複雑な事情
「千兄がこんなに女嫌いって言うか、人に興味がなくなったのは、僕等の父さんが不倫してたからなんだ」
「え……?」
驚きすぎて、何か言おうと思っても、言葉が出なかった。
だって……
こんなに身近でそんなことが起こるなんて…
「驚いた?まぁ、ふつう驚くよね。次はきっと、もっと驚くと思うよ」
と、唯君は自嘲気味に笑う。そして……
またもや信じがたい事を言った。
「僕はその不倫で生まれた子供。だから、千兄は腹違いの兄なんだ。」
「うそ……そんな事って……」
「それがあるんだよね…僕もこんな事、気付きたくなかったよ。でも、違うんだ、兄さんと、僕は……髪とか、眼の色、顔立ちだって
似ているところがほぼ無いんだ」
確かにそうだ。
兄弟だって言われるまで気づかなかったもんね……
「しかも、千兄はその…不倫してる所を実際に見てるんだよ。まだ小さい時、母さんと一緒にね。」
「な……にそれ」
うそでしょ…
「だから母さんを裏切った父さん、そしてその女、つまり僕の母さんだね……を許せないと思ってるんだ。
そして、おまけに人自体信用出来なくなったって事。」
「そうだったんだね……」
余りにも重い話が心にずっしりと響く。
「でも、僕は父さんの子だから、兄弟にならざるを得ないんだ……皮肉だよね」
唯君は消え入りそうな声でそう言った。
今は何を言っても同情になる気がして…
「そっか…」
としか言えなかった。
そして泣き出しそうな唯君をふわりと抱きしめる。
「せ…ん…ぱい?」
「ずっと溜め込んでたんだね…話してくれてありがとう。唯君は偉いよ…」
「そ、んなこと…子供扱い…しな…いでよ」
「だから、今は泣いて良いんだよ?一応、私は先輩なんだから、ね?」
私が少しためらいながらも頭を撫でると、
「ゔ…っグスッ」
唯君の薄茶色の瞳から涙が溢れる。
きっと今まで、千里君にも気を遣ったり、お父さんの事も色々大変だったと思う。
私に出来ることはこうやって話を聞いてあげて、その負担を軽減してあげることしか出来ない。
「もう、抱え込まなくて良いんだよ…」
そう言って唯君が泣き止んだ後も、私の家に着くまでずっと、唯君を抱きしめて、サラサラの髪を撫で続けていた。
ーーーー
家に着いたので唯君のから離れようとすると、ガッチリと腰のあたりを掴まれているので身動きが取れない。
「唯君、起きて?」
そう言ってみても、ほっぺを突っついてみても起きる気配は無い。
ぐっすりと安心しきった顔で寝ている。
ど、どうしよ……
こう言ってみたら起きるかな…
「あっ!千里君だ!」
そう言うと、がばっと唯君は起き上がった。
「千兄?あ……」
私と目があうと、恥ずかしそうに目を反らす唯君。
とりあえずわたしは、
「唯君、おはよ」
「うん……先輩こんな話してゴメンね…」
「えー?ゴメンより、ありがとうの方が良いかな?」
「……ぁ、ありがと……」
そう言って唯君はわたしの胸に顔を埋めた。
「ずっとこうしてたい…先輩あったかいし」
「もしかして……変態?」
「違うし!」
「ふふっ……」
和やかな空気がやっと流れる。
「何笑ってんの?先輩」
「んーん。何も?ただ、やっといつもみたいに戻ったなと思って」
「いつもみたいって…普段どんな事してるんだよ……ボク……」
いつまで車の中で話していただろうか…
いつの間にか少し日が暮れてきた。
「唯君、そろそろ私帰るね?」
「うん…今日は本当にありがと。またデートしてくれる?」
「うーん……デートは分かんないけど、相談ならいつでも乗るよ?」
「えー……まぁ、いっか…まだチャンスは有るし…」
何てことをボソッと言ったことは私には聞こえなかった。




