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わたしが忘れた紅い花  作者: 出原ミサ
おもいの感触
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8/22

ー3ー

 レストランから一歩外に出ると、サウナが待ち受けていた。屋外なはずなのに、熱気の逃げ場がない。ものの数秒で溢れた汗を拭い、もどかしい思いで固い日傘を開く。架純《かすみ》ちゃんの手を握って先を歩いていた佐倉《さくら》さんが、振り返った。

「今日は付き合ってくれて、ありがとね」

「こちらこそ。家にいたら、絶対ダラダラしてたもん」

「美味しいご飯に、楽しいお喋り。この後は……」

「ママぁ、あつーい、だっこしてー」

 帽子を被った架純ちゃんが体をくねくねさせ、暑さが倍増しそうな音量で騒ぎ始めた。

「買い物行ったりマッサージにでも行けたら言うことないんだけど。あと五年は無理だわ」

 騒ぐ我が子を押しやって、肩をすくめる。

 ロウリュみたいな熱風が吹いた。眉をひそめて、日傘を風の来る方向に向ける。

「ここら辺にさ、ウワサのマッサージ屋さんがあるんだって。探してみたかったんだけどなぁ」

 佐倉さんが、タオルでひっきりなしに首元を拭きながら言った。

「評判がいいってこと?」

「うん。病気も治るくらい凄腕だって」

 胡散臭そうな表情がなるべく表に出ないように頷く。

「へぇ。何てとこ?」

「それが、店名までは分からなくって。一日三人限定で、何ヶ月も先まで予約が埋まってるらしいよ」

 手を肩に当て、首をポキポキ鳴らしてみせる。

「マッサージいくの? かすみもいっていい?」

「だーめ」

 不服そうに頬を膨らます架純ちゃんに、わたしは手を振った。いつまでも引き止めていたら、彼女たちが干からびてしまう。駅の方に消えていく二人を見送って、バス停へと歩を進めた。ここら辺に土地勘はあまりないのだが、不思議と足取りに迷いはなかった。

 『ちょっとヤバいよ』という言葉が、スピードを上げさせる。街路樹の葉が、誘うように上下に揺れていた。

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