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「コウちゃんって、おはだキレイだよねぇ」
「架純ちゃんには負けるよ」
佐倉さんとお揃いのショートカットの髪に、目立つひまわりのカチューシャ。どこもかしこも丸っこい架純ちゃんと接していると、こっちの心も丸くなっていく。
「わたし、架純ちゃんがスマホを持ったら、絶対友達になってもらおうと思ってるんだ」
「ママぁ、かすみもはやくスマホほしい」
「ちょっと、煽るのやめてくれる?」
デザートのアイスクリームが三つ運ばれてきて、途端にテーブルは静かになった。スプーンですくって口に運ぶ。甘いバニラの香りが白い冷たさの中から溶け出してきて、あの人のことを思い出させた。彼は今日もホームセンターに行っただろうか。
「迎井さん、いつまでスマホ持たないつもりなんだろうね。今どき、小学生でも持ってるのに」
天井で回り続けるシーリングファンを見上げて首を傾げる。
「仕事上、困らないのかな。パソコンも壊れてるって言ってたし。電話とファックスで対応? ま、いけなくもないか。そもそも、何の仕事してる人なんだろう」
ほぼ独り言なのに、佐倉さんはわざわざため息をついてくれた。
「知らないよ。自分で聞けばいいじゃない。毎日話してんだから」
「そんな込み入った話するわけないじゃん。仕事中だし」
「じゃあ、何の話してるのよ」
「わたしからは、花の話」
どこどこの何が見頃だとか、この花の育て方のポイントはとか。逆に、何を話せと?
「迎井さんからは?」
「色々聞かれる。一日どのくらい水を飲むか、とか、冬の間はどう過ごしてるのか、とか」
「お見合いにしては、変わった質問だね」
佐倉さんは、複雑な表情で口の中のアイスを転がした。
「あんなに逃げ回ってたのにねぇ。プライベートでまで思い出しちゃって」
「ただの興味だって」
「気にならない人に対して、興味は湧かないもんだよ」
「……」
反論できない。わたしはもしかして、彼に近づこうとしていたのだろうか。少なくとも、佐倉さんにはそう見えてたってことだ。
黙り込んだわたしをよそに、佐倉さんは眉間の皺を濃くして下唇を突き出した。
「ねぇ、気づいてる? 村主さんを見る時の、迎井さんの目つき。ちょっとヤバいよ」
架純ちゃんの口元をペーパータオルで拭いて、改めてこちらに向き直る。
「村主さん以外には穏やかで害のないお客さんだから、みんな気づいてないみたいだけど。何考えてるか分かんないし、身元も知れないし」
わたしはアイスクリームを口いっぱいに頬張った。あまりの冷たさに、何も喋れなくなる。
「いや、自由なんだよ。村主さんがしたいようにすればいいと思ってるの、本来。だけど……」
佐倉さんが、考え込むように唸った。
「あの人との恋愛は、ちょっと慎重になった方がいいんじゃないかって思う」
「恋なんかじゃない」
彼との会話はそんな甘ったるいものじゃない。噛まないように、味わわないように、少しでも触れてしまったらきっと後悔する。そんな危ない橋を渡ってまで、あの視線の意味を探っているのに、未だにさっぱり分からない。
「かすみもコイほしい〜」
手元の皿を空にした架純ちゃんがおしゃべりを再開すると、テーブルの周りはたちまち可愛らしい声で満ちた。詰め込んだアイスクリームを飲み込んで、上の空で笑い返す。
「そもそも、恋とか無理なんだって」
窓から、道路に引かれた太い白線を見つめる。誰かがその線を越えていく幻を見た気がした。
「いかないよ、そっちには」
視線で引き返して、わたしは足元を見つめた。




