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第39話 当主の間

霧島家には道場が多い。

第一から第四、さらに当主の間がある。


俺は第三道場を借り人払いをしてもらっている。

——シッ!

ひたすら型。

心影崩流しんえいほうりゅうの伝授を受けている。


霧島家に来て1週間。

あれから霧島家の人間には会えていない。

霧島とも夜、寝る前に会えるくらいで、ほとんどの時間を修行に当てている。


当主の間には当主と、その時に認めた者しか入ることが許されていない。

よって修行の邪魔をされることがない。


「考えごとはいけませんね」

ペチッ

朧さんに額を軽く叩かれる。


「すいません!」

「この家のことにあまり首を突っ込まない方がいいと思いますよ」

周囲を警戒するように見渡しながら、

「このまま行くと近いうちに必ず崩壊します」

朧さんは至極真面目に話す。


俺はゴクリと生唾を飲み込む。


「なぜ、ですか」

「ここに来て1週間。私なりに調べた結果です」

朧さんは隠密が得意だ。

さすが元第2課のエースである。


「僕としては、祖父の一彦さんと一輝が怪しいと思っています。彼らだけが霧島家で登録者になっていましたし」


「その線で間違いないと思いますよ。一彦はかなりきな臭い動きをしていますし」


「と、いうと?」


「当主の間で、一輝に一心様を殺させるつもりのようです」


「ええ!?」

驚きのあまり声が大きくなる


「一輝の不安や嫉妬を煽り襲撃させる気のようです」

1週間でここまでの情報をどうやって。と言いかけて止める。


「ということはいつ襲撃が起きても…」


「おかしくありません」


そう言いながら型を確認していく。

何があっても動けるように…


——あの女がここに来てもう1週間。

一彦は毎日当主の間にて一心とカナが稽古をしているのを確認している。


「一心め。またあの女に…。一輝ですら2週間以上かかったのだ。女如きに習得できるはずがない!あれに耐えられるわけがない!」


そう言いながらも焦らずにはいられない。

霧島家で代々伝わる奥義を女が習得など言語道断である。


霧島流居合術には段階がある。

きょうざいせつ

自身の力量や悟りにより技が変化していくのだ。


罪まで辿り着いたのは歴代15代の中でも3人。

刹に関しては初代以降、たどり着いたものはいない。


この男、霧島一彦は始までしか出来ず、名ばかりの剣聖とされ道場の人の入りはみるみる減る。

そこに息子である一心が若干18歳にて当主の座につき、始、鏡、罪までの道を開け、霧島家は再び脚光を浴びることになる。


一彦は剣の才能がなく、才能のある一心に息子ながら敵意を抱き始める。

一心を霧島家で孤立させるためにカナを利用した。

この家を牛耳るために一輝の母も一彦の息のかかった者だ。


もう少しで一輝が当主になり再び霧島家を手に入れられた。


なのに。今更追い出したカナを一心が連れてきた。


そして当主の間での連日の修行。


「一心は奥義をあいつに与えてなにを……

まさか!あいつを当主の座につける気か!」


一彦はすぐに動く


「あいつがその気ならわしにも考えがある」


前当主は暗躍する。自身の権威が再び戻る日を信じて。


——当主の間


実家に帰った初日、神城は


「俺は帰らないぞ、霧島が無事に帰れるまでここにいる」


そう私の手を握りながら言ってきた。


私は顔から火が出ているのかと錯覚するほど熱くなった。


(奥義を習得して一緒に帰る)

初めて当主の間に入る直前にもう一度自分に言い聞かせる。


「カナ、入れ」


父が襖を開ける。


——蝋燭が一つ。ゆらゆらと小さな火が燃えている。

その周りは無。

文字通り何もないのだ。


「な、なんですかこれは…」

一歩引きそうになる。


「ここが当主の間だ。何もない。カナここでは私も何もしてやれない。頼れるのは自分と自分の信頼する者だけだ」


そう言い父は無の中に消えていく。


「父上…」

ゴクリと生唾を飲む。

一歩、部屋に足を踏み入れる。


フィールドに似た感覚。

そのまま部屋に入る。


——ピシャリ。

襖が勝手に閉まり、蝋燭が激しく燃える。


目の前に人型の影が現れる。影は次第に昔の父の姿に。


「なぜ。父上が…」


腰にある太刀を掴む。目の前にいる父も同じように動く。


(前の感覚を思い出せ。)

以前の居合の感覚を頼りに抜刀する。

——ズバッ!!

「う、うぁぁぁぁ」

私の両手首より先がない。

父の居合に斬られた。


噴き出る血。感覚のない手。脚に力が入らない。

汗が止まらない。痛い。痛い。いたい。いたい


——ハッ!!

目の前を見ると先ほどと同じ光景。

両手もある。

父が目の前で同じ構えをとっている。


感じた痛みは本物であった。


再び刀を握る。

握る手に力が籠る。

「こういうことですか。父上。」


——永い果てしない修行が始まる…

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