第31話 心眼
——身動きが取れない
目を覚ますとまだ本部にいた。
意識を失っていたのは数分だったようだ。
「エゴ、まだかなー♩」
蛇喰はナイフをクルクル回しながらスキップしていた。
俺はまず冷静に自分の現状を確認する。
指以外が動かない。
——見えない糸で縛られている。
鉄甲は丁寧に外され、銃と短刀も無くなっている。
蛇喰はナイフを使い分けている。
なぜか今俺を殺せない。
今起きていることに気付かれても、良いことはない。
目を瞑り、呼吸をゆっくり整える。
俺が自分で何かできることは今ない。
油断と怒りが焦りを生み、この状況だ。
師匠が聞いたらぶっとばされるな、これ。
そんなことを考えながら目を瞑っていると
「やっぱり我慢できないわ!!」
聞き覚えのあるふんわりとした声
「あなた!透くんを放しなさい!」
ひよりさんが治療室から出てきた。
「だめです!ひよりさん!」
気絶しているふりをしていたが焦って声を出す
「あれ、起きてたんですか透くん」
こちらをチラリと見た後ひよりさんの方を向く。
「あなた誰ですか?」
首をかしげながら聞く。
「私は白宮ひよりよ!この公安の主治医なんだから!」
えっへんと言わんばかりの態度だ。
敵を前にこの大胆不敵さ。さすがだ。
そんな事を言ってる場合ではない
「ひよりさん逃げてください!こいつは99位!ひよりさんじゃ勝てません!そもそも戦闘系じゃ…」
言葉を遮るように
「お姉さんは困ってる子は助けたい性分なのよ!」
持っていたメスを思いっきり投げる!
——カンッ!
全然違う方向の壁にぶつかり、落ちる。
………
「や、やるわね!次は!」
顔を赤らめあたふたしている
「変な女ですね。死んでください」
殺す用のナイフを構えひよりさんの元へ走る
「ひよりさん!!」
「きゃーー!」
空間が歪む。
一瞬遅れてフィールドが展開される。
——ヌルりと何かが現れる
ひよりさんの背後から現れたそれは
蛇喰のナイフを弾く。
「なんですか!!あなたは」
蛇喰が驚く
[20]
俺の目にそう見える。
「…え」
「…だ、だれ?」
俺も守られた本人も驚きの声をあげる。
「護衛対象は死なせません」
突如現れたそれは低い声で発する。
全身黒尽くめ顔も隠れた格好。
身長はかなり高いが豪さんほどではない。とても細身で存在感が薄い。
短刀のような、いわゆる忍者刀を持ちひよりさんの前に立つ。
「わ、わたしが護衛対象?」
ひよりさんは驚きを隠せない
「はい。真様から仰せつかっています」
淡々と答える。
「真様って真さんのこと?」
「はい」
「何で真さんが私のことを?」
「主の考えはお答えできません」
そんな問答の最中、3本のナイフがひよりさんを襲う。
カンカンッ!
ひよりさんの方を見たまま弾く。
「あなた!強いですね〜」
蛇喰は服の中からナイフをスッと取り出す。
ひよりさんは守られているが、俺は依然として捕まったままだ。
俺を殺せないとはいえ何とかしないと…
さっきはやられたが集中して見ると糸が見える。
これに巻きつけられてたのか。
「護衛さん!透くんも助けてよ!」
「なりません。私の護衛対象は白宮様のみです」
ポコポコと護衛を叩くひよりさん。
「分からずや!真さんと一緒ねほんと!」
護衛は微動だにせずこちらを見る。
「主の命は、それだけです」
「神城くんは僕も殺せないのであなたで我慢します」
目を輝かせながら品定めしている。
「あくまで護衛ですので。貴方とは戦いません」
——ヒュンッ!
護衛の手から何かが飛ぶ。
手裏剣が俺のすぐ近くに刺さる。
動ける。
蛇喰も察したのか、
「あれれ、見えないはずなのに」
と首を傾げている。
「戦いは主のお弟子様に任せます。白宮様は私にお任せあれ」
「最初から助けられたでしょ!ねぇ!」
またひよりさんにポコポコされている。
「ありがとうございます。護衛の方。」
糸を払い軽く屈伸をする。
身体は動く。問題ない。
「またやる気ですかー?透くんじゃ勝てませんよー」
ナイフを切り替え構える
俺は一瞬目を瞑り深く呼吸をする。
修行を思い出しながら。怒りは内側に、冷静に。
「お弟子様。見るだけでも感じるだけでもダメです。
あなたは見て感じるのです」
声と同時に、飛んでくるナイフを感じる。
目を瞑ったまま躱し目を開け蛇喰を見る。
「——見て、感じる」
「よく避けますね♩」
蛇喰のナイフはおかしな角度と軌道で飛んでくる
正面、斜め、そして背後
俺は蛇喰を視界に収めたままナイフの流れを感じる。
正面と右から飛んできた2本を首の動きだけで躱す。
視界には蛇喰、ナイフに繋がれた糸。
糸を屈んで躱す。
「あは!ホントに見えてるんだ!」
次は4本が正面からくる
(2本は陽動、本命は左右の2本)
正面の2本は外に逸れ両外から2本が迫ってくる。
全ての下を滑り込む。
速度を落とさず突っ込む
——距離は、詰めた。
苦し紛れに投げた1本を躱し手が届く寸前
——背中に空気の流れ…殺気を感じる
(見て、感じる。)
蛇喰の指が動いている。
能力を発動する。
スローモーションの世界で後ろに視線を送る
先ほどまでの全てのナイフが俺に向かっている。
10本以上のナイフ。
スローモーションの中で、ナイフの柄を1本ずつ弾く。
全て弾き終わった瞬間に限界を迎え、元の世界に戻る。
(能力は後1回しか使えない)
再び蛇喰の方を向くと——いない。
透明化
心眼を使うべく目を瞑ろうとする。
——心眼。本当にそれだけなのか?
真さん曰く究極の攻防術。
白兵戦なら敵なしと言われる、その術が目を瞑り感じるだけ。
果たしてそうなのか?
(見て、感じるのです)
護衛の男の言葉が師匠と被る
——見てもできねーなら目瞑ってろ!
師匠も、見てできることだと言っていた。
目を開き視る。
——微細な動き、糸が見える。
(まだだ。もっと)
糸よりも微細な空気の振動が見える。
それを辿る。
——いた!!
俺の目にははっきりと蛇喰の輪郭が映る。
見えた時にはもう走っていた。
蛇喰も見えていないだろうと油断していた。
直前で焦り動き出そうとする。
「おせぇ!全部見えてる!!」
俺の拳が蛇喰を吹き飛ばす!
「ここで終わらせる。牧さんのために!」




