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荒木さんが腕時計をチラチラ見ながら、何度目かのため息をついた。今日のために招集されたアルバイトの子たちのお喋りが弾んでいる。仕事がないんだから、止める理由がない。
「先に倉庫の在庫出して、何とか売り場を整えておくしかないよなぁ」
「そうですね。そろそろ朝礼が始まるし」
検品場は日陰が多くて、太陽が恋しい。背中を丸めて腕をさすっていると、横顔に無遠慮な圧を感じた。
「村主さん、もしかして化粧してる?」
なぜか、秘密にしなきゃという思いが浮かんだ。
「してません」
「あ、そう。いつもと違って見えたからさ。俺にはよく分かんないわ」
悪いことはしてないのに、職務質問された気分になった。相手が佐倉さんだったら、こう簡単にはいかなかっただろう。
わたしたちはガランとした検品場を後にした。
荷物が来ない、という荒木さんの愚痴を繰り返し聞きながらシャッターを開ける。最新式の大型扇風機のそばに、入荷したての細長い苗木が置かれていた。
荒木さんに頼まれた伝言は、小火のゴタゴタで伝えられなかった。今は、入荷したことを知らせる術もない。【百日紅】と書かれたプレートを指でなでる。
「村主さん、大丈夫?」
ぼんやりしていたのが、体調不良に見えたらしい。荒木さんが、腫れ物に触るような口ぶりで聞いてきた。
「きつかったら、座ってていいよ」
あれ以来、彼はわたしの体調をちょくちょく気にかけるようになった。壊れかけていると分かっていてスイッチを入れたのは、彼だったからだろう。
「今日は昼までだったよね。午後はゆっくり休んでよ」
「大丈夫です」
腰のホルダーから取り出した水をひと息に飲んで、腕まくりをする。
「もう先月の話ですからね。必要なの運んでしまいましょう」
そう笑いかけて、ポットのびっしり並んだトレーを持ち上げた。
あの日を境に、前ほど火が怖くなくなった。強がりじゃない。ただ怯えるだけだった感情に、名前がついたからだ。
しかし、それだけでは済まなかった。
意識を失う瞬間、胸によぎった達成感のようなもの。それは、わたしの感情ではなかった。自分の中を、自分じゃないものが通り過ぎていった違和感は、夢で業火に身を焼かれたことよりも恐ろしかった。
目が覚めても消えない恐怖を打ち消すために、あえてあの日の記憶を一つずつ辿ってみた。気になるのは、迎井さんの口にした言葉だ。けれど、幾晩考えても、何も思い当たらない。唯一の糸口だというのに。
もう、一人で悶々としていたって、らちが明かない。だから、確かめに行くことにした。




