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わたしが忘れた紅い花  作者: 出原ミサ
くるいだす体温
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12/23

ー1ー

 朝礼が終わって持ち場に戻る途中、荒木さんが話しかけてきた。

「水やりの途中で朝礼に呼ばれたから、どの子まで水あげたか分かんなくなっちゃったよ」

「わたしもよくやります。今日も昼間は暑くなるって言うし。漏れなく、たっぷりお水あげておきたいですよね」

「あーあ、やっと夏が終わったと思ったのになぁ」

 空に向かって放たれた声を避けて、わたしは仲良く整列したチョコレートコスモスのポットを見遣った。秋を代表するこの花がお目見えすると、毎年スタッフ間で、猛暑を乗り切った健闘を称え合う。

 だけど、今年は固く握手を交わす気にはなれなかった。布を一枚纏ったような太陽が、ぼんやりと空を照らしている。

「まだまだ、こいつの出番は続くんだな」

 三脚のついた、古い大型扇風機の首をぽんぽんと叩いた荒木さんに対して、ぐっと眉根を寄せた。

「これ最近、すごく動くの遅いんですよね。音もするし、つけてる意味あります?」

「意味はあるよ。風が送られるわけだし。でも、完全に壊れるまで買い換えてくれないだろう」

 彼は扇風機のスイッチを入れた。案の定、ガタガタと耳障りな音を立てて、羽がゆっくり回り始める。わたしは扇風機の首を上下に調整して、音のしない絶妙な位置を探し当てた。今年の夏は、ずっとこの作業をやってきた。

 慣れた仕草でコードを束ねていた荒木さんが、そうだ、と身を起こす。

「そろそろ百日紅《ひゃくじつこう》入ってくるって。迎井《むかい》さんに言っておいてよ。セール期間に入ってから、見かけないでしょ。喧嘩した?」

 喧嘩なんて、できるわけない。わたしだって、あの日以来会ってないんだから。

 それでいい。最初はそのつもりだったし、不眠は栄養ドリンクで対処できる。そのうち全て忘れて、元の生活に戻る。

「荒木さんが言えばいいじゃないですか」

 唇を引き結ぶだけのわたしをどう思ったのかは知らないけど、彼は「それに」と、おどけたように体をくねらせてみせた。

「俺から聞いちゃったら、買ってくれないんじゃないかなぁ」

 両頬をひくつかせ、荒木さんは水やりの続きをしに、野菜苗のコーナーへと去って行った。

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