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「今日はお休み?」
涼やかな声が、頭を冷やす。
迎井さんは、看護師さんに似た上下を着ていた。店の外で見ると、ヤバい感じは一切しない。
「はい。店のスタッフとご飯に行っていました」
「仲がいいんだね」
「一人だけですけど。迎井さんは、お仕事ですか?」
「予約のお客さまが、この時期にしては多くてね。やっと一息ついたところだったんだ」
会話も、至って普通だ。
「大変ですね。暑いから、ご無理なさらないようにしてください」
「ありがとう。村主さんも」
後ろの古い平屋を見上げる。予約を受け付ける職業って、何だろう。着てるのは制服、だよね。
「こちらが職場ですか?」
「うん。祖父から譲り受けた自宅なんだ。看板は出してないけど、整骨院なんだよ」
せい、こつ、いん。
あっけなく判明した正体は、全く想像していなかったもので、理解するのに少し時間がかかった。迎井さんが、ツボを押したりマッサージをしたりするところを、想像してみる。佐倉さんの声が蘇った。
予約のとれないマッサージ屋さん。
今まで自分が立っていたバス停を見た。それから、レストランの方を見た。汗が頬を伝う。
「お茶でも飲んでいく? 暑いでしょう」
掃除道具を片付けながら、彼が言った。すぐに断らなかった自分に驚いて、唾を飲む。
すると、迎井さんが「あっ」と声を上げた。
「こういうの、ハラスメントっていうんだっけ」
「いえ、そんな」
「庭の百日紅が満開だから、見て行ってほしくて。つい」
ごめんね、と困った顔で小首を傾げる。さらりと揺れた髪が、視界からバス停を消した。
硬いエプロンの感触も、聞き慣れたBGMもここにはない。今度は、体の中から声がした。
――見るだけよ。
五分だけという約束が、蝉の声に塗りつぶされていく。いつの間にかわたしは頷き、口を開いていた。
「じゃあ少しだけね」
自分のものとも分からない声が、直接脳に響く。
迎井さんが、目を細めた。薄く、薄く笑っていたけど、喜びを必死に抑えている、そんな唇の形をしていた。彼は枝のように長い指で、建物と塀の隙間を指した。
「そこを通っていったら、裏庭に出られる。縁側があってね。風を通すために、窓はいつも開放してあるんだ」
座って待ってて、と振り向きざまに言うと、長身のシルエットは風を残して、玄関の内側へと消えていった。躊躇して動けずにいる心だけ置いて、わたしの体はすんなりと裏庭へと向かっていた。




