第53話 矛と盾
目の前で天樹が吹き飛ばされる。
自分でも簡単に勝てないと思った天樹が、だ。
「このおっさん、強いな…」
ソルスの赤刀を握る手に力が籠る。
吹き飛ばされた天樹が起き上がりソルスへ言う。
「ごほ…ごほ…あれは公安本部長 鬼塚豪ですよ」
「本部長!?一番偉いのかあのおっさんが」
「そして、ニ番目に強いです」
「そいつは強いわけだ…」
2人は自身の命の危険を感じる。
遠くで待機させていた戦闘員は鬼塚が到着時に無力化している。
「天樹…数秒稼げるか」
「何をされるおつもりですか」
ニヤリと笑うソルス。
赤刀がより濃く赤く煌めく。
「豪!皇様を頼めるか」
脇腹から少しだけ出血している玄武。
「馬鹿言え。守りはお前、攻めは俺だろ。あのガキどもは、俺がぶっ飛ばして来てやるよ」
腕をぶん回しながら前に進む。
前を見たまま振り返らずに鬼塚が呟く。
「後ろ。任せたぜ」
「ああ」
「玄武…」
「皇様、豪が来たからにはもう大丈夫です。安心してください」
「しかし…なぜ鬼塚君が…」
「丸岡殿がやってくれたんでしょう」
「みな。ありがとう」
「まずはここを切り抜けます」
——ソルスと天樹の前に白銀の獅子が立つ。
「さて、お前らの目的は成十郎さんだろ」
徐々に鬣が長く。爪が鋭くなる。
「誰を狙ってるか分かってるのか?」
鬼塚の圧が2人を襲う。
「こいつは本物だ…」
「何秒もつか分かりませんよ」
そう言い放つと天樹は鬼塚へ突進する!
速さはあるが先ほどまでではない。
「遅いな!」
天樹のランスを掴み、力比べになる。
天樹は全体重をかけて持ち上げられないようにしている。
「ぐっ。」
「こんなもんか?」
片手から両手で捕まれ天樹の身体が宙に浮く。
そして投げ飛ばされる。
「ぐは!」
少し吐血し、鎧を解き、ランスからレイピアへ戻る。
「貴方にはこちらの方が良さそうですね…」
「2人でかかってこなくていいのか?」
鬼塚はソルスへ向かって問う。
霧島家での一件は神城から報告を受けているため、
目の前の子が霧島一輝であると分かっている。
ソルスは鬼塚の問いに一切答えず集中して何かを狙っている。
鬼塚は視線の先を読もうとするが、
そこに天樹がレイピアで特攻する。
「シッ!シッ!」
鋭い刺突が鬼塚へ迫る。
鬼塚は見てから体を捻らせ、顔を逸らし全てを躱す。
「さっきよりかは速くなったな」
刺突に合わせて、カウンターにボディブローを返す。
「ガハッ!」
天樹の身体がくの字に曲がり口からは大量の血が出る。
「はぁはぁ」
鬼塚から見ても天樹は満身創痍だ。
(何を企んでいる…)
「今だ!」
ソルスの合図で天樹はレイピアをランスに変え鬼塚へ放つ。
同時に先ほどの倍以上の赤刀の枝が鬼塚、玄武、皇へ襲う。
玄武は修復済みの3枚の盾と部分硬化をした自身の手で自分と皇に向かう枝を受ける。
鬼塚はランスを叩き落とし、枝を全て拳で折る。
玄武が全てを枝を受けきる瞬間に地面から赤刀の枝が飛び出る。
「む。」
玄武の脇腹を掠める。
出血していたはずの脇腹の出血が消える。
「ハハハ!来た来た!硬ぇ。いい血だ!」
ソルスの構える赤刀が少し太くなる。
「いくぜ!おっさんども!!」
天樹はソルスの後ろへ下がり赤刀に触れる。
「これだよこれ!強いやつの血が!俺を強くする!」
赤刀がより太く赤々しく煌めく。
「喰らえ!」
赤刀を地面に突き刺す。
地面からの大量の枝が生えて鬼塚達へ迫る。
「これは!なかなか!」
生えてくる枝が先ほどより硬くなっており、
折る拳に力を込める。
「玄武!気をつけろ!」
玄武は皇を盾の上に乗せ、自身の上に。
身体を硬化させ自身には刃が通らないように、
頭上の皇に向かう枝を残りの盾で防ぐ。
「ハハハ!精一杯だろう!」
ソルスが居合の構えを取る。
その間も足元からの枝は止まらない。
「面倒だな」
鬼塚は出血しないように注意し、枝を折る。
そこへソルスの居合が迫る。
「これは喰らえないな」
鬼塚の白銀の鬣が消え身体は赤黒く。角が2本生える。
——ガン!
ソルスの居合は鬼塚の前で少し勢いを失う。
修復した盾が間に入り、居合を受け止めたからだ。
「くそ!なんなんだあのおっさんは!!」
鬼塚は速度の落ちた居合を叩き落とす。
刀と手が一体化しているソルスは前へバランスを崩す。
そこへ鬼塚の強烈な一撃がお見舞いされる。
「ぐはっ!!」
広間の入り口まで吹き飛ぶ。
「血を吸い、強化されるとはな。思った以上に厄介だな」
「はぁはぁ。こんな事なら…受けるんじゃなかったぜ、流石にもういいだろ天樹」
「そうですね」
壁から出てくるソルスが呟く。
すぐそばに天樹が寄る。
ソルスの手には石のようなものが握られている。
鬼塚は嫌な予感がする。
「まさか!!逃さんぞ!」
ソルスが赤刀の枝で壁を作る。
その瞬間足元が発光し空間が裂ける。
鬼塚は壁を破壊し駆け寄ろうとする!
——前を見るとそこに2人の姿は無くなっていた。
「くそ!取り逃した」
神城から報告は受けていたが、対処できなかった。
「豪、やつらは」
「逃げたよ!全く逃げ足だけは速い」
「それより大丈夫か?脇腹は」
先ほどまで出血が消えていたが今は出血している。
「これぐらい大丈夫だ。それよりなぜこんなに早く…丸岡殿か?」
「いや、前くれた暗号あったろ。あれでわかって急いで来たんだ」
「なるほどな。ありがとう。助かった」
「素直に礼なんて言うなよ気持ち悪いな」
フッと玄武が笑い豪快に鬼塚が笑う。
少し時間が経ち、公安の2課、3課もやってくる。
戦闘員の何名かを拘束し連行する。
「それにしてもあの天樹とか言う男。相当強かったな。知ってるか?玄武」
「いや、俺は知らぬ」
「あれは我聞と怜司の使用人だ」
「ご存知なんですか」
「今思い出した。一度会合で見たことがあった。まさかあの2人が直接私に手を出しに来るとは。」
「向こうもなりふり構ってられない状況って事ですね…」
しばらくの沈黙が流れ、
「成十郎さん。今回の件もあります。うちから何人か護衛を付けておくのはどうですか」
「玄武だけでと思っていたが今回ので傲慢と思い知ったよ。ぜひ頼む」
後日。北見蓮司と風間凌の2名が修行兼護衛として皇邸に派遣された。
「それじゃ、玄武俺は行くな」
「ああ。助かった」
「また戦えて楽しかったぜ」
「俺もだ。次はもうないかもしれないが…」
「ハハハ、生きてりゃなんでもあり得る!そーだろ?」
「確かにな…」
鬼塚は玄武の背中を叩き皇邸を後にした。




