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第49話 愚者の牙

皇さんの家を出てしばらく車に揺られていた。


「そういえば皇さんが言ってたレクトルの支援者って…どんな人なんですか?」


「レクトルの支援者は2名判明していますが他に何人いるかなどは分かっていません。2名とも皇さんに並ぶ資産家です」


鬼塚さんが嫌な顔をする


「あんなやつら成十郎さんの足元にも及ばん!人間のクソだ」


人を悪く言わない鬼塚さんがここまで言うのだ。相当なのだろう。


「てことは、実質皇さんとその人たちの代理戦争って感じなんですか僕らって?」


「まぁ、そうなりますね」


「我々が正義だがな!」

鬼塚さんが腕を組み鼻を鳴らす。


——皇邸


「神城透…そんな風には見えなかったな」


成十郎はポツリと呟く


「そうですね…」


玄武は小さく相槌を打つ。


「彼からはあいつらのような悪意も醜い欲も見えなかった。鷹見くんの言う通り彼は一切関与してないのだろうな。しかし巻き込まれた。これも運命か…」


椅子に深く掛け背もたれに体重を預け額に手を当てている。


「玄武よ…お前が参加せねばならぬ状況になると思うか?」


「主が望まれるのであれば…どこへでも」


「そうならないことを願うよ」


2人の時間を割くように一本の電話が鳴る。


「私だ。……なんだと??あの愚か者ども…」


平和の使者に愚者の牙が襲う。


——数多くそびえ立つビルの中で、ひときわ高く黒いビル。

最上階にて2人の男は笑う。


1人は金剛寺我聞(こんごうじがもん)。中年で腹が出ている。金の時計に金の指輪、首元には金のネックレスも見える。

片手にパスタを頬張り、もう片方の手でステーキを口元に運びながら話す。


「怜司、聞いたか?皇のやつまた公安に支援してるらしいな」


それに応えたのは久我山怜司(くがやまれいじ)

細身にブランド物のオーダースーツを着て、

ダイヤの指輪を複数つけている。

笑うたびに、前歯が少しだけ覗く。


「そうらしいですね。我聞。自分の資産の一部が危ないと知らないのかな?キシキシ」


キシキシと変な音で笑う。

その笑い声に釣られ近くにいた使用人も少しだけ笑う。


「お前!今僕を笑ったな?」

「とんでもございません!笑ってなどおりません」


使用人の元へ行き


「お前如き僕が言えばクビどころか再就職もできないぞ!」

「申し訳ございません」


土下座する使用人に怒鳴り散らかす。

使用人の容姿は端麗で、身長も高い。そんな人が地に頭をつけ男に怒鳴られている。


「もういいよ!お前!天樹(あまぎ)!」

「はい。怜司様」


天樹(あまぎ)と呼ばれる、使用人の中でも群を抜いて端麗な顔立ち、高い身長、落ち着いた表情の男は、

先ほどの使用人を掴み外へ連れ出す。


「天樹!お茶!」

帰ってくるなり命令に従いテキパキと仕事をこなす。


「やっぱり天樹だな!キシキシ」

満足そうに笑っている。


「天樹は俺たちのモノだからな」


我聞と怜司は高らかに笑う。


「それより今回の買収うまくいったな」


「我聞の作戦が決まりましたね」


「これにより皇の資産の5%くらいは抑えた。それでもあいつの資産は俺たち2人よりもはるかに多い」


「そうですね。いっそのこと皇自身を殺れたらいいんですけど…天樹でも厳しいんだろう?」


2人は天樹に目を向ける


「皇成十郎を護衛する鉄堂玄武を突破するのは…私にも厳しいと思われます」


「だよなー!」「だよねー!」

2人とも机に伏せる。


しばらくして怜司が


「いっそのことレクトル使って襲ってもらいます?」


「さすがに理由がなきゃあいつらも動かないだろう」


「理由なんてなくても、デウスとかいうあいつを脅せばいくらでもやってくれるんじゃない?」


「俺たちは出資者だしな…」


そう考えるや否や、2人は動き出す。

「天樹、レクトルに連絡して今すぐ行くと伝えろ」


「かしこまりました」


ビルの下にある高級車に乗り込み2人はレクトルのアジトに向かう。


——レクトルアジト


修練を終えたソルスは異変に気づく

やけに騒がしい。


普段ひと気のないアジトに人の気配。

それに加えある部屋へ大量の食事が運ばれている。


「あそこはアジトの中でも貴賓室ってデウスが言ってたな…」


ソルスは修練を終えたその足で貴賓室に向かう。

中からは変な笑い声が聞こえる


「………キシキシ」


会話の内容はわからないが変な笑い声だけが耳に残る。


食事を運ぶ給仕に

「ソルス様!?行けません!今こちらは…」


そんな奴らを押し退けズイズイと入っていく。


「何やってんだ?デウス」


テーブルにはデウスと金剛寺我聞、久我山怜司が座っている。

その横には天樹が立っている。


「な、なんだねこいつは?」

「デウス、部下の教育がなっていませんね!」


ソルスからすると豚とメガネが罵ってきているようにしか見えない。


「殺す」


ソルスは瞬間、赤刀を抜き2人に向け振るう。

首を飛ばすつもりの刀は

金属音と共にピタリと止まる。


天樹のレイピアとソルスの赤刀が、ギリギリと音を立てて競り合う。


「ひぃ!!」「キ、キシ」


「なんだ?お前」

「私はお二人の使用人です」


ソルスの問いに被せるように応える。


「やめたまえ!ソルス!彼らは支援者の方々だよ!」


デウスはソルスに近づき刀を収めるように言う。


「チッ!分かったよ」


ソルスは刀を鞘に収めると天樹もレイピアを仕舞う。


「どうなってる!デウス!こいつ襲いかかってきたぞ!」

「そうですよ!万が一当たっていたらどうするつもりだったんですか!」


ここぞとばかりに2人はデウスを問い詰める。


「お二方とも落ち着いてください。彼ら幹部は戦いが専門なのです。どうかご容赦を。」


「ふん!なら先ほどの件やってくれるんだろうな!」


「…わかりました。ですが、我々も人員が足りませんので少数しかお貸しできませんよ」


「こいつでいいじゃないか!この剣士で!」


我聞はソルスを指差して言う。


「何の話だ」


ソルスは自分が何をさせられるのかも分からない。

疑問を浮かべながら問う。


「どーなんですか。デウス。こいつを送れば支援増額も考えますよ!」


怜司はニヤリと笑いながらメガネをクイと上げる。


「…ソルス。やってくれるかい?」


「だから!なにをやるんだよ!」


何かも分からないことを押し付けられそうになり、

イライラし怒鳴りつける。


「日本一の大富豪、皇成十郎の暗殺だよ」


——愚者の牙が再び平和の使者へと向かおうとしていた。


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