第44話 罪の先
(霧島すまない。お前が来るまで待てなかった。ここで一輝を捕える——)
一輝と一心の間に立つ。
[75]《SS》
強いな…
俺は目の前の一輝を見る。
「これ以上はやめろ霧島一輝」
「お前が1番うざったいんだよ!急にカナの横に来て結婚だと?許すわけねーだろ」
今まで見ていたが、これが本当に霧島一輝なのかと思うほどに人格がまるで違う。
「なぜそこまで姉に執着する」
「カナは俺が守ってやらなきゃいけないんだよ!そこの弱い剣聖でもお前でもダメだ!俺だけが守ってやれるんだ!」
赤刀をこちらに向け、怒鳴りつける。
「お前も邪魔するんだろ?お前ら諸共殺してカナを迎えにいく!」
一輝が俺に斬り掛かる。
まっすぐ上段からの構え。
「神城くん!」
背後から一心さんの声が聞こえる。
振り向かず前を向いたまま
「大丈夫です。霧島は必ず間に合います。それまで俺が、時間を稼ぎます」
上段からの振り下ろし、流れるような返し、刺突。
全てを躱す。
身体を引き、捻り、能力は使わない。
(あと数回しか使えない。あの居合までは耐える。)
「ちょこまかと、すばしっこいだけかよ!」
能力を使わないで避けるには限界があった。
鋭い刺突が頬を掠める。
血は出ない。
——ズンッ。
身体が重くなるのを感じる。
(これがあの赤い刀の能力か)
それに呼応するように一輝の猛攻が素早さを増す。
「くっ!」
少し躱すのが遅れ体勢を崩しかけた所へ
一輝の赤刀が迫る。
「ここだ!」
意識をスローモーションの世界へ心眼をフルに発動する。
一輝の身体が前のめりになった所に掌底を置く。
「がはっ!」
一輝の腹に崩拳を見舞う。
口から少量の血と唾が飛ぶ。
「おまえ。ぶっ殺す」
居合の姿勢。
(ここで使い崩拳で制圧する)
赤刀を鞘に収める。俺は構え心眼を発動する。
——速いっ!!
心眼で放つ瞬間は見えていたのに、気付けば刃が迫っていた。
カウンターを叩き込もうとしていた俺は少し前のめりになっていた。
咄嗟に波で赤刀に触れ軌道を逸らす。
首に向かっていた刀は少し逸れ胸を割く。
「くそ…」
身体が重い。
血は出ていないが浅い傷ではない。
戦う事はできる。だが俺が致命傷を負えば、朧さんが一輝を制圧する。
でもそれじゃあ…霧島は…。
「意気揚々と出てきた割には大した事ないな!ここでそいつと一緒に死ねよ!」
再び居合を構え俺と一心さん諸共斬ろうとしている。
「ここまでか…すまない。カナ」
背後で一心さんは嘆く。
「霧島カナ!早く!早く出てこいよ!」
「お前がこの家の決着つけなくて誰がやるんだよ!!」
「カナは俺が守ってやるんだ。お前達は死んどけ!」
——スパッ。
静かに…確実に何かが斬れる音がした。
俺と一心さんの背後。
一輝は目を見開き驚いている。
「な…カナ、自力で出てきたのか?」
「一輝…」
「カナ!」「霧島!」
「父上…神城。2人の声聞こえた、ありがとう。」
そこには、もはや語る必要のない。
——剣聖の姿があった。
——数刻前。当主の間
闇に沈み堕ちるカナ。
思考が鈍い。
どれほどの時が経ったのだろう。
わからない。
私はこのままこの中で死ぬのか。
当主の間では死ぬことはない。
特別な力で守られている。
しかし中で死を何度も経験すると、精神が持たない。
かつての剣聖達も修行で死を経験し、奥義の習得を諦めると聞く。
父上は…これを突破したのか。やはりすごい。
剣聖とは時代最強剣士の証だ。
それを18の時に…信じられない。
父上の事を思考しているとあの夜のことを思い出す。
「お前と共に生きたい」
父上は私に全てを告げ、恥も外聞も全て捨て頭を下げた。
私が同じ立場なら出来ないだろう。
神城もそうだ。私のためにここに残り今も戦ってくれているんだろう。
みんな…乗り越えて…また立ち向かい…
壁があればまた乗り越え。
私は何がしたいのだ。
剣聖?公安の任務?ランキング?家のこと?
わからない。
罪を背負い。乗り越え、彼らのようになれるのか。
——霧島!お前がやらなきゃ誰がやるんだよ!
——すまない。カナ。
私を呼んでいる。
私の…私のやるべきこと。
場面が闇からなぜか切り替わる。
「カナ…優しい子に。一心さんやみんなを守る優しい子になってね。」
母…なのか。
目には涙が溢れる。
そうか…私は…
私のせいではない。
そう言ってしまえば、きっと楽だった。
けれど違う。
私の言葉が、一輝に呪いを残した。
私の弱さが、神城を危険に巻き込んだ。
私の未熟さが、救えなかった命を生んだ。
それを、なかったことにはしない。
罪は消えない。
ならば——背負って進む。
私は目の前の仲間を…家族を…守るんだ。
場面が切り替わる
黒いモヤを背負う一心、一輝、神城が居合の構えをとっている。
(罪を認め…受け入れ…その上で自分のやるべきことへ…)
私の斬るべきは罪ではない。
罪に沈む、私自身だ。
霧島カナの白刃は——空間を割いた。




