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バスを降りると、足元から虫の音が聞こえてきた。前回、ここに降り立った時は蝉が鳴いていたっけ。大型バスの後ろ姿を見えなくなるまで見送って、胸に手を当てた。お昼も食べずに職場を出てから、ずっとここが落ち着かない。
小火の後、すぐにでもお礼を言うつもりだった。だけど、一週間、二週間と過ぎてもできなかった。彼は、パタリと姿を見せなくなってしまったのだ。
バス停横の、街路樹の幹に触れる。ガサガサしていて、お世辞にも心地よい感触ではなかったけど、荒い呼吸が整っていくのが分かった。
「ありがとう」
所々黄色く紅葉した葉っぱたちが、互いをこすり合わせて音を立てた。ポンポンと幹を叩いて、道路向かいの古い平屋を見据える。そして、自分の意思で道を渡った。




