第60話 開戦
エゴの空間を抜けると研究室に出る。
「ようこそ我が息子よ」
白衣の男が両手を広げてこちらへ歩いてくる。
男は満面の笑みで俺を見る。
「それ以上近づくな」
構えを取り牽制する。
俺の目に映るのはその笑みだけではない。
《???》[1]
順位を見て確信する。
「怖い顔をしないでくれ。親子だろう…私たちは」
先ほどの笑みは消え懇願する顔で訴えてくる。
「あんたが…黒瀬宗一郎か」
「そうだよ。黒瀬宗一郎。レクトルではデウスを名乗っている。これで家族全員が揃ったね」
「全員だと!?母さんはお前が[Spes]に。お前があんな姿にしたんだろ!」
俺は激情を抑えつつ研究室奥にある[Spes]を指差す。
「?何を言っているんだ?透」
俺の発言にきょとんとし、
「もしかして…鷹見くんに聞いたのかい?僕が望を殺し、[Spes]に組み込んだとか…」
「その通りだろう!」
「ふふふふ。違うよ透。そうだね、真実を教えてあげよう」
「お前の話など信じるか!」
「信じるか信じないかは話を聞いてからにしてくれ」
黒瀬はゆっくりと真実を語り始める。
——道場にて神城が先に行き、残されたカナと鷹見。
「こうなったら早めに片付けて神城くんを救出しに行きましょう。霧島くん」
正面にいるクストスと対峙しながらカナへ言葉だけを飛ばす。
「はい!」
カナはソルスと睨み合いをしている。
お互いが今や居合の達人。無闇に斬りかかれば一刀の元切られる。
「一輝。お前はその中にはもう…いないのか?」
カナは悲しみの表情を浮かべながら問いかける。
「あんな弱っちい奴は俺の中にはいねぇよ!俺はお前の血を吸いさらに強くなる」
赤刀を鞘から出し、舌舐めずりをしている。
「この刀にはこの一輝とかいうやつの血縁の血がたくさん入ってる。お前もその一人になるんだよ!」
そのままこちらへ斬りかかってくる。
居合でも、能力でもなく。単純に。
カナは赤刀へ向け、居合の一閃を放つ。
ガキンッ!と鈍い音を立てカナの刀はソルスの持つ赤刀へ当たる。
赤刀はソルスの手から離れ重く、響かない音を立てて地面に落ちる。
「一輝。なぜ」
「ねぇさん。僕…」
先ほどまでの表情ではなく、優しくかわいい弟の顔になっていた。
そのまま近づいてくる。
「一輝…」
間合いの一歩手前に来た瞬間に刀をソルスの喉元へ向ける。
「私は何度も騙されはしない」
先ほどまでの表情はすでに消え、顔の紋様と共に狂気じみた笑顔を見せる。
「さすがにもう通用しねえか!!」
落としたはずの赤刀はソルスの手と一体化している。
「殺してやるよ!霧島カナぁ!」
「その身体、今日こそ返してもらうぞ!」
2本の赤と白の刃が舞い踊る。
「あちらは因縁があって熱いですね」
スプレッドしたカードを前に置いたまま鷹見がクストスこと天樹へ話しかける。
「因縁もなにも私は主の命に従うのみです」
天樹はレイピアを構える。
「主というのはデウスの事でしょうか?」
天樹は静かに首を横に振る。
「そうですか…ではどなたでしょうか?」
「主の名前は言えません。しかし命は敵を討つ。それのみです」
レイピアの切っ先が鷹見へ向かう。
「仕方ありませんね」
鷹見はカードを引き、迫るレイピアへ反撃を始める。
——同時刻、他の2グループもそれぞれの場所へ転移した。
何もない、ただ広い空間。
公安の訓練所によく似た作り。
そこに真、ひよりは飛ばされていた。
「真さん…ここなに」
ひよりは敵地での行動は初めてである。
いつも強気な彼女はここに来て緊張し始めた。
「知らん。それより…あいつらと、」
「ようこそ。真」
真の声を遮るように言葉が飛んでくる。
高価なスーツにオールバックの髪。
堂々とした態度で歩き、鋭い視線でこちらを覗く。
「…俺の相手はやっぱりてめぇか」
真の拳に力が籠る。
「お前を殺せるのは私だけだからな」
広い部屋の温度が2人の殺気で一気に下がる。
それほど冷たく、重い殺気に満ちていく。
「真くん。大丈夫…だよね?」
普段見ない真の雰囲気に、ひよりは不安になる。
「朧」
ひよりに向かって呟く。
「こちらに」
ひよりのそばの影から朧が出てくる。
「お、朧さん!?いつから??」
驚くひよりに構うことなく、真は要件を伝える。
「ひよりを頼む」
「御意」
「真く、」
近付こうとするひよりを止める朧。
最後にひよりを見て真は前を向く。
「いくぞ」
「来い。弟よ」
黄色い雷が地面を駆ける。
インヴィクはそれを迎え撃つ黒弾を放つ。
——最強にして最悪の兄弟対決が始まる。
北見、風間、鬼塚の3名は自分たちの現状を理解できない。
光に包まれ飛ばされたのはわかる。
目を開けた時、周りにはぬいぐるみ。
数えきれないほどの、ぬいぐるみ。
ありとあらゆる種類のぬいぐるみがある部屋に飛ばされたのである。
「どこっすかね…ここ」
風間が2人に尋ねる。
「これだけじゃ分からんな」
「分からないわ。でもかわいいわね」
2人は近くのぬいぐるみを触りながら周りを見渡す。
「ちょっとそこのおっさん達!私のかわいい子たちに触らないでよね!」
金髪のツインテール、髪をくるくる捻る制服姿の彼女はカバンにも目一杯のぬいぐるみが付いている。
「おっ、おっさん…」
一斉に鬼塚を見る北見と風間。
「俺か…」
娘ほどの年齢の子に言われ、へこむ鬼塚。
「なんでデウスは3人もむさ苦しいのうちに連れてくるわけ!?ありえないんだけど!エゴ!うちの数ちょっと減らしてよ!」
少女の怒りに呼応するように空間が開く。
「あんた達!公安なんだから私みたいな女の子を寄ってたかって攻撃なんてしないわよね?潔くこのゲートに入りなさい!」
ふん!っと小柄な身体で精一杯見下そうと必死だ。
「なんなんすか?あの子」
「分からないわ。でも確かに私たち3人で彼女を襲うのは絵的にまずいわね」
「おっさん…」
「ちょ!豪さんなんでそんなショック受けてるんですか!」
「俺、確かにおっさんだよなって」
普段は元気溌剌の鬼塚だが、今は意気消沈している。
「凌ちゃん、ここは私に任せなさい。豪ちゃんはその辺のゲートに適当に入れておくわ。死なないから」
そう言いながら豪さんを担ぎ上げる。
「よいしょ!!!」
「うわぁーー」
掛け声と共に開いた空間へ鬼塚砲が発射される。
「さ!凌ちゃんも行った行った!」
手でシッシッと追い出す。
「あ、ちょっと北見さん、ほんまに大丈夫なんですね」
全てを告げる前に北見は風間を空間へ押し込んだ。
「さて、やっと2人になったわね」
「おっさんもどき、かわいくないわね。でもいいわ。仕事だし、やったげる」
プルケの抱いていた小さなクマのぬいぐるみがみるみると大きくなる。
北見の背丈と変わらないほど大きくなる。
「せっかくかわいかったのに、ここまで大きいとかわいくないわよ?私と違って」
プルケにウインクを飛ばす。
「勘違いすんなよ、おっさんもどき!」
「言葉遣いが汚いとかわいくないわよ?お嬢ちゃん」
——乙女達が激しくぶつかる。




