第71話 兄と友
「終わらせよう。兄貴」
真の手に白雷が握られる。本来白雷は真の寿命を消費する。しかし、ひよりの指輪を媒体に託された力を使っている。
ひよりの能力は二つ。フィールド内外での、治癒効果。そして、生命エネルギーの譲渡。後者は蘇生、四肢再生を行う時に可能となる。蘇生により自身の生命エネルギーの全てを真に託した。その媒体として指輪が選ばれたのだ。
「真…何故作られた通りに動かない?お前は私の横で私の邪魔を排除する為に作られたのに」
「うるせえ。俺は俺だ。作られた目的なんてしらねえ。今やるべきことをやるんだよ」
「仕方ない。ブラックホール」
インヴィクの手のひらに黒い球が現れる。手のひらを真に向け、出現させたブラックホールを真に放つ。
「さよならだ。真」
ブラックホールは真の手前で止まる。黒い球からとてつもない引力が発せられ、周囲のものを巻き込む。
真は白雷を宙に放つ。轟音と共に空から雷の柱が五本立つ。白雷の柱は真と、背後にいる朧とひよりを囲み、ブラックホールの引力を無効化する。
「その状態でいつまでもつかな!」
ブラックホールの出力を上げるインヴィク
白雷の柱は少しずつブラックホールにより、揺れ始める。
「兄貴。最後に聞かせてくれ。俺を本当の家族だと思ってたのか?」
「なんだと?家族?お前が?そんなわけがないだろう!市井家では俺が全てだ!お前は同じように作られただけの存在だろう!さっさと言うことを聞け!真!」
インヴィクの形相は今までのものとは違い、焦燥、嘲笑を含む、人間として最も醜い姿だ。
真は最後のインヴィクの言葉を聞き、安堵する。
「やはりクズは死ぬべきだ」
真は目の前に白雷と黒雷の球を出現させる。二つを混ぜあわせる。色は混ざり合わない白と黒が半分ずつ混ざり合った球になる。それをインヴィクに向けて放つ。
インヴィクに向かう白黒の球は、まずブラックホールに当たる。白雷がブラックホールを抑え込み、黒雷が呑み込む。耳を劈くような音と共に球はその大きさを増す。そして、ブラックホールを呑み込んだ後、インヴィクに向かう。
「なんだこれは!真!どうなっている!フィフス!ゼロ!」
インヴィクは重量を操作するが球は止まらない。ドームを球に付けるが一瞬で呑み込まれ、大きくなる。インヴィクの目の前に来た時にはほぼ身長と変わらない大きさになっていた。
インヴィクは足掻きながら、もう一度ブラックホールを作るがもはや、時間稼ぎにすらならない。なすすべなく立ち尽くすインヴィク。
「真!私は兄だぞ!お前の…」
インヴィクの最後の言葉すらも白黒雷に呑まれる。対象を呑み込んだ白黒雷は自然に小さくなり、やがて消える。
「真様…」
重症だった朧はひよりからの、回復の液体を使って元に戻り、ひよりを全てから守っていた。
「朧、ご苦労だった。まだいけるか?」
「もちろんでございます」
「バカ弟子を探して守ってやれ。頼んだぞ」
「御意」
朧はすぐさま次の命に従う。
真は倒れるひよりの元へ向かう。
左薬指の指輪が微かに温かかった。
まるで、まだそこにいると言うように。
ひよりを抱き上げ、その場を立ち去る。その目にはもはや涙は枯れていた。
——無数のデモンのような個体。それが何体も群がる。
あまりの怒りで、握り込んだ拳から血が滴れる。かつては戦い、そして、認め合ったデモンがこのようになっていることに、鬼塚は怒りを隠せない。
「コロス」
クローン達はただひたすらに目の前の者を殺戮、破壊することを指示されている。黒瀬宗一郎ことデウスは人工的にスペス回路を開く為に、クローンという道を選んだ。その成功例がエゴである。ここにいるデウス擬きや、他の者は全てが失敗作であり、自我がおかしい者、能力が不十分である者などがいる。そして、このクローン達は一時間の生命活動限界がある。その為いざという時のために保管されていたのである。
「なんでこんな…こんな事が出来るんだ!黒瀬!」
鬼塚は白銀の鬣を逆立て、臨戦体制に入る。クローンの群れに向かい猛進する。まずはデモン擬きに突っ込む。デモン擬き達はそれぞれが攻撃し、連携もクソもない。鬼塚は一体ずつ対処していく。クローンではあるが膂力はデモンに近しく、掠るたびに小傷になる。デモン擬きは能力を使おうとするがダメージに対し、黒いモヤが小さく、反撃も本物に比べると、あまりにも弱い。
デモン擬き達は半数を戦闘不能にされると、徐々に距離を取り始める。そして、エゴ擬きが横から硬化した爪で襲ってくる。数十本の爪を鬼塚は拳を横に薙ぐたびに、砕いていく。爪に対処している時にデモン擬き達は突進して鬼塚の動きを止めにくる。すぐさま白銀の獣と化し、全てを躱し、掻い潜って下がる。
「キリがないな」
戦闘不能にさせた、デモン擬きは数十体。その奥から同じ量のデモン擬き達が現れる。エゴ擬きに、他にもレクトルの構成員だったような者達がいる。
ここで、鬼塚は気付く。
「こいつら、全員意識が…ない?」
よく見ると最初の一体以外は目も半開きで呻き声を上げている。何かがおかしいと思った鬼塚は、部屋で一番高いところに登る。
そうすると群達の奥に、異様に厳重に作られた扉を見つける。
「そこか!」
獣状態で駆け、扉の前に立つ。扉は閉まっており、全力でも開く気配がない。鬼塚は獣から鬼に変化し、全力で扉をこじ開ける。メキメキと音を立てて扉をめくるように開ける。
「ひ、ひええええ」
そこには痩せ細った体に、こけた頬、メガネを掛け髪はボサボサの薄汚い男が、パソコンの前に座っている。パソコンの画面にはデモン達の視界が複数映っている。
「お前だったのか」
鬼塚は怒りを露わにし、男に近づく。
「や、やめて!来ないでください!」
男はパソコンを触りながら、叫ぶ。背後からクローン達が攻撃をするが、鬼塚は振り向かない。背中に傷をつけられようが、今目の前にいるクソ野郎をぶちのめすことしか頭にないからだ。
「う、うわぁぁぁぁ」
パソコンから離れるが部屋が小さいため、すぐに角にくる。
「おい。あいつらを解放しろ」
「ぼ、僕は命令されただけなんだ……黒瀬博士に……」
鬼の形相に男は泣きながら、その場にへたり込み、失禁し、意識を失う。
「なんだったんだこいつは」
男が意識を失うと同時にクローン達は活動をやめる。唯一、最初のデモン擬きだけが、鬼塚の元へ来て、一言漏らした。
「あ…り…がと」
そして、その場に倒れこむ、それを鬼塚が支える。
「当たり前だろ。友よ」
鬼塚は能力を解除し、デモン擬きを地面に寝かせ、先ほどの男へ手錠をかけ、柱にくくりつける。
「みんなは無事なのか」
鬼塚は公安の仲間を探しにその場を後にする。




