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わたしが忘れた紅い花  作者: 出原ミサ
花を植える
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21/22

ー1ー

 作業台に置かれた土作り用トレーに、赤玉土やら鹿沼土やらをザラザラ出していると、台車を引きずる音が近づいてきた。

「お疲れー、進んでる?」

 大量の培養土と共に現れた荒木さんが、片手を上げた。

「方向性が決まったところです。イメージが鮮やかなうちに作っちゃおうかと」

「そういうのって、センスだよなぁ。野菜の寄植えとかなくて良かった」

 ホームセンターのロゴ入りジャンパーのポケットに手を突っ込んで、軽く笑う。わたしは愛想笑いを差し出して、土に視線を戻した。

「ところでさ、村主《すぐり》さんのグリーンサム、威力を増してるんじゃないの?」

 ため息をついて、荒木さんの方を見る。彼は入口近くを指差し、真面目な顔で言った。

「セールコーナーにあったペチュニア、触ったでしょ」

「あぁ、しおしおだったんで。枝葉を整えて、水やっただけですけど。咲きました?」

 荒木さんは、大げさに肩を上げ、わざとらしく目を見開いてみせた。

「それがまぁ、全盛期のように大量の花をつけててさ、あっという間に売れていったよ。店長のあんな顔、初めて見た」

「それは、良かったです。売れ残りは悲しいですから」

 笑いもせずに、再び土づくりに集中する。気配は、なかなか消えてくれない。

「村主さんって、やっぱり好きなんだねぇ、園芸」

 わたしは黙々と、プランターに土を入れていく。こちらの返事も待たずに、相手は続きを喋り始める。会話って、打ち合うんじゃなかったっけ。

「俺はさ、嫌いなわけじゃないけど、毎日作業に追われて、好きでいる暇なんてないわって感じかなぁ」

 わたしはパンジーをプランターに配置して、これが最後と体ごと振り返った。

「ここにいると、元気になりません?」

「ん? 元気とは?」

 荒木さんの眉間がぐっと中央に寄る。

「植物に囲まれて土に触れてると、作業っていうより、充足感とか安心感とか湧いてきて」

「それは村主さんだけだよ」

 荒木さんは両手を頭の後ろで組んで、引きつった笑顔を見せた。

「天職なんだろうね。心から羨ましい。仕事終わって、ハァ〜ってならないでしょ」

「まぁ、最近は。荒木さんは、なるんですか?」

「普通、そうだって」

「そんなもんですか」

「そんなもんだよ」

「ところでそれ、在庫ですか?」

「ヤバ。軽トラに積み込み頼まれてたんだった」

 ギィギィと油の切れた音をさせて、台車と荒木さんは駐車場の方に去って行った。

 わたしは首をぐるぐる回して、大きく息を吐いた。スマホを取り出し、待ち受け画面の写真を覗き込む。純白の花びらに混じる、ひとつだけ真紅《まあか》の花びら。先月、家で咲いた狂い咲きの木蓮だ。

「新種でも咲かせちゃったのかな」

 色々調べたけど、こんな種類の木蓮は出てこなかった。

 待ち受けにしたのは、見ていると落ち着く色だったから。ホッとするというか、木蓮の花に馴染んでいるというか。わたしは画面を指でひと撫でして、立ち上がった。

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