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バックヤードを抜けて、休憩室の扉を開ける。畳の小上がりでは、佐倉さんがスマホ片手に弁当を広げていた。
「村主さん、ご飯は?」
カバンから新しい水を一本取り出し、一口飲む。
「いい。今いる子たちの世話は今日したい」
「昨日もそんなこと言って、お昼食べ損ねてたじゃん」
「そうだっけ」
明日の入荷一覧をチェックしながら、上の空で返事をする。
「覚えてないの? 暗くなってから『お腹空いたー』ってさ」
「分かったよ、後で食べるから」
「仕事熱心なのはいいけど、体を休めることも仕事のうちだよ」
わたしは佐倉さんに背を向けたまま、口をへの字に曲げた。世話をしなかったら、あの子たちは枯れてしまうのだ。
「ちょっと、こっちおいで」
ろくに顔も見ずドアノブに手を掛けると、強めの口調で引き止められた。
「忙しいんだけど」
「いいから」
靴は脱ぐまいと決めて小上がりに近寄ると、子どものこぶしほどはありそうな唐揚げを、ひょいと目の前に突き出された。
「え? 何?」
「何じゃないの。口開けて」
有無を言わせない箸の動きに、仕方なく唐揚げにかぶりつく。必死に咀嚼して飲み込んだ時、今まであやふやだった体の感覚が戻ってきた気がした。
「ん? うま!」
佐倉さんが満足そうに頷く。
「でしょー。昨日晩ごはんに出したら、架純に褒められた」
休憩室に漂う冷めた弁当の匂いに刺激され、空っぽの胃が主張するように声を上げた。佐倉さんが笑った。
「体は正直だねぇ」
モゴモゴと動く口を隠すついでに、手で顔を覆う。
「……だね」
「そこ端折ったら、人間じゃなくなるんだから」
佐倉さんの言葉が、ぬるりと体内に入ってきた。腕を擦り、そこに皮膚があることを確認する。
「ほら、靴脱いで、靴下脱いで。ここ何日か、休憩取らずに仕事してたの、知ってるんだからね」
言われた通り、裸足で畳の上に立つ。ひやりとした感触に、足の指でぎゅっと畳の目を掴んだ。
だけど、数日ぶりの畳は、思ったほどくつろげなかった。何というか、物足りないのだ。確かに、これが好きなはずなのに。
わたしは靴下を履き直した。佐倉さんには「今日、ちょっと冷えるよね」と笑っておいた。




