第32話 鷹見兼人
「牧さんの分だ!」
透明化が解かれ、姿を現す。
「これも牧さんの分!そしてこれは殺された隊員の分だ!」
倒れ込む蛇喰に馬乗りになり、何発も殴りつける。
もはや顔の原形はわからない。
蛇喰は虫の息だった。
「これで!終わりだ」
最後の一撃を振りかぶる。
——「もうやめて!」
ひよりさんが俺の腕にしがみつき止める。
「透くん、無理しないで。」
背中が熱い。
ひよりさんの涙?
「こいつは牧さんを。仇を討たなきゃ。」
振りほどくように力を込める
もっと力を込めてしがみつくひよりさんに
俺は腕を下ろす。
「どうして…」
「私たちは公安!
守る側であって人殺し集団じゃない!
無理する必要はないの」
「仇を討てなんて牧くん言ってなかったでしょ」
そうか。俺無理してたのか。
——カチャリ。
能力者用の手錠をかけ、縛り付ける。
ひよりさんが来たと同時に護衛の男も近くに居た。
「お弟子様、見事な心眼でしたね」
表情は伺えないが先ほどより柔和に話す
「あなたは…」
「そうよ!護衛さんあなた何者なのよ!」
ひよりさんが被せてくる
「ご挨拶が遅れました。私は真様にお仕えしております。朧と申します」
綺麗なお辞儀。
無駄な動きが一切ない。
「朧さんは心眼の事を知ってるんですか」
「はい。心眼は我々の一族が使う心影崩流の技の1つです」
「そ、そうだったんですか!てっきり師匠のものだと」
「真様に私が教えた唯一の技です。それより先は真様にお聞きください」
そう言い残し、ひよりの陰に隠れているはずなのに、いないほど存在が希薄になる。
「わ、わかりました。それよりこれからどうしましょう。近くで風間さんが戦ってたはずなんですが…」
「風間くんなら治療室で寝かしてるわよ」
「え?」
「かなりの重症だったけど息はあったし四肢もついてたから治してきたわ」
良かったとホッとひと息をつくがひよりさんが続けて
「でもあれだけ激しい戦闘だったのにも関わらず敵は姿を消してた。止めも刺せたはずなのに…」
顎に手を当てて考えている。
俺も記憶を整理していると蛇喰と戦う前の事を思い出す。
「そういえば鷹見さんが下に行くって。敵は4人。上に霧島とこの階で俺と風間さんが…鷹見さんが危ない」
俺はすぐに地下へ向かおうとするがひよりさんに止められる。
「ひよりさん!?鷹見さんは下で2人と戦ってるかも知れないんですよ?助けに行かないと!」
「そういえば透くんは知らないのね」
ひよりさんは俺を座らせてその場で治療を始める
「鬼塚さんと真さんが何も言わずに出ていけるか。鷹見さんがいるからに他ならないのよ」
その頃。
——地下5階では。
鷹見の目の前に現れたのは、記憶の中の女性によく似た少年だった。
鷹見は自分の目を疑うと同時に、人道を外れた博士に対する嫌悪感に苛まれる。
「あなた。だれ。」
少年は声さえ違えど、彼女の面影を強く残していた。
髪は白く背丈も違うが話している姿はまさにだった。
「私は、鷹見兼人。あなたは?」
平然と返すが恐る恐るである。
「私。エゴ。鷹見。しらない。」
「君のお父様とは、昔からの仲なんです」
鷹見はカマをかける。
「お父様。しってるの。なぜ。」
「同じ研究者ですからね。それより、君のお母様は元気ですか?」
「お母様?なにそれ。私には。お父様だけ。」
「そんな事。どうでもいい。」
結界を叩くエゴ。
鷹見が能力を発動しているためエゴの順位は見えていた。
[1000]
おそらく神城と同じであろう。
彼女の能力はなんだ。
——バリッ
エゴが結界ごと空間を抉り取る。
一部が崩壊した事で、結界が崩れる。
「まさか、そんな能力とは。お兄さんとは違いますね」
ピクリとエゴが反応する。
「そんなもの。いない。」
エゴは目の前を突く。
空間を超えて腕の先だけが鷹見の前に出現する。
「おっと」
エゴの突きを体を反らし躱す。
腕を引き元に戻す。
「気になることは大体わかりました。あなたを拘束し尋問させてもらいます」
鷹見は空中でトランプをスプレッドする。
その中から1枚を取る。
エゴは初めて見るトランプの動きに夢中だ。
♤3
カードは大きな火球となりエゴへ向かう。
エゴは後方へ跳躍し、躱す。
着地に合わせて
♤9
3本の風の槍となりエゴを追い込む。
遠距離ではキリがないと見たエゴは空間を割き体ごと飛び込む。
風の槍は空を切り、消滅する。
エゴは鷹見の背後に現れ音もなく、首への刺突を放つ。
鷹見の手には♡6と♢Kが引かれていた。
——カンッ!
エゴの刺突は鷹見の周囲にある見えない何かに防がれる。
最初に当たった感触と似ていた。
あの時よりも硬い。
エゴは元の位置に戻る。
「危ないですね。その移動、背後にも出られるのですね」
そう言いながらトランプがホルダーに戻っていく。
「鷹見。強い。」
「少なくとも、あなたよりは強いですよ」
2人はジリジリと睨み合う。
鷹見はホルダーにある拳銃を引き抜き、
——バンッ!抜くとほぼ同時に発砲音が鳴る。
空間を開く暇もないエゴは爪で弾丸を弾く。
「なんで硬い爪なんでしょう」
「これ。特別。」
鷹見の弾丸は正確にエゴに向かう。
体を捻り躱す、軟体動物のような動きだ。
躱しきれない弾は爪で弾いた。
カチッと引き金が乾いた音を立てる。
エゴはその隙を見逃さない。
鷹見に見えないほど小さな空間を開け、
爪を意識的に伸ばし鷹見の左脇腹あたりを狙う。
鷹見は拳銃で爪の軌道を逸らす。
しかし爪は拳銃ごと貫き、鷹見の左脇腹へ迫る。
少しだけ逸れた爪を全身を翻し躱す。
「これも…なら。これ!」
小さな空間は10本の爪全てを運ぶ。
鷹見の四方八方に開いた空間に躱す隙はない。
——その瞬間ホルダーのトランプがひとりでにスプレッドする。
鷹見は
「♢Q」
短く強く呟く。
スプレットされたトランプから♢Qが現れ鷹見の前で消える。
キンキンキンッ!
またしても爪を全て弾く。
結界には至る所にヒビが入り、弾け飛ぶ。
「!?」
エゴの手元に結界の破片が刺さっている。
空間を逆に辿って飛んできたのだ。
その隙に鷹見はエゴに向かいながら
無造作に2枚を引く
♡2♡A
鷹見の身体に溶け込む
——グンッ!
目に見えて加速する
エゴが顔を上げた時には、鷹見は目の前にいた。
——ゴン!
鈍器のようなもので殴られる感覚
鷹見の持つ警棒がエゴの脳を揺らす。
(引き離す。)
エゴは回転しながら爪を伸ばす。
すかさず後方へ飛び仕込み警棒を服の袖に戻す。
「大人しくしてください。あなたでは勝てません」
トランプをもう一枚引く。
♢10
エゴと鷹見を包み広範囲に結界が展開する。
結界には "3人"の感触。——増えた。
「はぁ。はぁ。」
肩で息をし脳が揺れたせいでまともに立っているのもやっとだ。
一方の鷹見はスプレッドされたトランプを一度戻し周囲を見ている。
「どう。しよう。」
立ち尽くすエゴ…鷹見は何かを警戒している
「いるのは分かっていますよ。早く出てきてください」
「——私が見えるとはあなた相当やりますね」
音もなくそこに現れる。
エゴの隣にいたのはサンクト、星宮星矢であった
「エゴ、私達の目的を果たしますよ」
耳打ちをする。
「うん。お父様。絶対。」
再び奮い立つエゴ。
「サンクトですか。何人来ても、私を倒すことはできませんよ」
鷹見のトランプが再びスプレッドを始める。




