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第42話 剣聖

——神城が戦闘を開始する前


当主の間の前に1人。


かつて霧島家最強と言われた男が座する。

腰には一本の太刀。

いつもの和服ではない。試合着だ。


ここで死んでも、カナが霧島家を救うだろう。

だが親として…当主として…私がけじめをつける。


廊下から2つの足音。

一心は今一度覚悟を決め目を開く。


——これが父…だと?

一輝は目の前の男が本当に父一心であるのかわからない。

覚悟を決め、誰よりも勇ましい顔をしていたからだ。


一輝は昔から自身は愛で産まれた訳ではないと知っていた。会話のない父と母。話しかけてくるのはいつも祖父。

次第に母も僕を捨て、この家を離れた。

父の姿はいつも迷い、揺らいでいる弱い人だった。

奥義を伝授する時も何も言わず、父とは稽古をするだけだったのだ。


それが目の前には試合着に太刀を携え別人の顔つきの一心の姿。


一輝は動揺を隠せずにいた。


「来たか。一輝」

一心は真っ直ぐと一輝を見る。


その圧に少し気圧されていると、


「一心!あの女に奥義を伝えるとはどう言うつもりじゃ!禁止されておるのは知っておるじゃろう!」

一彦が一輝の後ろから怒鳴りつける


「カナは。私の宝。家が禁止しているとかそんなものは関係ないんですよ。父さん」


「なにを今更!貴様は一輝が奥義を取得した時点で用済みだったのだ!私の情で生かしてやったと言うのに…この恩知らずめ!」


「父さん。私たちはもうやり直せないのでしょうか。私が当主になる前の父さんはどこに行ったんですか」


「やかましい!父さんなどと呼ぶな!一輝!この裏切り者を殺せー!!」


一輝は動かない。


「どうした!一輝!」


「一輝。お前も私の子だ。今まですまなかった。ここから…やり直そう。カナと私と一緒に」


一心は呼びかける。


「…僕は…僕はカナさえ守れれば…それで良いんです。カナが私の全てだ。幼い頃見放したのは父上あなただ!カナだけが僕を見てくれた!そんなカナに戦わせるあなたは僕の敵だ!」


感情のままに言葉を連ねる


「そうか…。ならば私は霧島家15代当主。剣聖としてこの当主の間を守り、お前達を討とう。」


すっと立ち上がる。


「ふん!もはや老いたお前が一輝に勝てる訳がなかろうが!」


「お祖父様黙っていてください」


一輝に釘を刺され一彦は黙り込む。


2人が相対す。


お互いが居合の構えを取る。


静寂の中、動かない一心と、動けない一輝。


その状況を打破するが如く


一輝が先に抜く。

常人は反応できず斬られたことさえ気付けない程の速さ。


幼い頃からの修行に加え、奥義の鏡まで取得した一輝の刀は飛ぶ鳥さえも斬り落とす速さだ。


(殺った)


その刹那一輝の刀に白刃が迫る


一輝よりも後に抜いたはずの一心の刀はより速く正確に一輝の刀を捉える。


——ガンッ!

一輝の手は痺れ刀を握るので精一杯である。

握る刀は途中から折れ、先がない。


「な…なんで…」

一輝は現実を受け入れられない


今まで居合でも父に負けたことなどなかった。

罪もこの程度かと思っていた。


それがなぜ…


「一輝よ。お前の刀では私には届かぬ」

振り抜いた刀を鞘に戻し一心が諭す。


一心は自身の刀が昔に戻っているのを感じる。


(簡単な事だったのだ)


後悔と迷いに悩まされていた男は、

全てを打ち明けかつての最強へ戻る。


「そ…そんな」

一輝は膝から崩れる。

「僕の今まではなんだったんだ…」


遮るように後ろから

「一心!一輝を惑わすでない!一輝はこの霧島家を継ぐものだ!」

と一彦が怒鳴りつける


空間が歪む。

一瞬遅れてフィールドが展開される。


「わしらにはこれがある!」


一心はフィールドを見ることはできないが何か違和感を感じる


「これがフィールドか…神城くんの言ってた通りになったな」


「ふふふ一心!これでもその余裕が持つかな?」

一彦の右肩に手がもう一本生えている。


その手は太刀を握り、

一彦自身は居合の構えを取る。


「わしの一撃とこれを同時に喰らえ!一心」


一彦が居合を放つ。

先ほどの2人に比べて見劣りするが常人では見えないほどである。


「なぜ。父さん」

短く。静かに呟く。


刀を抜く。

一彦の刀は最も簡単に折れる。

その上からもう一本の手が刀を振り下ろす。


「その態勢では何もできまい!死ねぇ!」


一心の刀は振り抜く直前にピタリと一瞬止まり、一彦のもう一本の腕へ向け斬りあげる。

——キンッ!キンッ!

正面、頭上と2方向からの刀をほぼ同時に落としてみせる。

一心は自身で止めているのだが周りから見れば不自然な動きをしたとしか思えなかった。


「一心!貴様まさか登録者なのか!?今の不自然な動き!おかしいであろう!当主ともあろうものが!」

一彦は一心に怒鳴りつける。


「父さん。私は能力など使っておりません。これが罪まで会得した者の刀です。」


刀を鞘に戻しながら話す。


「鏡と罪では根本的に力の流れが違うのです。罪は空間すら干渉できる。本来罪を扱える者のみが当主の間に入れるのです。」


「貴様…自分が使えるからと言って嘘を言いおって…何をしておる一輝!はよこいつを殺せ!」


「カナは僕が守る、僕が最強の剣聖なんだ。僕が守る僕が僕が僕が…」

膝をつき四つん這いでブツブツと独り言を言っている。


「くそ!本当にどいつもこいつも使えんな!応援はどうなっとる!誰も来んではないか!」


タッタッタッ。

廊下を走る足音。


「来たな!一心!ここまでじゃ!わしらの応援に殺されるがいい!よく見ろ!」


一彦が見ろと言わんばかりに指を差す。

影から蝋燭の光に照らされその姿が徐々に分かる


「えーっと。俺ですけど」

気まずそうにしている神城であった。


「な、なぜ貴様がここにいる!1000位など応援の相手でもないだろう!」


一彦はもはや血管がはち切れんばかりに怒っている


「あー、あいつらなら第三道場で寝てますよ」

神城はケロッとした顔で話す。


「一心さん。思う存分やってくださいね!俺たちもついてます!」


「ありがとう神城くん…」

神城へ向きお礼だけすると

もう一度一彦に向き直し

「父さん。もう終わりにしよう。あなたが縛った霧島家は、ここで終わる。」


「一輝!何をやっとる!一輝!」

一輝の元へ駆けつけ一輝の背中を叩き呼びかける


「黙っててください…お祖父様…」

「何を言っておる!今は…」

「俺に近づくな…」

「何を!」

——グサッ!


一彦の身体に何かが刺さる。


赤い。太刀。


「うるさいな…俺はカナを守るんだ…黙ってろ」

一輝はゆらりと立ち上がる。


「な…なぜだ…一輝…」

赤い太刀が身体を貫いている。

なぜか血が全く溢れていない。


「うるさいんだよ。じじい!俺はカナを守るためだけに刀を振るってんだ!邪魔すんな!」


先ほどとは別人の一輝。

顔にはうっすらと紋様のようなものが見える。


「親父カナに奥義なんて教えやがってあいつを守るのは俺だ!邪魔すんならお前も殺す!」


一彦に刺さっていた赤い太刀を抜く。

血は舞わず一輝の太刀はより赤々しく光る。


「一輝。もはやお前も。」


——再び親子の刀が交わる

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