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佐倉さんと一緒に、駅方面から帰れば良かった。
肩で息をして、シャッターの閉まった店先にしゃがみ込む。目を閉じると、先ほどすれ違った、歩き煙草の火がちらつく。再び呼吸のリズムが乱れそうになって、慌てて目を開け、水を飲んだ。
この恐怖心に理由はない。紅い粒の夢と同じで、小さい頃から当たり前のように受け入れてきたものだ。しかし、自分の一部に巣くう居心地の悪さが、最近やけに気になる。
バス停標識の隣に立つ街路樹に近づき、幹に触れた。所々めくれ上がった木肌の奥に、流れる水の音を感じる。くすぶり続ける火の映像が少しずつ霞んでいく。
わたしはようやく顔を上げた。
やっぱり佐倉さんと一緒じゃなくて良かった。きっと、すごく心配させてしまうから。
何度か深呼吸をしてバスの時刻表を覗き込んだ時、道路の向かい側で動く、淡く眩しい人影が目に入った。見ないようにしようとしても、どうにも体が言うことを聞かない。だって、今日は会うことなかったはずなのに。
家の前を箒で掃いていたその人は、体を起こして汗を拭いた。そして、とうとうわたしに気づいた。
キィィー、ガタンッ。
視界を塞いで停まった大型バスのドアが、両手を広げるようにして開いた。ごぅんごぅんというエンジン音が、蝉の声をかき消す。ただ呆然とするわたしに、車外スピーカーからくぐもった声が問いかけた。
『乗りますか?』
「乗ります!」
と、言いたかった。だけど、靴底がアスファルトをこすりながら後ろに下がっていく。
「いえ、あの……」
それ以上何も言わずに、ドアは閉まった。わたしとぬるい風を残して去っていく。舞い上がる髪が肩の上に収まった時、さっきと同じ場所に彼は立っていた。そして、わたしに向かって微笑みかけた。
――さぁ、行きましょう。
どこからか声がした。頭を振り、耳を数度叩く。
葉と葉の隙間から差し込む光が、道の上で揺れている。佐倉さんの声が、光の中に溶けていく。
なぜか、差していた日傘を閉じた。道路の向こうに頭を下げる。常連さんを目の前にして、無視して逃げるわけにもいかないしなぁと、ぼんやり考える。
――五分だけよ。
あれほど拒んでいた道路の白線を、わたしはふらふらと跨いでいた。




