第70話 鳴神真
真は周りを見渡す。目の前に兄であるインヴィク、背後には朧。そして、少し離れた箇所にひよりが仰向けに寝ている。インヴィクから離れ、朧を連れ、ひよりの元へ。
「…大馬鹿野郎が…」
ひよりの額へ、一粒の水滴が真から零れ落ちた。反転し、インヴィクへ向かう。瀕死の朧に
「もう大丈夫だ。朧。あとは俺がやる」
そう言いながら、赤雷を纏う。
「真。なんで帰ってきてしまったんだ。また私はお前を殺さなければならないじゃないか」
インヴィクの言葉には、何も返さない。赤雷を纏った真が突っ込む。
「そのまま来るとはな。フィフス」
見えない重力が真を襲う。
「白雷」
真の指輪が光り、純白の雷が真を包む。
インヴィクの重力が真のいる場所以外を潰す。
「なに!?」
重力操作の対象にならないことに、驚きを隠せないインヴィク。
「なんなんだその雷は!」
「ひよりから託されたもんだ」
真はひよりに治療されている時のことを思い出す。
——最後にひよりの告白を聞き、俺の意識は途絶えた。浮かび上がるのは過去の自分。横にはひよりがいたような気がした。
真が幼い頃、市井真だった時。真は戦うこと以外に興味がなかった。何故自分が戦いを求めているのかわからなかった。朧に会ってからも朧と毎日戦うことで自分が強くなることが嬉しかった。
そんなある日、当主である父からこんな知らせを受ける。
「真。お前の母は死んだ」
「え?」
そんなことを言われても母など見たこともない。幼い頃から市井家にいたが、父と乳母に育てられた。なのでなんの興味も湧かなかった。その際に父から手紙を一通もらった。母からだという、その手紙を読んだ。
内容はシンプルだった。母から残せるものはない。市井家で立派に生きてとそんな内容だった。すぐに興味を失ったが、自分にも母がいたのだなと考え、すぐに修行をする。
それからしばらくした後、兄から呼び出される。兄は少し真剣な表情でこちらを見ていた。兄は昔からなんでもできて、完璧な人間だった。弟の真にも優しく、世間からは最高のニ代目と呼ばれていた。そんな兄から手紙を渡される。父から貰ったものとほぼ同じだった。
真は二人から同じものを渡され、困惑していた。二人から真の母は金のために真を産み、そして金を受け取り、捨てたと聞かされていたので、興味もなかったが気になったため、朧に情報を収集させる。報告を受け衝撃を受ける。
真の母の名は鳴神未来遺伝子研究の研究家だった。未来は遺伝子操作を主に研究しており、そこに興味を持った市井家が、話を持ちかけていた。二人の子供を遺伝子操作にて出産する。一人は誠。二人目は真。誠は全てにおいて完璧に。真は戦闘に特化した駒として、作られた。正確には誠と真の母は別だ。しかし同じ研究所で産まれた為、兄弟としている。
その研究所は二人が産まれたのち、研究所は解体され、この遺伝子操作のデータを完全にこの世から消し去られた。
衝撃の事実に頭が混乱した。そして朧から、真の母未来からの本当の手紙を渡される。
——真へ。
あなたを産んだことに後悔はないわ。市井家はあなたをどうにかして取り込もうとするでしょう。でも、そんなのには従わなくていいの。私が真と名づけたように真にしか出来ない、真だから出来ることがあるわ。あなたは戦うために産まれたんじゃない。
自分のために、自分の名前で生きて。真。
母の手紙を受け取り、自分が何故今まで、戦闘以外に興味が湧かないのか。市井家で次男というポジションで自由にされていたのか分かった。父と誠の当主争いに、自分が巻き込まれていたのだと知った。もううんざりだった。
その夜、誠の部屋を訪れた真。
「どうしたんだ、何かあったか?」
心配そうな表情を浮かべる誠
「兄貴、そんなに俺の力がいるのか」
「ああ。お前が居てくれると助かる」
誠の嬉しそうな表情を見て、前までの自分ならここでなんとなく力になると言っていたなと思う。
「俺の母さんは死んだんだよな」
誠は少し間を置き、
「ああ。残念だよ」
と悲しそうな表情を浮かべる。
「俺の母さん。鳴神未来は死んだんだな」
俺の言葉にこちらを見て、驚きの表情を浮かべる誠。
「やっぱりそうか。騙してたんだな。この家自体が俺を」
驚きの表情から誠は不気味な笑みを浮かべる。
「クックック。まさか戦闘しか出来ないのにそこまで調べるなんてな。やるじゃないか真」
「そうだ。お前の母である鳴神未来は市井家の邪魔になりうる。なので消させてもらった」
「そうか…」
兄からの言葉に真はその場にあった椅子に深く腰掛けた。
「お前は私の弟だ。二人で父を失脚させ、この全てを手に入れよう!お前は私の隣にいるために作られたのだ!お前の力は私のものなんだよ!真!」
真は上を向き、目を瞑る。市井家で過ごした時間。記憶のない母の手紙。そして、今からのことを。
椅子からゆっくりと立ち上がり、真からの返答を待つ誠の元へ近づく。
「兄貴。お断りだ。俺は俺で生きる。鳴神真としてな」
こちらに差し出していた手を弾き、部屋を出て行こうとする。
「待て、真。何が欲しい。私ならなんでもあげられるぞ」
「クソ兄貴。お前は俺の母さんを消したんだろ。今この瞬間は許してやるよ。兄貴だからな。だが、次また俺に会いにきたら、その時は容赦しない」
そう言い残し、真は部屋を出ていく。
部屋で一人残る誠は、影に命令を下す。真を殺せと。
「ずっと一人で抱えてたんだね」
走馬灯のようなものから意識が帰ってきた真は、真っ白い何もない空間にいた。横にはひよりがいる。
「ああ。俺は造られた人間だったからな」
「それでも真くんは真くんだよ」
「ひより…俺に能力を使ったのか…」
「うん!真くんを助けたかったから」
「勝手なことしやがって」
「……でも、助かった」
「ふふ。こんな素直な真くん初めてだね!」
「お前…」
「ありがとう!真くん!ここからは真くんに任せるね!」
「ひより…」
真はひよりへ抱擁をする。
「今まで気付いてたのに、遅くなってすまなかった」
ひよりは涙を流す。
「本当に…遅すぎるよ…ばか」
ひよりの指先から少しずつ光となって消えていく。
真はその手を強く握った。
「ありがとう。真くん」
真は抱きしめ、ひよりへ口付けを交わす。
白い空間から完全にひよりが消える。
真は拳を握りしめる。その中に温もりを感じる。そこにはひよりがつけていた、指輪があった。真はその指輪を自身の左薬指にはめる。
左薬指の指輪が淡く光る。
真は拳を握った。
「ずっと一緒だ。ひより」
真は意識を今に戻し、拳を握りしめる。呼応するように指輪は輝く。
「終わらせよう。兄貴」
「後悔させてやろう!真!」
二人は再び相まみえる。




