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第69話 生きて

「真くん!」

真は全身に火傷を負い呼吸をしていない。

様々な傷を治してきたひよりは、真の最期が近づいているのを悟る。


「朧さん…今すぐ真くんを治療しないと…」


二人の前に立つ朧は前を向いたまま


「私が時間を稼ぎます。真様をよろしくお願いします」


そう言い、インヴィクへ駆け出す。


「おいおい…今の私に朧はやりすぎだろう。影」

「御意」


声と共にインヴィクの影から人が出てくる。かつて朧が戦った影ではない。影の技を継いだ次の影だ。


「やはり…途絶えてませんか」


両者の忍者刀が火花を散らす。


「私は影心(えいしん)だ。先代とは違うぞ。朧」


高速で移動しながら影心は朧に向けて言う。その一言で朧は父と兄、二人の技を継ぐ者だと認識を改める。


「影…私が回復するまでに朧を殺しておけよ」

「御意」


インヴィクはドームで全身を包み、回復を図る。

朧は影心を無視し、苦無をインヴィクへ向けて放つ。全ての苦無が影から現れた手裏剣に落とされる。


「朧。ここで死んでもらう」

「影心…」


現代の忍による戦いが始まった。


「真くん…私が治すからね!」


真を膝に寝かせ能力をフルに発動する。

ひよりの能力には限度がある。基本的な治癒は欠損以外の全てを治せる。傷の大きさにより時間はかかるが、1時間が限度だ。一日に治せる量も三〜五回となっている。

欠損に関しては欠損してから10分以内かつ欠損箇所の一部があれば、完治することも可能である。しかし欠損などを治す場合は、ひより自身が欠損時の痛覚を味わうことになる。

そして、死亡またはそれに準ずる重症の場合は、5分以内であれば蘇生、治療が可能である。


まさに今がその時。ひよりは真へ能力を使う。

「…やめ…ろ」

真が消えるような声でひよりへ言う。

「やめないよ。真くん。私、あなたに生きててほしいの」

ひよりの瞳から涙が溢れ落ちる。

「ひ…よ」

真はひよりの名を呼び、意識を失う。心臓の鼓動が止まる。


「生きて。真くん。大好きだよ」


ひよりの身体から何かが抜けていく感覚がした。

それでも彼女は能力を止めなかった。


白い光が二人を包み込む。


真は鼓動が止まる直前に、ひよりを止めようとした。死にかけの自分に能力を使うということが、何を意味するか知っていたからである。


「なんだあれは!朧」

「お答えすることは何もありません」


影心は自身の影を操り、影の棘、手裏剣、苦無を作り出し、朧へ放つ。

朧は自身へ当たるものを波で逸らす。作り出している無防備な影心へ、崩拳を放つ。直撃したが、影心は自分の影の分身を咄嗟に作り、崩拳から逃れる。


心影崩流はそれぞれの文字に応じた流派に、分かれている。朧は、心と影の技を使えない。逆も然りである。技を知っていても使えないのである。なので目の前の影心が二つの名を冠していることに、違和感を覚えている。


「やはり、最高傑作は伊達ではないな」


影心は自身の左胸に手を当てる。


「心陽。影月。」


影、心の奥義を同時に放つ。影心は四人へ増える。実体のない分身だが、こちらからは見分けがつかない。影心の心臓の鼓動が大きくなり、こちらにまで聞こえるほどになる。顔は少し紅潮し、血管が浮き上がる。


「行くぞ」


四体の影心は忍者刀を構え、一瞬で朧へ迫る。朧は攻撃をギリギリまで見極めて、三体の攻撃を止めるように動く。二体は分身、一体の攻撃が止まる。そのまま鍔迫り合いになるが、影心の力が強力すぎて、徐々に押される。そのまま吹き飛ばされ、腹に蹴りを喰らう。


「ぐはっ!」

「こんなものか!最高傑作の朧よ!」


再び分身し、攻撃を仕掛ける。四対に加え、影での攻撃も加わる。朧は目を瞑り、右手で小さく印を結ぶ。


「朧」


影心の攻撃全てが朧をすり抜ける。

そのまま何度も攻撃を繰り返すが、朧には当たらない。朧とは、心眼に無意識を反射を合わせ、全ての攻撃を躱す、霞の如き技だ。攻撃時は意識を切り替えなくてはならないため、扱いが非常に難しい。


「これが、完成された朧か」


影心は攻撃の手を止めない。止まることのない影が朧に迫るが、朧には何一つ当たらない。


「はぁはぁ。影月と心陽、それに能力まで使っても当たらないだと…」


攻撃が一時的に止まる。朧はその瞬間を逃すほど甘くはない。攻撃へ意識を変え、影心の心臓を狙う。忍者刀が影心へ刺さる。少し安堵した瞬間、朧の背中にに衝撃が走る。


「かかったな」


刺したはずの影心は消え、背後に現れた。そして無防備な背中を忍者刀で斬りつける。咄嗟に朧を発動するが時すでに遅し、忍者刀は朧の背中を、肩から腰にかけて斬る。


「ぐはっ!」


朧は吐血し、片手と片膝を地面につく。その背後には再び忍者刀が振り下ろされる。


「死ね!朧」


忍者刀はすり抜けた。霞のように揺れる朧を。


「ギリギリで間に合ったか、しかし長くは持つまい」


影心は朧から距離を取り、苦無や手裏剣による遠距離での攻撃を続ける。朧は全てをすり抜ける。それでも影心は攻撃の手を緩めない。

朧は消えそうな意識を強く保ち、自身を戒める。

(焦りましたね。こんな事では真様に笑われてしまいます)

朧は、顔を隠していた黒ずくめの布を取る。黒の短髪に、きりりとした目、長いまつ毛は女性をも彷彿とされる。


「朧!今更何をしても無駄だ!お前の傷は深い」


影心は初めて見た朧の顔に一瞬、驚くが間髪入れず影で攻撃をする。相手は重症。長引けば勝てる。その油断が朧へ機を与える。


朧は能力を得てから、たった一度しか使っていない。目を合わせるだけで、相手の意識に、命令を流し込む技。強すぎるが故に反動が大きく、真に禁術とされていた。影心の隙が見えたその瞬間だった。

朧は技を解くことなく、真っ直ぐに影心を見る。影心と朧の瞳が見つめ合う。


ピタリと、攻撃が止む。


「死んでください」


朧が一言放つ。

ゆっくりと影心の忍者刀が影心の首元へ向かう。


「分かった」


影心の忍者刀が自身の首を刎ね飛ばす。


血飛沫を上げながら影心は崩れ落ちた。


「はぁはぁはぁ。ゔっ。」


朧は両手で目を抑える。両目から出血し、頭に激痛が走る。悶えるほどの激痛を耐え抜き、目を見開き奥にいるインヴィクへ視線をやる。


「あなたも…私が」

「舐められたものだな。フィフス」


朧の身体に、通常の何倍もの重力がのしかかる。

インヴィクの技、フィフス。

その重みが、傷だらけの朧を地面へ縫い付けた。

身動きが一切取れない。

黒い鱗が剥がれるように、インヴィクのドームが身体から剥がれる。


「ぐ。」

「お前をやったら次はあの女と真だ。」


インヴィクは黒弾を出現させ、朧へ放つ。


「ひより様、真様を…よろしくお願いします」


——鼓膜が破れるほどの轟音が鳴り響く。


朧が目を開けるとそこには主の姿が。


「真…さま。」


「どいつもこいつも、勝手しやがって…」


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