第63話 忠義
(私より強いですね…)
鷹見は目の前の男を見てそう思う。
[Spes]が生まれてからたくさんの人間を見てきたが一目見ただけで敵わないと思う人もたくさん見てきた。
真や、豪さんのような人だ。
目の前の細身の男もそちらの部類だ。
「来ないのですか?」
レイピアを構え、こちらへ尋ねてくる。
「貴方とはお話がしたいのですがね…」
そう答え、スプレッドしているカードを手に取る。
♤10
火、風、水の竜巻が轟音をあげ出現する。
それぞれの竜巻が天樹の元へ向かう。
「多属性。初めて見ましたね」
ポツリとそう言いながら竜巻に向かい猛進する。
風、火、水の順番で正面から突破される。
まるで意に介さないようだ。
鷹見は本能的に近接を避ける。
♤4
ボーリング球ほどの火球が現れる。
♧8
火球が大きさはそのままで四つに分裂する。
2つは真っ直ぐに、残りは弧を描き左右から天樹へ向かう。
「カードにより、能力が変わるんですね…不思議だ」
火球はいとも簡単にレイピアにより斬り裂かれる。
「こちらから行きますよ」
天樹が一歩踏み込む。
とてつもない速さの刺突。
♡10
慌ててカードを取り、身体強化を選択する。
カードが身体に溶け込み、腰につけているレイピア式の特殊警棒で天樹の刺突を弾く。
「身体能力の向上も可能なんですね」
再びレイピアで五月雨の如き、突きを浴びせる。
「クッ!」
なんとか突きを弾く、鷹見の顔と身体に小傷がつく。
「ここまで強い貴方が今まで出てこなかったのはなぜですか?」
「私はレクトルの一員ではありません。主に仕える使用人です」
ここで鷹見は皇邸でのやり取りを思い出す。
「成十郎さん、あの二人をこっちから潰すのは出来ないのでしょうか」
鬼塚が皇に軽く問いかける。
「そうだな…私もそうしてやりたいのだが、金剛寺と久我山には君や玄武と並ぶ、実力者が着いているらしい。あの二人にそこまでの人物を従える力量があるとは思えんがな…」
「俺と玄武と…それを潰すとなると、こちらの影響も計り知れないですね…」
「豪さん。我々はレクトルを潰すのが目的とはいえ、一個人を襲うのはいけませんよ」
「おっと、そうだったな。今の話は無しでお願いします」
ハッハッハッハ!
——そんな話をしたような…
もしかすると、この人は二人の護衛……?
試してみますか…。
「貴方の主とは金剛寺と久我山ですか?」
ぴくりと眉が動く。
「答える理由はありません」
「そうですか…」
鷹見はその反応で確信に変わる。
そこからは一方的な展開が続く。
天樹の鋭い猛攻をカードを駆使しなんとか防ぐ。
鷹見のカードにはルールがある。
♤は元素系能力の具現化
♡は一時的な身体能力の向上
♢は結界系能力
♧は行動の運を向上させる
それぞれを組み合わせて戦っている。
例外として各カードのAは特殊に振り分けられている。
そしてスプレッドされてるカードから任意のカードを引くことは出来るが、任意の場合は能力が少し落ちる。
さらに五枚のカードを引くと、一度ホルダーに仕舞われ、もう一度スプレッドしなければならない。
一方で天樹の能力は至極単純な身体能力強化。
レイピアをランス、重鎧に変質する能力である。
鷹見は自身の最も苦手とする相手であると認識している。
「粘りますね」
♢10で作った結界も当然の如く斬り裂かれる。
四枚目のカードを突破され引けるのは後一枚。
天樹が踏み込む。
鷹見が引いたカードは
♡A
Aは自力で引くと能力が変わる。
♡Aは身体能力の超向上と、任意の限界突破が可能になる。
鷹見のカードはホルダーに戻る。
向かってくる刺突を警棒で弾き、身体能力を限界突破させる。
防戦一方だった鷹見の警棒は天樹の身体を突く。
「それが本物のレイピアなら私は重症でしたね」
突かれた場所を抑えながら天樹が言う。
「私は殺しは専門外ですので」
(Aが続く間に攻めきる!)
鷹見は再びスプレッドを始めたカードを一気に引く。
♧A Q K
♤2
♢4
鷹見の警棒がレイピアに変わり、現れた火玉を飲み込み、炎を纏う。反対の手には結界が何重にも重なった盾を持つ。
「それが本気ということですね、ならばこちらもお応えしましょう」
レイピアはランスへ姿を変え、使用人の服から重々しい鎧になる。
お互いが構え静寂が訪れる。
近くで鋼が激しくぶつかる音がする。
それをきっかけに二人は前へ踏み込む。
鷹見は少ない助走から想像できない速さのランスを、結界の盾で防ぎ角度を逸らそうとする。
盾は触れた瞬間に割れ、角度すら逸らせない。
身体を捻りながら、レイピアで天樹を突く。
レイピアは天樹の鎧に当たる。
その瞬間高電圧が天樹を襲う。
「この鎧は何も通しませんよ」
高電圧を浴びる鎧の中、天樹は平然とした顔でこちらを見る。
鷹見の能力が切れ、♡Aの反動により、ドッと身体が重くなる。レイピアは警棒に戻り、カードもホルダーだ。
「万事休すですね」
鷹見は笑う。自身のあっけない最後に。
プルルルルルル。
プルルルルルル。
この場にそぐわない携帯の音。
天樹は能力を解き、慌てて電話に出る。
「はい。どうされましたか」
「天樹!天樹助けてくれぇ!!」
「どうなされたのですか」
「皇が直接…うわ!!」
「お前が天樹か?お前の主人はこちらで確保した。レクトルへの協力をやめろ。さもなくば、二人は二度と表社会には戻れない」
「な…」
天樹は膝から崩れ落ちる。
鷹見は、ようやく息を吐いた。
待っていた一手が、間に合った。
「電話は金剛寺ですか?それとも久我山でしょうか?」
鷹見にそう言われ、天樹は全てを理解した。
「貴方の差金ですか?」
「あれは皇様自身の行動ですよ。少し情報提供はさせていただきましたが…」
天樹は奥歯を噛み締める。
「私が二人についていれば…」
「私としてもそうして欲しかったですよ。貴方の相手は私では荷が重すぎる」
「私はこの瞬間をもちましてレクトルを離れ、主の救出に向かいますので、失礼します」
スタスタと足早にその場を去る天樹。
ふぅ、と息をついた瞬間、膝がわずかに笑った。
それでも鷹見は眼鏡を押し上げ、近くで戦っていたカナの方へ向かう。




