第29話 紫電
——地下5階
鷹見は部屋の前に立つ。
(博士が何かを掴んだのは間違いない
でなければこれほどの戦力を投入しない。)
——博士!
「なぜこんな…こんな事を」
研究室には、白衣を着た2人の男がいた。
「私の理想に近づいたのだ!彼女も喜んでいる!」
男の前には大きな水槽。
そこには女性が眠っている。
「あなたがそこまでしてシステムを作る理由は何なんですか!」
鷹見には彼が正気であるようには思えなかった。
博士と呼ばれる男は水槽を見ながら
「私はこれで神になれるんだよ。だろ、望」
水槽の女性に語りかけている。
「私はあなたを許せない。自首してください」
鷹見は警察に電話をする。
「凡人に私の研究は理解できないよ!鷹見くん!」
研究室にある器具が宙を舞う。
鷹見の携帯も手から離れる。
「——本当に人間の限界を…」
博士はゆっくりとこちらを向き
「は…ははははは…間違っていなかった。そうだろ鷹見くん…」
——ドンッ
後頭部に鈍い音が…
「ウッ!」
鷹見の視界は闇に呑まれる。
——ハッ!
目を開けたその時すでに研究所には何もなかった。
そこから博士は行方をくらまし[Spes]が世に放たれた。
[Spes]が全部でいくつあるかは知らない。
だが、公安にあるものは私と鬼塚さんがとある人から託された物だ。
([Spes]の何を掴んだんだ…博士。まさか最大登録数…か?)
「ぐっ。」
思考を止め、目を開ける。
展開していた結界にぶつかる少年。
「これ。なに。あなた、だれ。」
その少年を見た時…ひどく嫌悪感を覚えた。
あまりにも…望さんに似ていた。
「博士…あなたという人は…」
鷹見は自身のケースからカードを抜く。
「ここから先は通しませんよ」
「あなた。邪魔。」
エゴは空間を割く。
——第2支部
本部で交戦が始まる少し前。
鳴神が現着
「あの野郎…」
至る所に能力の跡。
忌々しい男の顔を思い浮かべながら階層を上る。
3階の1番奥。閉まっている扉を蹴破る。
「来たか真。相変わらずやんちゃだな」
インヴィクは高価な椅子に深々と腰をかけている。
「なぜこんなことをした」
怒りの感情を抑えつつ鳴神が問う。
「こうしたら真が怒るだろう。だからだ」
インヴィクは少し煽るように話す。
——ブチッ!
鳴神の抑えていたものが切れる。
「お前だけはここで殺す」
空間が歪む。
一瞬遅れてフィールドが展開される。
鳴神が雷に包まれる。
「眩しいな」
「ほざけ」
雷が落ちるかの如く殴りかかる。
インヴィクは視線すら向けない。
それでも——拳は、直前で止まる
それを見て
「こんなものか?前と変わってないな」
「お前もな」
(前戦った時より重くなってやがる)
インヴィクは右手を鳴神にかざす
「ゼロ」
鳴神は対象になる前に黄色い雷を纏い消える。
鳴神がいた場所にあった書類などが重力をなくし宙を舞う。
「相変わらず速さは一級品だな」
右手を下ろす。
宙に浮いていた物が一気に落ちる。
(重力を操作されたら俺でも逃げれないな…)
鳴神は、対象にされないように常に動き回る。
黄色の残光が部屋に溢れる。
「トリプル…フィールド」
インヴィクは両手を広げる。
インヴィクの周囲2mまでの物が一気に地面に落ち、ミシミシと音を立て潰れる。
鳴神は全く近づけなくなる。
「チッ!相変わらず厄介な能力だ」
部屋を飛び跳ねる。
足を止めたら、終わる。鳴神は止まらない。
「そうやって逃げ回っても無駄だ、いつか捕まる」
鳴神も避け続けるのは不可能と分かっていた。
飛び跳ねながら雷の軌跡を残す。
「…?徐々にスピードが上がってる…」
雷は黄色から徐々に紫に変わっていく。
「いくらでも速くしてやるよ」
もはや一本の雷と化す鳴神。
「前とは違うという事か、どこを狙えばいいやら…」
やれやれと半笑いを浮かべる。
「その余裕無くしてやるよ」
溢れていた紫の光が一直線の紫電になる。
——バリバリッ!
落雷かの如き轟音と共にインヴィクを貫いた。
「やるな…さすが俺の弟だ」
心臓を狙った鳴神だったが上からの重さにより狙いが逸れる。
「弟だと?2度と呼ぶな」
ポタポタと手から血が落ちる。
「お前の重力さえなかったら一撃だったんだがな。
——だが終わりだ。」
インヴィクの身体に紫電が走る
「グワアアア」
痺れでインヴィクが悲鳴をあげ踠く。
「紫電で一生痺れてろ」
「ハッハッハッハ!さすが真!」
「だがお前も私に触れたのを忘れるな!」
「なに?」
——ズン!
と真の体が重くなる。
体感でも倍ほど重く感じる。
「くそが」
インヴィクは痺れる身体を無理やり動かす。
「その状態でも逃げられるかな?」
両手を広げる。
「——ブラックホール」
インヴィクの前に小さい黒い球体が現れる。
(まずい…)
鳴神は危険を察知し全力で遠ざかる。
いつもより重い…
黒い球体からとてつもない引力が発生し、
全てが呑まれる。
「呑まれろ真」
「バカ言え」
鳴神は紫電を纏い、その上に赤い雷を纏う。
鳴神の肉体は限界を超え一時的に光のような速さに。
「ハハハ!時間は稼げた!また会おう!真」
——引力が止む。
「はぁはぁ、あの野郎無茶苦茶しやがる」
半径50mほどが、大きなクレーターになっている。
インヴィクにとって、街の被害など関係ないのだ。
鳴神は中心へ目を向ける。
中心には何もない。
立っていた地面だけが残る。
「……殺し損ねた。」
鳴神はその場に座り込む。
紫電と赤雷の反動で、しばらく動けない。
インヴィクの最後の言葉
——本命は本部か。
「本部…なにを狙ってやがる」
身体を少しだけ休めすぐに本部へ向かう。




