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朝礼が終わって持ち場に戻る途中、荒木さんが話しかけてきた。
「水やりの途中で朝礼に呼ばれたから、どの子まで水あげたか分かんなくなっちゃったよ」
「わたしもよくやります。今日も昼間は暑くなるって言うし。漏れなく、たっぷりお水あげておきたいですよね」
「あーあ、やっと夏が終わったと思ったのになぁ」
空に向かって放たれた声を避けて、わたしは仲良く整列したチョコレートコスモスのポットを見遣った。秋を代表するこの花がお目見えすると、毎年スタッフ間で、猛暑を乗り切った健闘を称え合う。
だけど、今年は固く握手を交わす気にはなれなかった。布を一枚纏ったような太陽が、ぼんやりと空を照らしている。
「まだまだ、こいつの出番は続くんだな」
三脚のついた、古い大型扇風機の首をぽんぽんと叩いた荒木さんに対して、ぐっと眉根を寄せた。
「これ最近、すごく動くの遅いんですよね。音もするし、つけてる意味あります?」
「意味はあるよ。風が送られるわけだし。でも、完全に壊れるまで買い換えてくれないだろう」
彼は扇風機のスイッチを入れた。案の定、ガタガタと耳障りな音を立てて、羽がゆっくり回り始める。わたしは扇風機の首を上下に調整して、音のしない絶妙な位置を探し当てた。今年の夏は、ずっとこの作業をやってきた。
慣れた仕草でコードを束ねていた荒木さんが、そうだ、と身を起こす。
「そろそろ百日紅入ってくるって。迎井さんに言っておいてよ。セール期間に入ってから、見かけないでしょ。喧嘩した?」
喧嘩なんて、できるわけない。わたしだって、あの日以来会ってないんだから。
それでいい。最初はそのつもりだったし、不眠は栄養ドリンクで対処できる。そのうち全て忘れて、元の生活に戻る。
「荒木さんが言えばいいじゃないですか」
唇を引き結ぶだけのわたしをどう思ったのかは知らないけど、彼は「それに」と、おどけたように体をくねらせてみせた。
「俺から聞いちゃったら、買ってくれないんじゃないかなぁ」
両頬をひくつかせ、荒木さんは水やりの続きをしに、野菜苗のコーナーへと去って行った。




