第62話 最後の願い
——剣士達は舞うように戦う。
居合を使わずに戦う2人。
使わずというよりソルスは使えずにいた。
以前の戦闘で居合はカナの方が一枚上手と確信しているからである。
「居合じゃなきゃこんなもんか?カナ!」
赤刀を振るいカナへ煽りを入れるソルス。
「この程度で…私は斬れないぞ!」
赤刀は袈裟、逆袈裟、刺突、回転、上段からの振り下ろしと、乱雑に、しかし速い攻めが繰り広げられる。
その全てをカナの刀が防ぐ。
猛攻に防戦一方のカナ。
「これならどうだ!」
赤刀を地面に突き刺す。
地面から広範囲に枝のように生え広がってくる。
カナは跳躍し後方へ躱す。
それを追いかけるように枝はカナへ迫る。
カナは枝を叩っ斬る。
「ここだ!」
枝に集中している隙にソルスはカナの背後にいた。
「チッ!」
背後からの斬り付けに身体を逸らし躱すが切っ先がわずかに腕に当たる。
「キタキタっ!」
腕から血は出ないがおそらく斬られている。
カナの身体がほんの少し重くなる。
ほんの少しの血のはずが近しい血縁の為かソルスの能力の向上は凄まじかった。
「オラオラオラ!」
先ほどよりも速く重い猛攻がカナを襲う。
しかしそのどれもカナには届かない。
「どうなってやがる。ここまで差は無かったはずだ」
ソルスは本心から言葉が漏れる。
「修行の差だ。一輝。しっかり刀を振っていたのか?」
「黙れ!」
カナに煽られカッとなるソルス。
血剣に呑まれて、最初の頃は一輝の自我も含まれていたがもはや血剣の自我しか残っていない。
カナを守りたい一輝の気持ちなどないに等しいのだ。
「お望み通り居合でやってやろうじゃねぇか!」
赤刀を鞘に仕舞い、ニヤリと笑うソルス。
「何を企んでいるか知らんが通用せんぞ」
同じくカナも刀を鞘に収める。
居合遣い同士の間合い。
同じ霧島流居合術。
カナは微動だにしない。後の先である。
「いくぜ」
先にソルスの赤刀が抜かれる。
先ほどまでの乱雑な太刀筋ではなく、美しく、磨き抜かれた一閃であった。
もはや弾丸も斬り落とせそうな速さの太刀にカナの白刃が迎え打つ。
ガキンッ!
凄まじい音と共に鋼同士が強く当たり、火花が散る。
赤刀もカナの刀も折れずそのまま鍔迫り合いになる。
「この程度だったか?罪も」
「一輝…」
お互いの息がかかりそうなほどの、近さだ。
ソルスは深層心理に閉じ込めている、一輝がカナの呼び掛けに少し反応したのを感じ取る。
「クソが!」
一気に後方へ跳躍し距離を取る。
近づけば近づくほど一輝が反応してしまう。
だが自分の遠距離の攻撃などカナに防がれてしまう。
手詰まりとなりつつある、ソルス。
「一輝!戻ってこい!」
「まだ言ってんのか!女!」
カナは居合を構えたままである。
ソルスは苛立ちを隠せない。
頭に血が上り、カナの間合いの中へ不意に立ち入る。
ソルスに向けカナの居合が飛ぶ。
速さは目で見えないほど、速く、美しく、鋭い。
ソルスの腹部が大きく切れる。
「グワっ!!!」
血がぼたぼたと垂れ、致命傷は避けたがかなりの重症だ。
「はぁはぁ。痛い。痛いよ…姉さん」
腹を抑え、地面にうずくまるソルス。
「一輝!大丈夫か!」
ソルスの元へ駆け寄ろうとするカナ。
ソルスの間合いへ入るその瞬間。
赤刀の刺突がカナへ迫る。
「何度も!」
刺突を弾く!
「同じ手は食わん!」
そのまま刀をソルスの首へ向ける。
「血剣。一輝を返せ。」
「ハハハ!返さなければどうすると言うんだ?殺せるのか?俺を!この身体を!」
「霧島家としてこれ以上その身体を好き勝手やってもらっては困る…どうしても一輝が戻れないなら…討つ。」
ゴクリ、と生唾を飲むソルス。
カナの目に涙が浮かんでいたが、本気の目をしている。
ソルスは赤刀を地面に少しだけ刺し、カナへ話す。
「剣として、武人として最後は居合で決着をつけよう。それに負けたらこの男から離れる。」
「本当だろうな?貴様は平気で嘘をつく。」
「この身体の記憶が……居合で決着をつけたいと、うるせぇんだよ負けたら好きにしろ。」
一輝の中にまだ意識が残っているなら。
それが弟の願いなら。
しばらく悩んだ末にカナはその提案を受け入れる。
そしてソルスはその場から少し下がり、カナはその場で居合を構える。
ソルスの内心は嗤っていた。
先ほど少し地面に刺した箇所に枝を仕込ませている。
(居合と同時にカナを襲えば…)
ソルスは勝ちを確信しニヤけそうな顔を抑え、構えに入る。
再び居合遣いの間合いに。
今回はソルスが動く前にカナが動く。
カナの抜刀とほぼ同時にソルスも抜刀する。
それと同時にカナの足元の枝を発動させる。
「死ね!」
カナの刀はソルスの赤刀とぶつかる。
枝は地面からカナの心臓へ向かう。
(殺った!)
カナの刀は赤刀とぶつかると同時に空間を斬り裂くように軌道を変え、枝を叩き落とした。
刀の意味不明な軌道にソルスも思わず、
「は!?」
と声を漏らす。
目の前にはすでにカナの刀が迫っていた。
「罪は空間を斬る。すまない。一輝。」
カナの刀は勢いそのままにソルスを斬る。
傷口から血が吹き出る。
「あ…俺の…俺の血。」
ソルスは地面に倒れる。
一体化していた赤刀は手から離れ、ソルスは意識を失った。
「一輝…」
カナは赤刀を叩き割り、地面へ伏したソルスを抱き抱え、弟の名前を呼ぶ。
「ねぇ…ね?」
「一輝!?聞こえるか?一輝!」
「ねぇね…ありがとう…うれし…かった」
「最後に…本当の僕で…会えた。」
霧島一輝は最後に姉の顔を見て、笑顔で目を瞑る。
「一輝…」
返事はない。
それでもカナは、弟の名前を呼び続けた。
「一輝……」
もう二度と返ってくることのない返事を求めるように。




