↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたしが忘れた紅い花  作者: 出原ミサ
おもいの感触
PR
7/22

ー2ー

「コウちゃんって、おはだキレイだよねぇ」

「架純《かすみ》ちゃんには負けるよ」

 佐倉《さくら》さんとお揃いのショートカットの髪に、目立つひまわりのカチューシャ。どこもかしこも丸っこい架純ちゃんと接していると、こっちの心も丸くなっていく。

「わたし、架純ちゃんがスマホを持ったら、絶対友達になってもらおうと思ってるんだ」

「ママぁ、かすみもはやくスマホほしい」

「ちょっと、煽るのやめてくれる?」

 デザートのアイスクリームが三つ運ばれてきて、途端にテーブルは静かになった。スプーンですくって口に運ぶ。甘いバニラの香りが白い冷たさの中から溶け出してきて、あの人のことを思い出させた。彼は今日もホームセンターに行っただろうか。

「迎井《むかい》さん、いつまでスマホ持たないつもりなんだろうね。今どき、小学生でも持ってるのに」

 天井で回り続けるシーリングファンを見上げて首を傾げる。

「仕事上、困らないのかな。パソコンも壊れてるって言ってたし。電話とファックスで対応? ま、いけなくもないか。そもそも、何の仕事してる人なんだろう」

 ほぼ独り言なのに、佐倉さんはわざわざため息をついてくれた。

「知らないよ。自分で聞けばいいじゃない。毎日話してんだから」

「そんな込み入った話するわけないじゃん。仕事中だし」

「じゃあ、何の話してるのよ」

「わたしからは、花の話」

 どこどこの何が見頃だとか、この花の育て方のポイントはとか。逆に、何を話せと?

「迎井さんからは?」

「色々聞かれる。一日どのくらい水を飲むか、とか、冬の間はどう過ごしてるのか、とか」

「お見合いにしては、変わった質問だね」

 佐倉さんは、複雑な表情で口の中のアイスを転がした。

「あんなに逃げ回ってたのにねぇ。プライベートでまで思い出しちゃって」

「ただの興味だって」

「気にならない人に対して、興味は湧かないもんだよ」

「……」

 反論できない。わたしはもしかして、彼に近づこうとしていたのだろうか。少なくとも、佐倉さんにはそう見えてたってことだ。

 黙り込んだわたしをよそに、佐倉さんは眉間の皺を濃くして下唇を突き出した。

「ねぇ、気づいてる? 村主《すぐり》さんを見る時の、迎井さんの目つき。ちょっとヤバいよ」

 架純ちゃんの口元をペーパータオルで拭いて、改めてこちらに向き直る。

「村主さん以外には穏やかで害のないお客さんだから、みんな気づいてないみたいだけど。何考えてるか分かんないし、身元も知れないし」

 わたしはアイスクリームを口いっぱいに頬張った。あまりの冷たさに、何も喋れなくなる。

「いや、自由なんだよ。村主さんがしたいようにすればいいと思ってるの、本来。だけど……」

 佐倉さんが、考え込むように唸った。

「あの人との恋愛は、ちょっと慎重になった方がいいんじゃないかって思う」

「恋なんかじゃない」

 彼との会話はそんな甘ったるいものじゃない。噛まないように、味わわないように、少しでも触れてしまったらきっと後悔する。そんな危ない橋を渡ってまで、あの視線の意味を探っているのに、未だにさっぱり分からない。

「かすみもコイほしい〜」

 手元の皿を空にした架純ちゃんがおしゃべりを再開すると、テーブルの周りはたちまち可愛らしい声で満ちた。詰め込んだアイスクリームを飲み込んで、上の空で笑い返す。

「そもそも、恋とか無理なんだって」

 窓から、道路に引かれた太い白線を見つめる。誰かがその線を越えていく幻を見た気がした。

「いかないよ、そっちには」

 視線で引き返して、わたしは足元を見つめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。