第48話 平和の使者
——日本で一番のお金持ちといえば?
日本人にこの質問を投げかけたとしよう。
多くの者が、この名前を答える。
皇 成十郎
日本が誇る最高の投資家であり実業家。
世界に名を知られる平和主義者であり、その実現のために金を惜しまず使うことから
"平和の使者"
というあだ名までついている。
彼にとって金はただの手段であり、心の底からの平和を願っている。
そんな彼の自宅に3人の訪問者。
「ここが……家なんですか?」
俺は目の前の建物が要塞にしか見えない。
黒く四角くそびえ立つ建物。
周辺に家はなく、この家のみが存在している。
「ええ。ここが皇様の家です。粗相のないように頼みますよ」
鷹見さんに忠告を受ける。
「ハッハッハ!緊張するな!神城!成十郎さんはそんなに怖いお人ではない!」
鬼塚さんは格好は正装だがいつもの雰囲気のままだ。
「そもそもなんで俺なんかが…」
「皇様、直々にお会いしたいと仰られたからだ。大切なうちの支援者なんだ。断れる訳ないだろう」
2日前に本部長室に呼び出され、修行を1日休みにし、ついてきている。
要塞のような家の入り口にはインターホンなど何もない。
俺たち3人が扉に近づくと…
「どちら様でしょうか」
壁から声が聞こえる。
「公安の鷹見と鬼塚と神城です」
「少々お待ちください」
しばらく経ち
「お入りください」
正面の壁が左右に開いていく。
まるでゲームのボス部屋のようだ。
開けた先にはスーツの男性が1人立っている
スーツの男性はスラリと足の長い方で白い髭を生やして片眼鏡をかけた老人だ。
「お待ちしておりました。公安の方々。主人が中でお待ちです。ご案内いたします」
家の中を案内してもらう
最初の玄関を抜けた広間は高級ホテルを感じさせるような作り。そこを抜けると迷路のように長い枝分かれした廊下を歩き部屋の前につく。
コンコン!
「公安の方々がいらっしゃいました」
「どうぞ」
扉を開くと部屋の奥の机に皇 成十郎さんが座っていた。
黒のタートルネックに、濃紺の羽織。
下は仕立ての良いスラックス。
革靴なのに、羽織が妙に馴染んでいる。
年齢は五十代半ばほどに見える。
柔らかい笑みを浮かべているが、目だけは人の値段を測るように静かだった。
「どうぞ、おかけください」
落ち着きのある声で逆に緊張してしまう。
皇さんを見ても順位も何も表示されない。
(未登録者なのか…)
目が合う。
「あなたが神城くんですか」
「は、はい!神城透です!」
「噂は聞いているよ。皇 成十郎だ。よろしく」
こちらまできて手を出してくれた。
「よろしくお願いします!」
出された手を両手で握る。
「さて、それじゃ今回の件について聞こうか」
再び椅子に戻り深く腰掛ける。
鷹見さんの口から今回のレクトルによる本部急襲。
[Spes]を奪われてしまったことの顛末を話す。
「また平和に一歩遠ざかった……という訳か。」
皇さんは少しため息混じりの声で話す。
「申し訳ございません。私たちの不徳の致すところです」
「謝罪は結構。一刻も早くこの馬鹿げた争いを止めて頂きたい。あの愚か者たちはレクトルとやらを支援しているようだな…」
「レクトルにも支援者がいるんですか?」
「神城余計な事を聞くな」
ふと疑問に思ったことを聞くと鷹見さんに止められる。
「構わないよ。神城くん。考えたことはないかい?なぜ上位者が公安とレクトルに多いのか?」
「確かに…」
「ダブルやシングルに至ってはほとんどが公安とレクトルにしかいない」
「私を含め資産家がこのシステムの争いに手を貸しているからこのようになっている」
「なるほど。でも、そうなるとうちの支援者って皇さん1人…なんですか?」
「ハッハッハ!神城!心配するな!成十郎さんは1人で他の何人にも勝っている」
「え?たった1人で?」
「そうだぞ!俺たちの他にもいろいろな支援をしてらっしゃる」
「すごい…」
そのような話をしていると
「私の話は置いておいて…神城くんあなたは順位を見抜ける能力なんですよね」
「はい!」
「そうですか…おい!玄武入ってきていいぞ」
扉が開き1人の人物が入ってくる。
黒い作務衣のような服を着た大男。
身長は鬼塚さんほどではないが、肩幅だけで通路を塞げるほど広い。
両腕には鈍い銀色の鉄甲。
入ってきて入り口に立つだけで、壁があるような圧迫感があった。
[5]《SSS》
俺は息を呑んだ。
5位。
それは人間というより要塞だった。
「見たようだね」
皇さんから声がかかり視線を外す
「す、すごいです。鬼塚さんより高いなんて…」
「なに!?玄武!お前俺より高いのか順位!」
鬼塚さんが食ってかかる
「知らん。俺は皇様を守るのみだ」
無表情に淡々と話す。
「神城くん。彼は私の護衛の鉄堂 玄武だ。順位は何位なんだ?」
「すごいです…5位です。」
「そうか!玄武お前5位だったか!やはりお前は強いな!」
「恐縮です」
皇さんは鉄堂さんの背中を叩きながら喜んでいる。叩かれている鉄堂さんは無表情のままだ。
「鷹見くん、今回で公安の被害は甚大だろう。しかし一刻も早くアジトを見つけこの馬鹿げた戦いを終わらせてくれ。私も支援は惜しまない」
「ありがとうございます。ただいま鳴神による捜索を行っております。見つけ次第、我々の手で終わらせます!」
「よろしく頼むよ」
俺たち3人は部屋を出て、
案内の方に連れられ外に出る。
「皇さんとってもいい人でしたね」
「あぁ。いつもあんな感じだが、やる時は徹底的にやる方だからな油断はできない」
「そういえば鬼塚さんは鉄堂さんと知り合いだったんですか?」
「ん?、ああ。玄武はかつての同僚だ。」
「公安にいたんですか?」
「ああ。俺が前に出て、玄武が後ろを守る。あいつがいた戦場で、背中を気にしたことは一度もない」
鬼塚さんはどこか懐かしそうに笑った。
「だが今の玄武は皇さんの壁だ。守ると決めたものから、あいつは絶対に離れん」
5位。鉄堂玄武。
その名を、俺は深く胸に刻んだ。




