる女の子に対して説教がウザい」


「フン。悪かったな」


「ねえ、関興。じゃなくて(はた)(あきら)、あんた前世では絶対鈍感って言われてたでしょ?」


「言われたことねぇよ!そもそも俺は全然モテなかったし」


「で・し・ょ・う・ね!あーあ、あんたがもう少しイケメンであと5歳くらい上の武将に転生させていればなあ……」


ケッ、どうせオレはモブ顔だよ。


「関興はさ、赤壁の戦いで敗れた荊州の兵士が海の藻屑と消えるのを、阻止しようってまだ諦めてないの?私の神通力で曹操が負けるのは確定なのに」


「当たり前だ!義を見てせざるは勇無きなり。味方がやられるって分かってるのに、見て見ぬフリなんかできねえだろ」


「じ…じゃあ、もし私が危ない目に……」


その時、劉備の行方を探す曹操軍の諜報兵らしき者がオレたちを見つけて騎馬で近寄って来た。

諜報兵がいるということは、近くに本隊が展開しているはずだ。マズいな。それに、動けない女神様を(かば)いながら戦うのは、オレの腕では正直厳しい。


「関興……」


「心配するな。逃亡用の馬が手に入ると思えば儲け物だろ。念のため、女神様は隠れてろ」


オレは近寄って来る諜報兵に矢を射た。倒れた諜報兵は呼び笛をピーと鳴らして仲間に危急を知らせる。


やばい、敵にオレたちの存在を気づかれてしまった!

オレは転がってる山賊の死体から剣を奪い取ると、諜報兵が乗っていた馬を奪い、女神様がいるこの場からできるだけ遠くに離れるために馬を走らせた。


「おーい、こっちだぞー!」


(おとり)となったオレの叫びに気づいた敵本隊の一騎が、オレの行く手に立ち塞がり、槍を繰り出す。

いかん、避けられない!

オレは馬から飛び降り、身体を転がして受け身を取った。痛ってぇー!


「死ねい!」


敵の渾身の一撃を必死に(かわ)す。やはり歩兵VS騎兵では歯が立たない。泥にまみれた身体を起こして逃げ出そうとするも、オレはすでに敵本隊に十重二十重に囲まれていることに気づいた。


……オレもここまでか。こうなれば、一人でも多く斬ってあの世へ道連れにしてやる!


オレは剣を構えた。


高坂岬さんの『【歴史コメディ】劉備の嫡子』が終わってしまった。面白かった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あ、作者さんやっぱり見てたんですね。同時期に始まったからもしかしてと思ったんですけど。一つ楽しみが減ってしまったので作者様には岬さんレベルの速さでの更新お願いします(ゲス)
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