第56話 暴風雨
「俺の一番…なんや一番って…」
皇邸の地下訓練場で、一人ぼやく風間。
様々な技を試して玄武の問いの答えを探す。
しかし一向に答えは出ない。
玄武が出て行ってから、すでに2時間は経過している。
「まだや…もっと風に…」
風間は2時間の間で風刃や風の武器、竜巻、風を纏った打撃などを片っ端から試す。
休む暇もなくただひたすら、ひたむきに。
「凌ちゃん!やりすぎよ!そろそろ休みなさい」
戻ってこない風間を心配して、北見が呼びにくる。
「でも、俺だけが…置いてかれとる…強くならなあかんのです。俺は…」
普段のおちゃらけた風間ではない。
「全く、そんなに焦っても仕方ないわよ」
「どうしたら…俺にはなんもない…」
「分かったから」
全く…と言いながら風間を抱えて訓練場を出る北見。
食事を終え、風間へ問う。
「あなた親友を亡くしたらしいわね。豪ちゃんから聞いたわ」
「はい。めっちゃええやつで…あいつが先にいくなんて信じられへんかったんです。俺があいつの仇討たなあかんかったのに、無様に負けて…」
「俺は、もう2度と仲間を失いたくない…やのにずっと弱いまま。なんにもかわらん…どうしたらええんですかね北見さん」
「重い」
「え?」
「凌ちゃん…あなた見た目と違って意外と重いのね」
意外な言葉に、風間はぽかんとした表情を浮かべる。
「そんな重くてどーするの?あなたくらいの顔の男なんて何もかも軽くていいのよ。ウジウジ悩んでる暇があるなら悩みも全部出し切って身も心も軽くするべきなのよ!」
「軽く…」
——「凌、お前って本当に軽いよな」
「そうか?そんなことないけどな」
「悩みとかないのか?」
「んー、ないなー。かわいこちゃんにモテすぎるとこかな?」
「全く。だが、そういうところが凌の良いところだよ」
「なんやねん牧ちゃん、急にキモいわ〜」
——公安に入った時の牧原との記憶が蘇る。
「そっか。そうやんな牧ちゃん」
「北見さんありがとうございます!俺考えすぎやったみたいです」
「ふ、答えは出たのね」
「玄武さんのとこ行ってきます!」
風間は玄武の自室へ向かった。
「豪ちゃんから聞いてた通りね。あとは玄武ちゃんに任せて、私はこっちね」
北見はそう言い残し2階広間へ向かう。
——先ほど手合わせをしてから3時間後。
再び地下訓練場にて向かい合う玄武と風間。
「分かったのか?答えが」
「わからないっす!でもこれなら負けません!」
風間は最初と同じように風刃を放つ。
風刃を追うように風間も玄武へ迫る。
風を纏っている拳と風刃がほぼ同時に盾へ当たる。
ガンッ!!
拳は盾ではなく、玄武の手に掴まれていた。
「さっきと同じか?」
「こっからですわ!」
掴まれている箇所へ風を送り、空気の隙間を作る。
スッと腕を引き再び迫る。
「変わらんな。なにも」
玄武は盾を2枚風間に向け放つ。
「まだまだ終わらんでぇ!」
風間の背後へ無数の風刃が現れる。
向かってくる盾へ何個もの風刃が向かう。
相当数が当たり盾が勢いを失い玄武の元へ戻る。
「なんだと?」
玄武は目を見開く。
風間の後ろにあった風刃が数を増している。
その上風を纏った本人は乱打を仕掛けてくる。
乱打に加えて風刃が休みなしに玄武へ放たれる。
「ぬぅ」
風刃は盾で防ぎ、風間本人の乱打を玄武自身が弾く。
止まらない猛攻。
一つ一つは軽く、玄武へダメージがほぼ通っていない。
しかし、止まらない。
「もっとや!」
風間の背後、風刃と風の太刀、剣、槍、斧と形が増える。
それぞれが自動で玄武へ向かう。
5分間の猛攻で玄武の盾が一枚破れる。
「なんと…」
驚嘆の顔が現れる。
もはや5分以上もの間能力を出し攻撃を止めない風間。
「もっと…もっと軽く!風に!」
風間の攻撃の数が増える。
玄武は掴んでの無効化、捕縛を試みるが風によりスルリと抜けられる。
その度に周りから風の攻撃が増える。
止まることのない怒涛の攻撃。
「うぉぉぉ!!」
キリがないと感じた玄武は盾を攻撃に切り替え自身を完全に硬化する。
完全に硬化した玄武にはダメージ一つ通らない。
盾を操り風間へ攻撃を仕掛ける玄武。
盾はかなりの速度で突き、払い、押し込む。
しかし当たれば風で受け身を取られ、速度を上げようにも風刃や風の武器が当たり、勢いを削られる。
「すごいな…まるで嵐だ」
玄武の硬質化30分が限界時間だ。
限界になるまで風間の猛攻は続く。
ただ夢中に…
20分後嵐が止む。
「はぁはぁはぁはぁ」
「ふーーー」
風間は立ってられず地面に倒れ込む。
玄武は腰に手をつき、息を整える。
「風間と言ったな。それがお前の一番か」
「はぁはぁ。はい。はぁはぁ。軽く、永遠に吹き荒れる。それが俺の風です。この軽さが俺の一番です」
「良いものを持っているな」
玄武はそう言い倒れ込む風間へ手を差し伸べる。
「また手合わせをしよう」
「次は絶対突破したりますからね!」
玄武はフッと笑う。
——玄武の盾は10回割れ、再生をした。
一度の戦闘でそこまでの数が割れたのは玄武にとって初めての経験であった。




