83.趙雲、曹操軍相手に無双する
趙雲大活躍の回です。文章が下手でごめんなさい。
それに対して張飛は……。実際のところ、戦いの最中に「やあやあ我こそは燕人・張飛なるぞ!」って名乗りを上げても、元寇の時の鎌倉武士のように、その間に敵に討ち取られちゃうよねぇ。
敵騎兵がオレを殺そうと四方から一斉に馬で襲いかかって来る。
そこへ。
「どけどけーい!おまえらの相手は俺だっ!」
趙雲が単騎で現れ、手にした槍を振り回し敵本隊を次々に蹴散らして行く。強ぇ!
「フン、曹魏軍の弱将ども!一世の虎将と呼ばれし趙子竜が相手になるぞ!」
と凄むと、趙雲の名前を聞いた敵軍は震えおののき、後ずさりして駆け去った。
「関興、大丈夫か?」
趙雲の言葉に「助かった」とばかり、へなへなと崩れ落ちるオレ。
「こ…怖かった。死ぬかと思った」
「うむ、よく頑張ったな。偉いぞ」
生き残ったことが嬉しいのか、趙雲に褒めてもらったのが嬉しいのか、よく分からないが涙がこぼれ出た。溢れる涙を肘で拭いながら、
「ありがとうございます。おかげで助かりました、趙雲殿」
と言ったオレの頭を趙雲が優しくポンポンと撫でてくれる。
「孔明なら見つけました。あちらの方に匿っています」
「おっ、でかした!」
そして趙雲を案内し、藪の中に隠れていた諸葛孔明に会わせた。
「軍師殿、ご無事でなにより」
「迎えに来てくれてありがとう、趙雲。やっぱり頼りになるわ」
そしてオレは女神孔明を趙雲に託し、再び唐県に戻ることにする。
「じゃあ、お別れね。関興」
「ああ。本当に劉備の所に戻っても大丈夫か?あいつに嫌われて行き場がないんだったら、オレと一緒に唐県に帰ったっていいんだぞ」
女神様は一瞬どうしようかと迷ったそぶりを見せ、そしてううんとかぶりを振って、
「遠慮しとく。私、やっぱり玄徳様が好きだし。今さら見捨てるなんてできない」
「……そっか。気をつけろよ」
趙雲は孔明を抱きかかえて一緒の馬に乗せ、オレに手を振って出発した。
-◇-
一方。長阪の橋の上に仁王立ちになり、追って来た曹操軍に立ち塞がるのは張飛。
「やあやあ、我こそは一騎当千と噂の燕人・張飛翼徳!おまえら雑魚の小兵でも聞いたことがあろう。命惜しまぬ者は前に出ろ!」
「はあ?猿人?ゴリラの間違いだろ?」
「ゴリ猪だな」
わはは、と嘲笑する曹純と軽騎兵たち。
「うぬぬ、馬鹿にしやがって!」
「それ、斉射だ!」
曹純の命令に従い、軽騎兵は張飛に向かって一斉に矢を射かける。あわわ…と避ける張飛。
「卑怯だぞ!一騎討ちで勝負しろっ!」
「バーカ。腕力しか能がない脳筋野郎に、一騎討ちを挑むわけないだろ!おまえなんか目じゃない、俺たちが欲しているのは劉備の首だ」
うぐっ、と返答に詰まる張飛。
「う、後ろの林を見ろ。ふ…伏兵を隠しているんだぞ!」
曹純が見ると、確かに林の木々がガサガサと揺れ、馬の嘶きが聞こえて来る。
「フン、おおかた馬の尾に木の枝を結いつけ、十騎ほどの兵に林の中を行ったり来たりさせてるんだろ。こっちは五千騎、たかが十騎など恐れるに足らぬわっ」
渾身の策も見破られ、張飛は軍師孔明に指摘された己の役立たずぶりを、ようやく自覚した。
と、その時。
当陽側の後方から軽騎兵を薙ぎ倒しながら、一騎の武者が吠える。
「どけどけーい!趙子竜様のお通りだ!邪魔する奴は斬るぞ!」
まるで無人の野を行くように駆け破って通る凄まじい勢いに恐れをなし、曹純の軽騎兵どもはモーゼの海割れの奇跡のように左右に分かれ、道を開けた。
軍師・孔明を胸に抱えた趙雲は、長阪橋を渡って漢水の対岸にたどり着くと、
「張飛、何をしている?軍師殿の命令だ、さっさと火を点けて長阪の橋を燃やせ!」
「わ、分かった」
曹純と軽騎兵が趙雲の獅子奮迅の活躍に呆然とする中、長阪橋は燃え落ちて対岸へ渡ることが不可能となってしまった。もう、劉備を捕らえ首を斬ることはできない。
「やむを得ん、退くぞ。これより江陵に向かい占領する。皆の者、俺に続けぃ!」
「おうっ!」
曹純率いる軽騎兵五千は長阪橋から立ち去り、南の江陵へ向かって行った。
◇◆◇◆◇
(女神孔明のつぶやき)
三国志演義モードの(3)劉備は甘夫人と劉禅を捨てて逃亡、二人は探しに来た趙雲に見つけられ……趙雲は、曹操軍百万の中を縦横無尽に駆け回り、劉備の元に帰還する。
これは甘夫人と劉禅の代わりに私と関興で再生され、
(4)張飛は長阪橋の上に仁王立ちして一騎当千の勇猛さを曹操軍に見せつける。背後の林に潜む伏兵の存在を恐れた曹操は退却するが、橋を落とした張飛の短慮で伏兵がいないことを見抜き、再び劉備追撃を開始する。
こっちは無能な張飛に代わってイケメン趙雲の大活躍で再生され、難を逃れることができた。もう曹操軍は劉備一行を追って来ない。
――ってことでいいのよね?
あの時、なんで私は「三国志演義モード」なんかに切替ちゃったんだろう?
生意気な関興にお仕置きしたつもりだったけど、そのせいで私は逆にピンチに陥った。
自業自得よね。最低だわ、私。
だけど、あいつはそんな私を助けに来てくれた。私が見つからないように敵の目を引きつける囮にもなってくれた。
「じゃあ、もし私が危ない目に……」
……遭ったら、また助けに来てくれる?
ううん、返事は聞かなくても分かる。あいつはそんな奴だもん。
「おお、孔明じゃないか。よく無事に戻って来たな」
長阪橋の対岸で休んでいた劉備がにこやかに近寄り、白々しく私に握手を求める。
ふん。私を置き去りにして、自分だけさっさと逃げたくせに。
「お出迎えご苦労さま、劉備将軍。一人にする時間を与えてくれたので、冒険を楽しむことができました」
「それは何よりだった。ところで、この後の予定は?俺のために逃げ道を確保しているんだろ?」
私に向ける推しの素敵な笑顔。……素敵?そうかしら?
これまで感じたこともなかった“わざとらしさ”に私は気づいた。
(貴方に抱かれても嬉しくなくなったから)
私はふと、エヴァンゲリオンの赤城リツコが碇ゲンドウに漏らした静かな罵りの言葉を反芻した。
「なあ、孔明。どうなんだ?」
劉備の問いに、私は自信たっぷりに答え、
「ええ、もちろん。私は劉備将軍の軍師ですから!
このまま東に漢津へ向かいます。そこに関羽将軍が船で待機してくれているはずです」
「さすが孔明!頼りになるわ」
……推しのお褒めの言葉も全然嬉しくない。
(行き場がないんだったら、オレと一緒に唐県に帰ったっていいんだぞ)
(それ、着てろよ。ちょっと汚れてるし汗臭いかもしれないけど、そんな格好よりはマシだろ)
やだ、どうしてこんな時に関興の言葉が思い浮かぶのかしら?
「というか孔明。そんな薄汚れた服、似合わねえぞ!美人が台無しじゃないか!さっさと捨てて、新しい服に着替えた方が……」
今までだったら、推しの劉備の親切な声掛けに舞い上がっていただろう。だけど、
「いやよ!関興が貸してくれた服なのよ!今日は一日この服を着て過ごしたいの」
と思わず拒否してしまった。
「あ…ごめんなさい。私、今日はなんか変」
「ま、まあいいさ。たまにはそんな気分の時もあるだろ。さあ、急いで漢津に向けて出発しよう」
ちょっと待って!私も趙雲も、着いたばかりで疲れているの。
「駄目だ!曹操軍が追撃して来たら、どうするんだよ?」
……私が期待する言葉とは違う。
関興だったらきっと、
――分かった、ちょっとここで休んでろ。オレが見張ってるから。
とか言ってくれるんだろうな。
ようやく気づいた。私は関興が、いえ、秦朗のことが好きになっちゃったんだ。
――はあ?馬っ鹿じゃねーの?それってただの吊り橋効果だろ。
あいつは呆れてきっとそう答えるだろう。鈍感だから。
……いいえ。全部、私のせい。「モブの下僕のくせに」なんて馬鹿にしないで、もっと早くあいつの優しさに気づいていればよかった。
でも、もう遅い。
赤壁の戦いをめぐって、私と関興は敵同士になる。私は劉備軍、あいつは曹操軍に分かれてしまう。まるで、ロミオとジュリエットのような運命の二人。
……違うわ!そんなロマンチックな恋じゃない。
だってあいつは私のことなんて、何とも思っていないもの。
嫉妬よ。
呉範のことを調べるうちに、私は別の転生者がこの世界にまぎれ込んでいることに気づいた。
乙女ゲームに登場する鴻杏ちゃん、秦朗が人生で初めてゲットした彼女。
知ってる?鴻杏ちゃんは、高校時代、弓道部のあんたにバレンタインのチョコをくれた娘なんだよ!よーく字を見てごらん。
鴻→[江鳥]→江島。
江島杏って一学年後輩の女の子を覚えていない?
よかったね!あの時の恋が、こちらの世界で実りそうじゃない!
どうしよう?
関興になんて言って祝福してあげればいい?
アハハ。なんで涙が出て来ちゃったんだろう?
「軍師殿、大丈夫か?」
趙雲が心配そうに声を掛けてくれる。私は手の甲で涙を拭いて、
「ありがとう、何でもないわ。心配かけてごめんなさい。
劉備将軍。私は趙雲に乗せて行ってもらいます」
と言った。
漢津までの道のりは思ったとおり近く、でも遠かった。
まさかのラブコメ?!展開は終わりです。次回から普通の三国志に戻ります。いや、普通じゃないな。




