第74話 狂演
「透。今回は特別に私の命を賭けてあげよう」
黒瀬は笑みを浮かべ、机から一本のメスを持つ。メスを自身の首に当て、スッと動かす。首筋に血が垂れる。メスについた血を舐めながら恍惚な表情を浮かべる。
「兄弟愛…やはり愛は美しい」
「狂ってる…」
全員の目線が、狂気的な黒瀬からモニターへ移る。
——「くっ!硬い」
カナが斬れば斬るほど赤刀は硬さを増していく。枝を叩き斬るのもどんどん難しくなっていく。
「ガ…ガ」
一輝は言葉も話せていない。居合を何度撃とうと赤刀に阻まれる。そして、反撃がくる。何度もそれを繰り返し、徐々にカナは攻め手を失っている。
「このままでは…」
突如、一輝の身体から生えている赤刀が、剥がれ落ちる。
「グァァッ!」
悲痛な叫びと共に、ボロボロと赤刀が剥がれていく。
「どうして…」
そして、全ての赤刀が剥がれ、ボロボロの体の一輝がなんとか立っている。立っているのもやっとの様子だった。
「一輝…楽にしてやる」
何度も能力を酷使、そして死後、スペス回路を使い、より強い能力を発動し続けた一輝の身体はもはや限界を通り越していた。自我を失い、能力に飲まれ、鍛え上げられた身体を、死後動かし続けた結果だった。
カナは一輝を抱きしめる。一輝は意識のないまま、カナを刺そうと腕を動かすが、手から赤刀は出ない。カナは涙を流しながら、一輝を抱きしめる。自然と一輝は動きを止め、倒れる。
一輝がその場へ倒れ込むのを支え、カナも膝から崩れ落ちる。そして、一輝を膝に寝かせて、頭を撫でる。
「おやすみ。一輝」
——モニターの先では、黒瀬が涙を流して叫ぶ。
「あぁ。ソルス…私の研究対象が…」
俺はこの状況でも研究にしか興味のない黒瀬に呆れて、言葉も出なかった。
「なぜ斬り合わないんだ…兄弟の殺し合いが観たかったのに…」
「カナはお前の思い通りにはならない。きちんと弟として一輝を見ていたからな」
黒瀬はつまらなさそうな顔をして、
「そういえば賭けは透の勝ちだ。約束通り、命をあげよう」
そう言い、メスで自分の喉を掻っ切る。首から、大量の血を噴き出しながら、黒瀬は笑顔のまま倒れる。
倒れた黒瀬に近づく…喉を見ると、まだ血が出ていた。そして、脈を確認しようとした瞬間、黒瀬の手が俺の手を掴もうとした。目のおかげで咄嗟に身体を引き、躱したが、俺は少し動揺していた。
「確実に致死量の血を流したはず…」
ゆっくりと起き上がる黒瀬。そして首筋に手を当てて離すと傷跡は無くなっていた。
「びっくりしたかい?透。私はそう簡単には死なないんだよ」
黒瀬は手を叩きながら笑っている。
「そもそも私を殺すことなんて不可能なんだから!」
「どういうことだ」
「まぁ、落ち着いて…後々話すとするよ!」
「まずはオーディエンス達に私の過去を知ってもらわないとね!透…勝手に動いたりしたらお前の仲間がどうなるか分かってるよな?」
それぞれの透明なケースを指差しながら、俺を見る黒瀬。
鷹見さんもまた、別のケースの中で静かにこちらを見ていた。
その表情には、焦りと怒りが滲んでいる。
俺はその場に留まり、黒瀬の話を聞く。
「素直でよろしい。エゴ、彼女もここに連れてきなさい」
「はい。」
エゴは空間に入り、そしてカナを俺の横に連れてきた。カナは驚きながら、俺の顔を見て、涙を浮かべたが、黒瀬を見てすぐに刀を構える。
「黒瀬ぇ!!!」
カナは居合を構えるが、エゴの壁に囲まれ、能力を封じられ、刀を維持できなくなる。
「これは…クソ!黒瀬!!!」
壁を殴り、壊そうとするがびくともしていない。手から血が出るほど殴り、へたりと、壁の中で地面に座る。
「さて…みんな揃ったようだね。そしたら第二幕の開演と行こうじゃないか!」
黒瀬宗一郎は両手を広げ、まるで舞台俳優のように語り始めた。




