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作業台に置かれた土作り用トレーに、赤玉土やら鹿沼土やらをザラザラ出していると、台車を引きずる音が近づいてきた。
「お疲れー、進んでる?」
大量の培養土と共に現れた荒木さんが、片手を上げた。
「方向性が決まったところです。イメージが鮮やかなうちに作っちゃおうかと」
「そういうのって、センスだよなぁ。野菜の寄植えとかなくて良かった」
ホームセンターのロゴ入りジャンパーのポケットに手を突っ込んで、軽く笑う。わたしは愛想笑いを差し出して、土に視線を戻した。
「ところでさ、村主さんのグリーンサム、威力を増してるんじゃないの?」
ため息をついて、荒木さんの方を見る。彼は入口近くを指差し、真面目な顔で言った。
「セールコーナーにあったペチュニア、触ったでしょ」
「あぁ、しおしおだったんで。枝葉を整えて、水やっただけですけど。咲きました?」
荒木さんは、大げさに肩を上げ、わざとらしく目を見開いてみせた。
「それがまぁ、全盛期のように大量の花をつけててさ、あっという間に売れていったよ。店長のあんな顔、初めて見た」
「それは、良かったです。売れ残りは悲しいですから」
笑いもせずに、再び土づくりに集中する。気配は、なかなか消えてくれない。
「村主さんって、やっぱり好きなんだねぇ、園芸」
わたしは黙々と、プランターに土を入れていく。こちらの返事も待たずに、相手は続きを喋り始める。会話って、打ち合うんじゃなかったっけ。
「俺はさ、嫌いなわけじゃないけど、毎日作業に追われて、好きでいる暇なんてないわって感じかなぁ」
わたしはパンジーをプランターに配置して、これが最後と体ごと振り返った。
「ここにいると、元気になりません?」
「ん? 元気とは?」
荒木さんの眉間がぐっと中央に寄る。
「植物に囲まれて土に触れてると、作業っていうより、充足感とか安心感とか湧いてきて」
「それは村主さんだけだよ」
荒木さんは両手を頭の後ろで組んで、引きつった笑顔を見せた。
「天職なんだろうね。心から羨ましい。仕事終わって、ハァ〜ってならないでしょ」
「まぁ、最近は。荒木さんは、なるんですか?」
「普通、そうだって」
「そんなもんですか」
「そんなもんだよ」
「ところでそれ、在庫ですか?」
「ヤバ。軽トラに積み込み頼まれてたんだった」
ギィギィと油の切れた音をさせて、台車と荒木さんは駐車場の方に去って行った。
わたしは首をぐるぐる回して、大きく息を吐いた。スマホを取り出し、待ち受け画面の写真を覗き込む。純白の花びらに混じる、ひとつだけ真紅の花びら。先月、家で咲いた狂い咲きの木蓮だ。
「新種でも咲かせちゃったのかな」
色々調べたけど、こんな種類の木蓮は出てこなかった。
待ち受けにしたのは、見ていると落ち着く色だったから。ホッとするというか、木蓮の花に馴染んでいるというか。わたしは画面を指でひと撫でして、立ち上がった。




